第4話 加工女出勤する!
~翌朝 親父目線~
「行って来ま~す!」
嫁さんと竜二に見送られ、啓一の車に乗って出勤する。
ちなみに、嫁さんに薄化粧をしてもらい、昨日買ったスーツを着込んでのフル装備だから、多少は大人っぽくなっている。
「悪いな、送って貰って」
「あゝ、うん、まあ、別に大丈夫だよ」
何照れてるんだこいつ。
家に泊まったのは良いが、こいつも目がギンギンじゃねーか。
早く彼女作れよ。
車から降り、運転席側に回る。
「じゃ、行って来るわ。お前も出勤遅れるなよ」
「あゝ、うん。…、…、…、え~と、一美ちゃん?」
「ん? なんだ?」
「本当に、ここへ行くの? 大丈夫? なんなら付いて行こうか?」
「おいおい、優しいじゃないか。だが、まぁ~心配すんな。俺はここで稼いでお前らを育て、嫁さんを養って来たんだ。大丈夫だ」
「・・・・(親父? まさか? マジで!)」
~~~~~~~~~~~
腹は決まった。
啓一の心配そうな視線を背中で感じながら、俺はオフィスビルに向かった。
いつもどおりビルの回転ドアを通り、中央ゲートへ向かう。
ゲートでは社員証をかざし、警備員さんに軽く挨拶する。
俺にとっては、いつもの警備員のおじさんだけれど、警備員さんにとっては初対面。
目を見開いて固まっている。
我に返って、やっと「え!うっ、」と何か呻いていた・・・無理も無い、高校生が来るような場所じゃないからな。
が、ここはスルーだ。なんせ社員証がある。(首からブラ下げている)
俺は、素知らぬふりで、奥へ進み、エレベーターに並ぶ。
すると、居合わせた人達が一斉に俺を注視した。
やはり、ここでも目立っている。
知っている顔もチラホラあるが、知らんプリ、知らんプリっと。
「おいおい、誰だよあの女(こ)?」
「え? どこの部署の子」
「いや、知らねーし」
「まじ可愛い」
「新人じゃね?」
「可愛い~」
「ら、ライバル登場ね」
「惚れた」
「学生さん(インターン)じゃね?」
「やばい、良い匂いする~」
ざわざわとエレベーターホールが騒がしい。
“チ~ン”
エレベーターが何基か到着し、整列順に皆淡々と乗り込んで行く。
直ぐにほぼ満員となった。
エレベーター内は、なぜか俺の周りだけ妙に空間が空いており、ほんわかと野郎どもの幸福感が漂う。
そこへ、空気の読めないおばさんがズカズカと乗り込んできた。
ほんわか空気が緊張感に変わる。
ぼそっと「空気読めよ!」と誰かが呟いた。
ん?
聞こえたのか、おばさんが俺を睨んでいる?
完全に冤罪だろこれ?
おばさんにぐいぐい押され、隣の若い男性に密着してしまう。
やばい、野郎の体温がキモい。
“チ~ン”
着いた。
僅か数分の事だが、彼に「ごめんね」と行ってエレベーターを降りた。
彼が「あうあう」と言葉にならない何かを言っていたが、気にする暇(いとま)はない。
急いで廊下を進む。
一緒に結構な人が降りたようだが、このフロアで見たこと無い奴らが混じっていたな。
はぁ~、まぁ良いか。
話しかけられることはないだろう。
見るだけなら罪にできないしな。
強化ガラスの社内扉を開け、我が課内を一見する。
うん、いつも通り。
末席から大回りして上席の方へ抜け、課長席にどかっと腰を据える。
“営業第一課長 佐藤一美”
ここが俺の席だ。
△△
~営業第一課~
課員はもう全員出勤していた。
今日は、お得意企業への大事なプレゼンの日だ。
嫌でも気合いが入る。
特に主任の北村冴子はこの企画にかけている。
成功すれば昇任は間違いなしで、同期の女子の中では頭一つ抜きん出る事になる。
まぁ、才女って感じで、浮いた話の一つも聞いたことがないほど仕事熱心だ。
次に磯谷直人、こいつは若手だがテクニカルに長けており、中々のイケメンだ。
この二人がこの企画のメインで、後の課員はサポート役となっている。
「おはようさん」
俺は、フロアの中央かつ窓際の一際目立つ席に座り、いつもの口調で挨拶をした。
口から出たのは鈴を振ったような声なんだけれども・・・。
「えっと、お嬢さん? 何のご用かな? 部外者はちょっと・・・、」
部下の磯谷が、引きつり顔ながら優しく声をかけてきた。少し嫌味っぽく言ってやろう。
「はぁ、何言ってんだ磯谷、上司の顔も忘れたのか?」
「え? はぁ~? 何って…。」
「磯谷くん、こういう子には優しく言ったって駄目よ!ビシッと言わなくっちゃ!」
あゝ、北村女子は、さすがに厳しいな。
女子達に一目置かれているだけのことはある。
が、敢えてここは凹ましてやろう。
「北村さん、俺に“ビシッ”と何を言うんだ?」
「え! なんで? 私の名前まで知って…、」
「良いから座れ!」
ちょっとドスを効かせつつ(でも鈴の音)、周りの者にも目で威嚇する。
「まぁ、この様(ざま)だから、今日のプレゼンは北村さん!お前が仕切れ!」
俺は身振り手振りで自分の姿形をアピールした。
課員の男どもは、少し照れた様に顔を赤らめる。
「え! はぁ?」
流石、北村女史、反応が良いな。
他の女子達も視線はキツい。
「磯谷! お前、補佐な」
「・・・。」
フリーズかよ磯谷。イケメンが泣くぜ。
「まぁ、心配すんな。俺も付いて行くし、フォローはしてやる」
すると、当課一の美人で採用2年目の藤宮塔子ちゃんがツカツカとやって来た。
「ここは、遊び場じゃないんだから!」
と言いながら右手を大きく振りかぶった。
うわ、この女(こ)すげ~、俺をしばくつもりだ。
人は、見た目じゃ分からないとは良く言ったものだ。
まさか、直接武力行使してくるとは!
