第11話 北村女史 PV1000over感謝

△北村冴子視点△


~オフィス化粧室~


今日から一美ちゃんが出勤する。

だから、年甲斐も無く”勝負下着”を着て来た。

おかしいよね?

自分でもそう思う。

17~18歳の女の子に対して、アラサーの私が勝負下着なんてどうかしている。

鏡の前で最終チェックをしながら思考を巡らした。


「 良し! 」


出来た。

こんなに気合が入るは何年振りだろう。

見栄えを多少良くしたからってどうにもならない。

そんなことは分かっている。

けれど、やらずには居られない。

そんな事を思いつつ、私はいつもより早く自席に向かった。


「お早うございます。北村主任」


意外だが、磯谷くんがすでに出勤しており、課長席を掃除していた。

”くそ、その手があったか”

内心の苛立ちを隠しつつ軽く挨拶を返した。


「主任、折り入ってお願いがあるのですが!」


今どきの男(こ)の磯谷くんが珍しく真剣な口調だ。


「・・・何? あらたまって」


嫌な予感しかしない。

こいつ、私の気合の入り具合が分からないのかしら・・・。

磯谷くんだけではないけれど、男のこういうところが嫌いよ。

自分ファーストって言うか・・・。


「今から一美ちゃんを迎えに行くと察しますが・・・、僕と代わって下さい!」


「はぁ~!」


「お願いします!」


「あのね~、一美ちゃんを説得したのは、私なの! わ・た・し!

 当然、私が行くべきでしょう!」


「でも、決め手は僕の佐藤家突撃でしょ?・・・だったら僕にも権利があると思います!」


”チッ”


「そうだけど、・・・私の発案と、工夫で」


「お願いします! 僕なら一美ちゃんをエレベーターでも守れると思うんです!」


くそ、台詞を最後まで聞くこと無く被せて話しやがって、、、これは絶対に押し通すつもりだな。

こいつにこんな根性があったのか?

いや、待て、少し冷静に考えよう。

一美ちゃんが磯谷くんになびくことは100%無い。

絶対にない。

だったら…。


「分かったわ。磯谷くんがそこまで言うのなら任せるわ」


「本当ですか! ありがとうございます主任!」


「その代わりこれは貸よ。絶対に後で返してもらうからね」


「・・・分かりました!」


喜んで飛んで行ったな、磯谷くん。

だけど、残念ね。報われることは無いわよ。

だって、・・・。


~~~~~~~~~~~~~~


しばらくして、一美ちゃんが階段方向から社内へ入って来た。

少し遅れて磯谷くんが肩で息をしながらやって来る。

階段で来たのね! 

流石は一美ちゃん! ナイス判断ね。

そして、磯谷くんの後に男どもがぞろぞろと連なっている。

どいつもこいつも息が上がっており、顔色が悪い。

ふふっ、身の程を知れ! 腑抜けども!


「おはよう~」


一美ちゃんの鈴のような声色が響く。

自然と課員は立ち上がり、感想交じりの挨拶を返した。


さて、忙しい一日の始まりだ。

私は、気合を入れ直した。



△△


~昼休み~


昼食を食べ、昼休みが終わろうとする頃、一美ちゃんの爆弾発言があった。

それは、”スマホアプリでTSした”と言うものだ。

他課の者は信られないかもしれないが、私達営業第一課の者には充分に信じられる話である。

もちろん、”アプリでTS”の部分では無く、”一美ちゃんが佐藤課長だ”と言うところがだ。

実際に、先日のプレゼンの時も、今朝の事務仕事も一美ちゃんの仕事振りは佐藤課長のそれだ。

佐藤課長にしか出来ない判断がバンバンなされ、決裁に書かれていく筆跡が全く同じだったのだから・・・。

”ふふふっ”

であれば、私は迷うことなく男になる。


これは、良くある変身願望とは違う。

女であることは時に不利であり、面倒くさい事も多い。・・・いや、多すぎるが、これらは決定的な理由ではない。

なぜなら、私は充分独り立ちし、自立し、これらを克服して生きて来たからだ。

けれど、守る者が出来た今、より強い肉体であり、彼女を愛せる肉体が必要だ。

あ! 真顔で言うと赤面してしまう・・・一美ちゃんと!?


と、ともかく、一美ちゃんは私にチャンスをくれ、助け、守ってくれた人だ。

もう運命の人と言っても過言ではない。

だから、これからは私が一美ちゃんを守るのだ。

可憐な彼女を汚い野郎どもから守る。

そして、出来ればともに生きていきたいと思う。

塔子にも磯谷にも渡したくはない。


△△△


「一美ちゃん、ちょっと良い?」


私は、TSアプリのくだりを聞き出す為に、一美ちゃんをホールに呼び出した。

ちょっと困った様な顔をしている一美ちゃん。

でも逃がさないよ。

一美ちゃんを壁際に追い込み、壁に手を当てた。

あ! これって、壁ドンだ。

自分でやっていてなんだが、顔が火照る。

そして、モジモジしている一美ちゃんが可愛い。

でも許さないよ。


「さぁ、教えてちょうだい一美ちゃん!」


~~~


「ああ! ここにいたのか!」


と聞き慣れた声がするので振り向くと山本次長だった。


「おいおい、北村くん、若い子を虐めちゃだめだぞ~」


とニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

(そんなんじゃないゎ)と心の中で吐き捨てるが、冷静に用件を促す。


「え~と、一美ちゃん?(だよな) お客が来るから席にいてね」


「「 え! 」」


一美「あの~、お客って誰ですか?」


「○□社(株)の菅原部長って方だよ。どこで知り合ったんだろうね?

あ~、心配しなくても、お茶を入れてもらう程度だから。ね。よろしく!」


明らかに嫌そうにしている一美ちゃん。

それに、若い女を茶くみ程度にしか思っていないのか?

老害だ、老害!


やはり、彼女を守れるのは私だけだ。

男になってやる!

絶対に!

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