第6話

 お昼を回り、あと四時間もすれば彼女が返ってくるだろう。といっても、僕は彼女が居なければ特に何もすることがないので大人しく待っているほかないのだが。


 美鈴、可憐、美嘉、桜、祥子。


 今頃、みんなはどうしているかな?

 

 きっと美鈴は今でも生徒の模範となるような素晴らしい人間として生き続けているだろう。僕に甘えなくとも両親との和解はできたため僕の役割を両親はきっと果たしてくれているから美鈴はきっと大丈夫。


 可憐。可憐はあんまり心配ないだろう。可憐はもうクラスに馴染めているし僕という支えが無くなってもこの先も大丈夫だと思う。


 一番心配なのは美嘉だろうなぁ。美嘉は極度の不安症、心配性だから僕がいなくなったらもしかしたら前のように戻ってしまうんじゃないかって思ってしまうけれど、最近はそれも落ち着いてきていたし、多分、きっと大丈夫だろう。


 桜は今でも声優活動を頑張ってるのは知ってるから心配はしていないけれど、また心が擦れていないと良いな。最近はパタリと彼女の話題を聞かなくなってしまったし。


 祥子は.......っとその時丁度扉をノックされる。


 一体誰だろう?基本的に昼食や部屋の掃除以外で僕の部屋をメイドさんたちは訪れないし、さっき昼食を済ませたから用は無いと思うんだけれど。


「入っても良いですよ」


 そう言うと、がちゃりと扉を開けて入ってきたメイドさんは勢いよく扉を閉めてこちらへ振り返った。


「やっと、見つけた。見つけた、悟」

「しょ、祥子?いったいどうやってここに...........?」

「ずっと、ずっと会いたかった悟。私は悟とずっと一緒」


 相変わらず声が小さいし表情の変化は少ないものの喜びを爆発させているのが僕にギュッと抱き着き胸に頭をぐりぐりと押し付けているいることから分かる。まるで子犬のようで思わず頭を撫でると尻尾をぶんぶんと振るかのように体をくねらせた。


 鏡音祥子。


 彼女はハーフであり長い銀髪を持っている。艶やかな銀髪は彼女の日本人離れした顔立ちと合っていて非情に美しい。それ故に幼い頃は悲惨な目にあっていたが。まぁ、それはいったん置いておこう。背はそれほど高くなく桜といい勝負をしているんじゃないだろうか。胸は圧倒的に桜の方が上だが。本人曰く「悟に揉んでもらえば、Zカップも夢じゃない」らしいが、揉む気もないので頭を撫でることで勘弁して貰っている。


 そんな祥子の興奮は収まる様子はなく、数十分の間頭を撫で続けることによってどうにか落ち着きを取り戻し始めた。まぁ相変わらず膝の上を陣取って入るんだけれど。


「祥子、そのメイド服はどうしたの?」

「この家に潜入してメイドさんを優しく眠らせた後、その服を拝借させてもらった」

「..............まじかぁ」


 後で謝らないといけないなぁ。


「どうして僕が生きてるって分かったの?それにどうやってここを突き止めたの?」

「実は、悟が居なくなったあの日、駅で悟を見かけて..............」


 祥子はネット活動をしておりVtuberをしている。丁度その日は収録があったようで、その日の帰り道に僕の事を駅で見かけたらしい。そして、何処か遠くへ行ってしまいそうな雰囲気を僕から感じ取った祥子はそのまま静かに尾行していたようだ。


 僕が海まで来たところで声を掛けようかと思った祥子だったが、僕が彼女に声を掛けた事で人見知りな祥子は声を掛けられず様子をずっと窺っていたらしい。そして彼女に手を引かれ何処かに僕が連れ去られるのを見たようだ。


 だから、彼女は絶対に僕が死んでいないと確信し彼女が持ち得るあらゆる手段を使って何とかここを突き止めたらしい。


「というか、学校はちゃんと行ってるの?」

「行ってない。悟を探す方が大事だった。悟大好き」


 元々不登校だった彼女だったが、僕がそれを加速させてどうするんだ。せっかく彼女も前を向いて歩き始めたというのに。


 それとこの状況をどうやって彼女に説明しよう。きっと怒るんだろうなぁ。

 

 


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