第2話

「悟、今日も早めに帰ってくるから絶対に外に出ないでね?もし外に出ようとしてもメイド達に見張ってって言っているから逃げられないとは思うけれど」

「そんなことしなくても僕は逃げないよ。行ってらっしゃい、鏡花」

「行ってくるね。良い子に待っててね」


 でこにキスをして部屋から出ていく彼女を見送ってから、俺は真っ白で高級感のある天井を見つめて溜息を吐いた。


 さて、何でこんなことになってしまったのだろうか。

 

 遡れば死に場所を探して、あてもなくふらついていたあの日に戻らなければならないだろう。


 いつの間にか海が見える場所まで来てしまっていた僕は、先ほど部屋を出て行った彼女と出会ってしまった。


 何処か消えてしまいそうだった彼女に、思わず声を掛けてしまったのが間違いといえるだろう。驕り高ぶってどうせ死ぬのだし彼女も助けることによって出来るだけ罪を軽くしようなんて思った僕が馬鹿だったのだ。


 そこから色々あって、彼女の家に連れていかれ彼女の問題を解決まではいかなくとも落ち着かせることが出来、やっとの思いで解放されると思っていたが、聞かれてしまったのだ。


 僕の「あぁ、これでやっと死ねるか」という独り言を。


 そこからというもの彼女は僕を見張り続けた。彼女の家はとんでもないほどのお金持ちであり、行ってしまえば権力者でお嬢様だった。そんな彼女は「悟の望みを叶えてあげる」と言い放ち、僕を書類上死んだことにしたらしい。権力者って凄いね。僕の存在何ていないことになっちゃうんだから。


 きっと叔母さまは僕が死んだことでスッキリするだろうし、お金も貰えただろうから良いこと尽くめだろう。


 もういっそこの部屋で死んでやろうかと思いもしたが、彼女はそれも見越してクッション性の柔らかい物しか置いていない。それにメイドさん達が僕の事を監視しているので下手にそんなことはできないし、もししてしまったら「もしあなたが死んだら絶対に後を追って死ぬから。私を殺したくはないでしょう?」とそんな脅迫めいたことまで言われてしまったならどうしようもない。


 彼女は僕と同じように死にたがっていた口だから、本当に僕が死ねば死ぬだろう。自身を人質にして僕を生かすなんて狂気の沙汰としか思えないが彼女はそう言う人なのだから、それも今の時代風に言えば多様性というものなのかもしれない。


 そんな自身を軽んじている彼女の容姿はというとかなり.........いや、完璧と言っても良いと言える。


 生徒会長の美鈴より所作から品がにじみ出ており、顔は人形師が半生を掛けた超大作と言えるのではないかと思える程、精巧に作られており国宝級だと言える。ボブカットの黒髪は艶やかであり、鼻は高く、目は他の女子高生から見れば喉から手が出る程欲しがりそうな大きく可愛い目である。


 プロポーションこそ美鈴に負けはするだろうが、それでも十分すぎると言えるほどの胸をお持ちである。


「悟様、いらっしゃいますか?」

「いますよ。どうぞ、入ってください」


 きっとメイドさんだろう。


 部屋を開けると、これまた美人なメイドさんがいる。


「昼食はいかがしましょうか?」

「何でも大丈夫ですよ.........っていうのは困りますよね」

「そうですね」

「昨日と同じメニューで大丈夫ですよ」

「かしこまりました」

 

 恭しくお辞儀をして、部屋を去っていくメイドさんに別れを告げてこれから先の事を考えることにしよう。


 さて、今僕の状況は粗方整理できたわけだが、まずは彼女の事を僕が居なくても大丈夫なようにしなければならないだろう。そうしなければ、僕は一生このまま死ぬこともできずに飼われ続ける。


 それは、一般の男性から見ればあんな美人な女の子に一生面倒を見てもらえるのだから羨ましいのかもしれないが、僕はさっさとこの世を去りたいのである。であれば、彼女の精神をこれから何年かかるか分からないが直し続けなければいけないだろう。


 .........一体何年かかるのだろう。


 あぁ、そう言えば、美鈴にあの日連絡しようと言っていたのに結局、連絡が取れていないまま、僕は死んでしまったことになっている。悪いことをしてしまった。


 今頃、元気に暮らしているだろうか。


 そうならいいな


 






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