第3話

「今日も悟が来ていない。どういうことなの?どこに行っちゃったの?連絡も取れないし」


 ジィっと他の人から見れば怒っているような顔をしながらスマホをガン見している少女が生徒会室にいる。


 他の役員たちはもう帰ってしまっており、生徒会室は電気もつけていないので部屋は真っ暗である。


 スマホの画面に映されていたのは、件の男である悟とのトーク履歴であった。


『今、時間空いてる?』21:12

『ねぇ、悟?』21:15

『通話しようって言ってたよね?何か別の用事が入っちゃったの?』21:16

『ごめんなさい。何か悪いことしちゃったりしたよね。本当にごめんなさい。だから返信だけでも返してくれない?』21:59

『お願い、返信して。不安で頭がおかしくなっちゃう』23:32

『ねぇ、お願い。お願いします。せめて既読だけでもつけて』1:11

『悟、寂しいよ。ねぇ、悟?私、死んじゃいそう。悟に無視されると何もかもどうでも良くなっちゃうの。ねぇ、助けて。悟』3:01


その後も美鈴から送信された言葉だけがトーク履歴を埋めており、悟からの返信は一切なく、もう一週間も経とうとしていた。


 こうしていても何も解決はしないと分かってはいるが、美鈴には何もできなかった。美鈴は悟の家も知らなかったため家で大人しく待つしかなかったのだ。


「悟、本当にどこ行っちゃったの?私の事嫌いになっちゃったのかな?それとも..............」


 と悟が何かに巻き込まれて命を無くしてしまうという最悪な事を考えてしまい、かぶりを振って、その考えを無くす。考えるだけで体が寒くなり、震えて動けなくなってしまいそうだったから。


 諦めてスマホの画面を閉じ、生徒会からでるとそこにいたのは見知った顔であった。


「ねぇ、あんた」

「何でしょうか、不知火さん」


 不知火可憐。


 他の生徒から不良とみなされている少女である。


 黒髪のウルフカットからちらりと見える耳たぶには、ピアスの穴がいくつも空いており他の人が近寄りがたい雰囲気を纏っている。顔は整っており一部の生徒は熱烈に彼女を推しているという噂がある。体は美鈴に比べると貧相であり、胸はAよりのBである。冷たく何者も寄せ付けない雰囲気を纏っている彼女は一匹オオカミと呼ばれている。


「あのさ、悟が何処にいるか知ってる?学校にも来ないし連絡も返してくれないんだけれど」

「いえ、私は知りません。私からも連絡は取りましたが返してもらっていませんし」

「..........そう」


 可憐はジィっと美鈴を品定めする様な視線を送り


「てっきりあんたが悟の事を監禁とかして独り占めにしているのかと思ったけれどどうやら違うみたいだね」

「…ッ私はそんなことしていません!!」

「..............はぁ、分かったから、そんなに叫ばないで。ただ、悟と最後に会ったのはあんただろうから疑ってただけ」


 と耳を塞いで心底嫌そうにする可憐。その様子に己が予想以上に取り乱してしまったことに気付いた美鈴は、大きく息を吸って落ち着く。


「あんたでもないとなると他の奴三人のうちだれかなんだろうけれど、どうにも違うような気がする」

「..............」


 悟からの連絡が一切無かったため自身が嫌われてしまったのではないかと不安でいっぱいになっていたためか、他の女が悟を独り占めしているのではないかという発想が美鈴の頭からすっぽりと抜け落ちていた。


 美鈴も可憐のように誰が悟の事を独り占めにしているのかを考え始めた。


 一番しやすそうな美嘉という陰湿な女が頭に浮かぶ。


「美嘉さんがしているという可能性は?」

「私もそれを疑って本人に聞いたけれど、彼女はまともに喋れないくらいにおかしくなっていたから違うだろうね」


 では誰なのだろうかと頭を悩ませるものの、彼の周りに良くいた虫について考える美鈴だったが全員がそうである可能性が高いため、聞きに行って回るしかないという考えに落ち着いた。


「では、他の人にも聞いてみようと思います。因みにですがあなたは悟君の家を知っていますか?」

「いや、知らないね」

「…分かりました」

「そうだ、別に必要はないと思ってあんた達とは連絡先を交換していなかったけれど、こんな事態になってしまったし一時的に連絡を取り合った方がいい」

「そうですね」


 こうして美鈴はようやく悟の事を探し始めることになったが、悟が死んだという話を聞くことになるとは思いもしていなかった。





 


 

 

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