塔子ちゃんの右手が大きく弧を描き俺の左頬を目指して突き進む。
スローモーションでゆっくり、ゆっくり・・・。
これ、避けようと思えば、避けられるんじゃ無いか?。。。
“バチ~ン”
ビンタの音がフロア中に鳴り響く。
“シーン”
そして、その後は逆に静まりかえるフロア内。
誰もが息を止めた数秒間。
俺は、乱れた髪とヨロヨロに崩れた態勢を戻す。
「これで気が済んだか? 藤宮さん⤴」
「う、うう。」
なんだこの子、泣いているのか? 叩かれたのはこっちだぜ。
ほっぺが今もジンジンしている。
が、気を取り直して、俺は塔子ちゃんに近寄り耳元で囁いた。
「塔子ちゃんが俺に惚れていたのは知ってる。でも、それは詮無きことよ。
それに、この姿も直に元に戻るからさ、今日は我慢してね」
「か、課長? まさか、本当に!?」
“詮無きこと”これは、俺が塔子ちゃんに告られた時に遠回しに諫めた言葉だ。
だって、彼女は未だ若く美しい。
くたびれた妻子持ちのおっさんには似合わない。
社会人になって、はじめて体験する企業戦士の世界。
その戦場で指揮するおっさんを頼りがいがあると思ってしまうのだな。
まぁ、新採には良くある勘違いってやつだ。
「はいはい。注目~」
って、充分注目しているよな。
社員証をブラ下げているとは言え、不審者にしか見えないだろうし。
時計をチラ見しながら、頭の中で逆算していく。
出発まで残り時間は少ない。
「俺は、佐藤一美、48歳、妻一人、息子二人、住所は○×~。
田中健介係長、42歳、独身(プッ)、趣味は写真に映画鑑賞。
狭間弘幸係長、38歳、既婚、小学生の息子さんが二人。
北村冴子主任、採用9年目、姉御肌のしっかり者だ。
伊藤敦主任30歳、既婚、可愛い娘さんが一人。
及川和也28歳、独身、しばらく独身の予定。
鈴木今日子さん、採用5年目、なにかと気苦労の人。
磯谷直人、26歳、独身、一言で言うと“マニアで変態”。
藤宮塔子ちゃん…、」
「ハイ!私は良いです!信用します」
「あ、そう? それじゃー、もう良いな?」
課内を見回すが異論は出なかった。
他所の女子高生では絶対に知り得ない情報だからな。
いや、面食らって動けないって言うのが本当のところかもしれない。
「よし! 北村、磯谷、それにサポートで田中係長は、10分後に車庫に集合。運転は磯谷な。残りの者は自席で待機。ネット回線は繋いでおけよ。」
「ハイ!ハイ!課長!提案です」
「なんだい塔子ちゃん?」
「田中係長の代わりに私を同行させて下さい!」
「ん?別に構わないが、どうしてだ?」
「だって、もしも一美ちゃんに何かあった場合、私なら対処できると思います!」
う~ん、どうだろう?
北村係長は、あからさまに嫌そうな顔をしているし・・・。
俺は迷って北村女史の方を見た。
すると、北村女史は黙ったまま頷いた。
磯谷は…、フリーズしたままか。早く再起動しろよ!
「よし、塔子ちゃんで行こう! 北村係長は、今回留守番な」
「やったー!」
思わぬ援軍を得たな。
さて、勝負の時が迫っている。
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