第三部
第19話 高校編スタート
~自宅近郊の道路~
あ、立ちくらみがする。
グラグラと視界が揺れ、崩れ落ちる。
と思ったところ、肩から腕にかけてをがっちり掴まれ支えられた。
力強く頼もしい感覚と、“ふわっ”と良い匂いがし、その主を見る。
「大丈夫? 一美ちゃん!」
心配そうに、そして優しく尋ねてくる私の友人。
「ん、ありがと。ちょっと目眩がして…。」
そこには、高校の制服を着て少し若返った美少女の藤宮塔子ちゃんがいた。
~~~~~~~
私、佐藤一美は、いつもどおり友人の塔子ちゃんと登校していた。
すると、突然目の前が真っ暗になり・・・電撃とともに誰かの記憶が流れ込んできた。
膨大で同質の自我情報が大量に押し寄せ、自我(アイデンティティ)が混濁し、立っていられないくらいの目眩に襲われたのだ。
どうしてこんな事が起こったのかは、全く心当たりが無い。
特に体調不良も無く、夜更かしもせず、朝食もちゃんと食べた。
強いて言えば、自分で言うのも憚れるが、この容姿のため日々のプレッシャーが相当なものだと言うくらい。
高校入学後からは特に酷く、ストーカー行為等は家族や友人の協力でやっと落ち着いたところだった。
高校入学?
あれ?
そう言えば、俺(おれ)も制服でスカートだ。
小っ恥ずかしくて顔が火照る。
「本当に大丈夫?」
と心配そうな塔子ちゃんから少し距離を取り、独り立ちする。
「ごめんね心配かけて、もう大丈夫だよ。ありがとう」
「 ? 」
不思議そうな塔子ちゃんをよそに、先へと歩を進めるが、思うように体は動かない。
それでも“ふらふら”と前へ進むと、ぐっと腕を掴まれた。
「しょうが無いな~、はい、つかまって!」
塔子ちゃんは、俺の手を取り自らの腰に回した。
「 ん!? んん! 」
二人の体が密着する。
近い近い近い近い!
これは、ほんとうに良いのだろうか? 許される行為?
ま、まぁ本人が良いのなら良いのかな? 女子同士だし?
塔子ちゃんは慣れた感じで、特にこの密着具合を気にもしていない。
「おはよう~、どうしたの? 今朝はさらに熱々だね?」
「「おはよう、今日子ちゃん」」
3人でしばし見つめ合って笑顔がこぼれる。
鈴木今日子ちゃんも合流し、いつもの3人娘が揃った。
3人になったところで、自然と3人で手を繋ぐスタイルに変更していたが、なぜか俺は真ん中だった。
まだ、体がフワフワしており、体感は”夢”っぽいが歩を先へ進めた。
3人なら怖くないし。
△△
大通りに出ると、黒ビカリの大層な車が止まっており、おもむろに後部座席のウィンドウが下りた。
「一美~! 今日も三人づれかよ! ・・・って、ん?」
「おはよう田中先輩」
と俺はか弱い声で朝の挨拶をしたが、他の二人はガン無視だった。
「ん? 顔を色が悪いな。 ・・・乗れよ!」
「いや、いいです、、、」
「良いから乗れ!」
「乗せて貰う理由も無いですし・・・。」
「婚約者だから! これって何回言わせるんだ!」
「親同士が大昔に言った戯れ言ですよ…。」
「ちっ、まだ言うか! ・・・もう良い、出せ!」
このやり取りも何回あったことか。
まぁ、あいつなりに心配してくれる事は分かるが、ありがた迷惑だな。
両隣の二人も慣れたもので、特にこれ以上の反応をすることもない。
田中先輩は、一つ上の先輩で自称俺の婚約者だ。
そして、田中コンツェルンの御曹司…だったか?
なんかそんな感じの大金持ち。
△△△
校門の近くまで来ると、登校する生徒が増えてきた。
その中で特に目立っているのが・・・磯谷くん!?
磯谷…良く知って人だったかな?
その磯谷くんはまるで貴公子のようで、制服もよく似合っている。
女子達が振り返って二度見している様(さま)が羨ましい。
え?・・・羨ましい?
何か変な感情だな。俺が、男子に羨ましいなんて・・・。
そう言えば、一人称が“俺”になっているような気がする。
徐々に体調は回復しているが、まだ少しもやもやする。
私は、オレっ娘だったかな?
「佐藤さん、藤宮さん、鈴木さん、おはよう!」
少し照れたように挨拶する磯谷くん。
うんうん、初奴だ。
「どうせ、私たちはついででしょうけど」
と嫌味を言う今日子ちゃん。
「そ、そんなことは…無いのだけれど…。」
しどろもどろの磯谷くんは、そもそも引っ込み思案な性格だ。
うん、そうそう思い出してきた。
「ふふふっ、おはよう磯谷くん!」
思わず笑ってしまったが、恋愛のベクトルが透けて見えておかしい。
「一美ちゃん、何笑っているのよ。貴女も当事者なのよ」
今日子ちゃん、、、俺に当たらないでほしい。
「ええ~! 俺、私は別に挨拶を返しただけだよ~」
登校中の生徒の視線を一身に受けつつ賑やかな一日が始まった。
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