第7話 加工女、去る!

PM、部下達を指導しつつ、溜まっていた決裁を処理し、書類の整理に追われる。

夕方になり、一通りの整理が付いた。


「これは重要、こっちは廃棄、私物は持って帰るしかないか…」


今一度フロアを見回す。


26年か~。


長いようで短かったな。


ちょっと泣けてくる。


「一美ちゃん、ど、ど、ど、どうしたの? どこか痛いの?」


田中係長(独身)が、ドギマギしながらこっちを覗っている。


「あゝ、ちょっとアクビしただけ(嘘)、なんともないよ、ありがとう」


「そ、そう? だったら良いけど…」


「うん。」とうっすら微笑み返し。


田中係長は、まだ何か言いたそうだ。

一呼吸も二呼吸も置いて意を決した田中係長が口を開く。


「あ、あの~、この後、食事でもどう?」


「はぁ? いやお前、鈴木さん狙いだろ!」


 「 え!~↘ 」迷惑そうな鈴木さんの声が響く。


「え、あ、うっ、その、え~と」


「普段、俺を誘ったことなんか無いだろうに!」 ぷんすか


「う、う、うう、すんません」


「はぁ~、まぁ、その勇気は認めてやる。次回は頑張れ!」


“しゅん”と落ち込む田中係長。

なんだか心配になって来たな。

俺、居なくて大丈夫か?

できれば、後一日でも・・・。


“トゥルル~、トゥルル~”


内線電話だ。

ゲートの受付から、竜二が迎えに来ているとの知らせだった。


「さて行くか! 今日一日ありがとうな、皆!」

 

「「「「「「「 え! 」」」」」」」」


俺は、荷物を持ち席を立つ。


「か、一美ちゃん、明日は? 明日も来るよね?・・・」


北村女史が珍しくこんな台詞を言った。

北村女史が出勤を願っているのは、…悔しいが“一美ちゃん”の方だな。


月曜日の次は火曜日、火曜日の次は水曜日、いつも通り日にちは進んでいく。

一美ちゃんに明日は来るのだろうか?


塔子ちゃんは、涙ぐんでいる。

おいおい、“俺”に惚れているんじゃなかったのか?


「ふふふっ、バカ言うな。こんな姿でいつまでも来られる訳ないだろ?

まぁ、元の姿に戻っていたら来るけどな。」


「荷物、下までお持ちします!」


「そうか? 悪いな磯谷。お言葉に甘えるゎ。力が無いんでなこれでも」


「見たまんまです」


ドッと課内で笑いが起こった。


~~~~~~~~


磯谷と一緒にエレベーターに乗り込む。

就業時間中なだけあって、エレベーターはがら空きだった。

つまり閉鎖空間で二人きりだ。

磯谷は、チラチラこちらを見てはため息をついている。

そして、遂に会話は無かった。


1Fゲートでは、竜二が待っていた。

なんかちょっとお洒落にしてないか竜二?


竜「一美ちゃん!」


一「待たせた? 悪いな竜二」


磯「え!誰?」


一「あゝ、家の次男だ」


磯「そ、そう、なの・・・」


竜「・・・」


磯「あの~、一美ちゃん? そのLaインとかって交換しない?」


一「馬鹿だな。もう俺の番号知っているだろう?」


磯「はははっ、そうか! 課長の番号なんだ。でもその設定ってまだ続けるの?」


俺は、笑顔でもって回答した。


一「ふふふっ、じゃ~またな! 皆にもよろしく!」


磯「はい、課長! 明日もお会いできる事を願っております!」


なぜかビシっと敬礼する磯谷。


俺は、振り返らず回転ドアをくぐった。


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