第17話 好事魔・・・。

長い一週間が終わり、楽しい週末が来た。

今日は、嫁さんといつものデパートへ行って例のパネルを確認する事と、可愛い仕事着を補充したいと思う。

なんだかんだで楽しみだ。

もしかすると、身体が精神に影響しているのかもしれない。

まぁ、元々可愛いものが大好きなんだけどね。


さて、嫁さんの若作りコーディネイトに合わせ、俺も多少可愛い服装で行くのだが、さすがにスカートは抵抗があるな。

オフィスにもはいている人は居るのだけれど少数派だし。


「・・・・まぁ、今日ぐらい良いか。外見は女子高生だものね」


そんなこんなで、心配そうな啓一と竜二に送り出してもらい家を出た。

特に、竜二はボディーガード役でついて来ると主張していたが、こういうのは女子だけで行った方が良いものね。


~~~~~~~~~~


△デパート 化粧品売場△


「うわ~、これか~」


「あらあら~、超可愛い~」


パネルは嫁さんにも高評価だ。

塔子ちゃんから聞いていたパネルは思ったより大きく、うん、確かに可愛いな。俺の理想を全て詰め込んだ姿だものな。

適当に何枚か撮っていたと思っていたけれど、上手いものだね。

それにしても綺麗な肌だよな~。

そして髪の感じが自然で良いわ。

感心して見ていると、例の店員さん(東さん)が”とととっ”とやって来た。

パネル化の謝罪と今後の提案されたが、俺としては塔子ちゃんに全て任せているので、早々に切り上げてもらった。

プロのモデルになる気も無いし、専属など責任の重い約束も出来ない。


ふと気がつくと、俺たちを取り囲むように人だかりができていた。


「美冴ちゃん、結構な人気ですよ!」


と店員さん(東さん)に告げられたが、実感が湧かない。

芸能人じゃ無いのだから、人気?と決めつけて良いのかな~。

”美冴”が芸名みたいになっているけれど、そう言えば本名を言ってなかったね。

HNと言うことで良いのかな?


そうしているうちにも”ザワザワ”と周りの声が聞こえて来る。


「実物、めっちゃ可愛い~」

スッピンなんだけどね、今は。


「小柄で、顔ちっちゃくて、可愛い~」

パネルが大きいからかもよ。


「髪きれい~、可愛い~」

最早、化粧品と関係無くね?


東さんの提案で、パフォーマンスとしてリアルタイム化粧をすることになった。

東さんが指示し、店一番の女(こ)が腕を振るう。

売り出し中の化粧品を使うのだが、基本的に薄化粧で充分なんだけれどね。。。

ベタベタ塗りたくられるのは好きじゃない…。

が、嫁さんは見返りを期待しまくっているのだろうな~。


~~~~~~


さてさて、完成したら簡易舞台に立たされ、お披露目が始まる。

かる~くポーズを取るのだが、チラ見で店員さんの真似をする。

だって、ポーズなんて知らないもの。

だけど、やらないよりは良いのかな?


「「「「 ワ~! かわいい~ !!!  」」」」


拍手とともに、声援が響く。

反響が大きい。

ふっ、悪い気は、し・な・い。


舞台を降りると、嫁さんはモニタリングで新作?の製品を施されているところだった。(まるで手術だな)とは口が裂けても言えない。

観客が多い中、”ぼ~”と待っている訳にはいかないので、ちょっと、時間つぶしにお花を積んでお茶でも飲もうかな。

東さんに頼んで従業員用のトイレに連れて行ってもらった。


△△


「あ~、化粧も悪くないかも」


洗面所で身嗜みをチェックしていると、不意に人影が鏡に写る。

あれ? 男?

ここは女子トイレだったよな?

それにサングラスにマスクって如何にも危なそうな感じ・・・。


” !!!! ”


なんだ!


何が起こったか分からなかったが、羽交い締めにされ、後ろからハンカチで何かを嗅がされた。

ち、力が抜けて、い、く。

クロロホルム※か? 麻酔薬か?

ジタバタ抵抗する間も、不審な男はベタベタと体中を触りやがる。

ち、痴漢か!?

それにしては計画的・過・ぎ・る。


「良い匂いだよ~、美冴ちゃ~ん」


気持ち悪いのに意識が飛びそうだ。

まずい。まずい。まずい。まずい。

脳内のアラートが鳴り、ほんの少しだけ力が戻る。


か、体を捻って肘打ちを食らわす。

上手く脇腹に入り、怯んだところで拘束から逃れられた。

あ、頭が、くらくらする。


だが、これがラストチャンスだ。

全力を右こぶしに乗せ、ショートフックを相手の顔面に叩きこむ。

”バキっ”の音ともにサングラスが吹っ飛んだけれど、少しふら付いただけで倒れもしない。

殴ったこちらの方がダメージがでかそうだ。

右拳の激痛が朦朧とする意識をなんとか持ちこたえさせている。


「 痛い! 」


思わず口から漏れた。

さらなる激痛が右腕を走る。

見ると、右手が違う方向に曲がっている。


「イタタタ、すまん、救急車を呼んでくれ!」


「あ! え! はぁ?」


「いいから早くゥ! 折れてるかも!」


「わ、わ、わ、分かった。」


そう言うと犯人はスマホを取り出しながら走り出した。

見覚えのある奴だったが、はっきりとは思い出せない。


俺は、フラフラになりながらもトイレを抜け出し、廊下まで出た。

意識が飛びそうだ。

ああ~、遠くで人の声が聞こえる。

もう少し、もう少しだけ…。


”ブチン”


とスマホからいつか聞いた音が鳴ったと同時に俺の意識は深く沈み込んだ。


△△△


目が覚めると、白い天井が・・・。

どうやら俺はベッドに寝かされているようだ。

傍らには嫁さんが、こっくりこっくりと転寝(うたたね)している。

相当時間が経ったのだろうか…。


右手首・・・、あゝ、ギブスで固定されているが、痛みは無いな。

ん?

なんだ?

ゴツゴツとしたこの手は?

あれ?左手もだ。

俺は慌てて顔に手を当てる。・・・ヒ、ゲ?

髪の毛を触ると・・・、短いな。


これは、所謂、”おっさん”だ!


元の姿に戻った。


~~~~~~~~~~~~~~~

俺は、傍らの嫁さんを”ゆさゆさ”と揺らして起こす。


「あら、お父さん! お帰り! 」


「お、おう! ただいま!」


意外にも二人とも冷静だ。

嫁さんは、嬉しそうな半面、少し寂しそうにも見える。

俺は、照れくさいのでなんだか苦笑いを浮かべた。

病院でどれくらいの時間が経ったのか気がかりだが、ちょっと能天気な嫁さんの顔を見て嬉しくなった。


そうか~、一美ちゃんはおしまいか…。


※昔のドラマ等で出てきますが、そのような効果はありません。

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