第20話 先輩って?
~高校~
教室での俺の座席は1番後ろの窓際だ。まったりして良い感じ。
さらに、高校1年の授業なんて俺にとっては簡単楽勝! 高校生活は安泰だ。
でも、手を抜いたりはしない…たぶん。
学校側も俺のそう言う気質を見越しての配慮だろう。
つつがなく午前の授業を終え、3人娘で食堂へ行く。
長机の隅っこに陣取り、弁当を広げる。
もちろん、学食なので持ち込みは禁止されていない。
ちなみに、食堂内は充分に広く、正式なルールでは無いが何となく2年生、3年生とゾーンが分かれている。
はずなのだが、、、、
「一美! こっちに来い!」
と田中先輩が大声で呼ぶ。
また婚約者面している。
本当に懲りない人だ。
ここは一つ言い返しておこう。
「だから~、違いますって! 親同士が大昔にre…。」
「良いこと聞いちゃった。ここ空いてる?」
と隣のクラスの松田奈々ちゃんがニコニコしながらランチを持って来た。
奈々ちゃんは、隣のクラスで一番の可愛い女の子で人気も高い。
「どうぞ、空いてるよ!」
と軽快に答える塔子ちゃん。
二人は、中学の頃から仲良しだそうだ。
「それでそれで?」
「え? 何が?」
「佐藤さんの婚約の話よ! そこ詳しく!」
お、俺のことか~い!
後ろの方で田中先輩の頭から湯気が出ているが、無視を決め込み、女子だけで会話を進める。
「うん? 詳しくって言っても、婚約していないし、する気も無いって話なんだけれどね」
と俺は小首を傾げつつ簡潔に述べた。
「可愛い~! じゃ~、争奪戦ね! 激しい戦いになるわよ!」
「争奪戦? 一体、何の話?」
「残念、売約済みで~す!」
と、しれっと塔子ちゃんが宣言し、俺の肩を抱き寄せる。
塔子ちゃん、ちょっと意味が分からないです。
「塔子は駄目よ」
「え~なんで~」
今度は、奈々ちゃんと塔子ちゃんがくっついている。
二人の美人さんがイチャつくのは実に微笑ましい。
3人娘も楽しいが、4人も楽しい!
~~~~~~~~
「あれあれ、実に華やかだね~。僕も仲間に入れて貰おうかな?」
唐突に2年生の立花先輩が奈々ちゃんの隣に座った。
こ、こいつはなんて無粋な奴なんだ。
女の園にズカズカと入り込んで!
田中先輩とは別方向の嫌さ加減だ。
無言でさっさとご飯をかき込む。
「ごちそうさまでした。はい、解散ね」
と言って強制的に解散させた。
「え~、そんな~」と言う立花先輩を尻目に4人娘で席を立ったが、奈々ちゃんが名残惜しそうにしているのが気になった。
まさか、あんなのが良いのか?
確かに外見とか人当たりは良さそうに見えるが…、
絶対止めておいた方が良いから!
~~~~~
さて、俺はコーヒーを二人分持って2年生のエリアを進んでいる。
あ! いたいた。
独りで黄昏れている田中先輩が!
”たまにはサービスするか~”と思い立ち、食後のコーヒーを差し出した。
「ホットオーレで良かったよね?」
と、さも自然に対面に座った。
俺はもちろんエスプレッソ。
「あ?…う、、、き、来たのか!?」
豚が豆鉄砲くったような顔で俺を凝視する田中先輩。
「たまには…、ね。」
と少し照れながら言ってみた。
「ふふ~ん」
フリーズから解凍し、逆に気色だって気持ち悪い豚、じゃなくて田中先輩。
まぁ、分かりやすい奴だ。
そう言う意味では立花先輩より好感度は高い。
と言っても、もちろん底辺の争いだけれどね。
二人で他愛の無い会話をしつつ、エスプレッソを一口・・・。
「にが~い!!」
何これ? 苦過ぎるだろ!
思わず吐いてしまいそうになった。
よくこんなもの飲んでいるな・・・あれ? なぜ俺は注文したのか?
習慣?
”ぶっ!”と俺を見て吹き出す田中先輩。
「お前な~、エスプレッソって何か知らずに注文したのか?」
「うう~、失敗しちゃった」
そんな俺を見て、珍しく朗らかに笑う田中先輩。
こんな奴に駄目な子認定されてしまったのだろうか。
「一美~。お前なんか雰囲気変わったよな。良い意味で。」
「(ドキ!!) そ、そうかな? 自分では分からないけど」
「あゝ、そう言うところも変わった。」
なぜか照れて下を向く田中先輩。
はて? こいつが照れるタイミングだったのだろうか?
△△
午後の授業も何事も無くつつがなく終わり、時が進むにつれ俺の記憶の違和感は徐々に収束していった。
そして、いつものように帰路についた。
「ただいま~」
自宅に帰ると、パタパタとお母さんが出迎えてくれた。
「おかえり~、今日はどうだった?」
「ん、特に何もなかったよ。」
「そう、じゃ~手を洗っておやつにしましょう」
母は、俺を”ぎゅっ”と抱きしめ安心したように笑った。
そんな母から抜け出し、俺は和室の仏壇をチラ見して洗面所に向かう。
仏壇…、お父さんの。
仏壇の位牌には、“佐藤一美”と記されていた。
私が生まれた日に交通事故で亡くなったお父さん。
産気づいた母の入院先に向かう途中、手を引いていた二人の兄を暴走車から守って死んだと聞いている。
だから、この話題は両兄の前ではほぼ禁句になっている。
そして、その兄二人は父の名を受け継いだ私を父の代わりのように溺愛してくるのだ。
~~~~~
母と二人で、コーヒーゼリーにアイスを乗せておやつタイムを楽しんでいる。
一日の中でこの時間が一番好き!
おやつはもちろん日替わりだが、毎日母が工夫してくれるので楽しみで仕方が無い。
今日のコーヒーゼリーという選択は渋くてナイスだ!
(コーヒー好きなのか俺?)
「ただいま~」
竜二兄さんが帰ってきたようだ。
俺は、“とととっ”と早足で玄関へ向かう。
「おかえり~、今日のおやつはコーヒーゼリーだよ~」
と笑顔で竜兄を出迎えると
「今日も何も無かったよな?」
と、いつものようにまずは安否確認から入る竜二兄貴。
うちの兄は、どうもシスコン気味だ。
ストーカー事件が解決し?もう数か月が経っている。
「大丈夫だよ~」
と笑って兄を招き入れた。
このやり取りは、啓一兄貴が帰って来た時にも繰り返される。
この調子なら、私が嫁に行くときにはどうなるんだ?
・・・嫁?
まぁ、無いな。
うん、深く考えるのは止めよう。
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