第3話 家族会議

~竜二目線~


俺は、一美ちゃんと母さんが出かけたのを確認し、兄貴に電話をかけた。

結果は、兄貴に彼女はおらず、それどころか友達レベルの女(ひと)が一人居る程度だった。

とてもその女(ひと)一人で実家に派遣できるような間柄ではないし、ドッキリでもない。


「ロングヘヤーで、高校生くらいの子? そんなの知るわけないだろう」


そりゃ、そうだろうな。

俺だっておかしいと思ってる。

兄貴にはとにかく家に帰って来るように頼み込んだ。

もちろん、親父のことは言ってない。

…昨日から帰ってないと。


△△△


夕方になって、やっと一美ちゃん達は帰って来た。


「えっ!」


一美ちゃんは、可愛らしい服装に化粧までして完全武装になっていた。

単純にやばい。

帰ってきて可愛さ増し増しになっている。


「えっ、てなんだよ」


言葉遣いは相変わらずの一美ちゃんだった。


「いや、可愛いなって…」


「おいおい止めろよ! 親父だって言ってんだろう」


一美ちゃんは、俺を押しのけズカズカとリビングへ進んでいく。

後から、けばくなった母さんが・・・いや、少しめかし込んだ母さんが、上機嫌で入って来た。


「で、どうだったの?」


二人がとても楽しそうだったので、聞くまでも無いのだが聞いたみる。


「あゝ、だいたいは揃ったかな。スポーツブラと”見せる用”と、普段着にスーツと…」


いやいや、突っ込みどころ満載だろ!

”見せる用”ってなんだよ!

スーツって? 

まさか会社に行くのか?

どこの? 親父の?

親父って、確かどっかの課長じゃなかったか?


「それな。俺も知らなかったんだが、見せても良いブラらしいゎ」


「はぁ~、そうなんだ⤵」


「ほれ、返すぞ、ありがとな」


一美ちゃんが、袋からブラを取り出した。

俺が行きがけに貸したブラだ。

もしかしてホカホカ?

思わず匂いをかぐ…、前に母さんに取り上げられた。

「洗濯してから返します!」そりゃ、そうだろうね。

一美ちゃんは爆笑している。


「それで、スーツは?」


「会社に着て行くのに要るだろう。この格好では行けないわな」


「え? マジ?」


「あ~、会議があるんだよ。重要なプレゼンだから抜けられん」


思わず母さんの方を見るが、気にする様子は無い。

あんた凄いよ。肝っ玉母さんだな。


「一美ちゃんね~、今日、モデルもやったのよ~、うふふっ」


なんだそれ。


「ナンパもされまくちゃってね、うふっ」


いや、”うふっ”じゃねーよ!

モヤモヤが治まらない。

母さんは、完全に母親目線になっている。

そうすると、俺にとっては妹…、妹か?

可愛い妹が誰かに盗られる心境か?

何か引っかかる物があるが、今、最も妥当な落としどころだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ただいま~」


玄関のドアが開き、間延びした兄貴の声がした。

やっと帰ってきたよ。これで何か分かるかも。


兄貴が、ダラダラとリビングに入って来ると一美ちゃんが声をかけた。


「おう、啓一お帰り!」


「・・・・え! 誰?」


あれ?この反応はマジだ。芝居でもなんでもない。

兄貴が俺の傍に来て「あの娘(こ)って親戚の子?」と聞いてきた。

うん、その質問、覚えがある。俺と全く同じだ。


「まさかお前の彼女? って結婚? 早すぎないか?」


「違うって」 


さすが兄弟だ。思考回路が同じだった。

こうなると兄貴も全くあてにならない。

やはり、“妹”路線でいくしかないか・・・。


「おいおい、お前が俺を呼んだ理由はこの娘(こ)なんだろ?」


「そうだけど違う」


「は? 違うって?」


今となっては兄貴は邪魔者だ。

一美ちゃんに兄は二人も要らない。

なぞの競争心で兄貴を遠ざけたかったが、一美ちゃんは平常心だった。


「まぁ、良いから座れ、会社の方はどうだ?」


「え、え~と、そう言う感じなの?ワイルドで良いけど…」


と兄貴は俺に耳打ちし、一美ちゃんには「まぁ、普通かな?」と訳の分からない生返事をした。


兄 「あの、それでこちら様はどなた?」


母 「お父さんよ。ほら、どことなく面影があるでしょ?」


兄弟「「 はぁ!? 」」


兄 「いや、お前も驚くのかよ?」


兄貴の突っ込みはもっともだが、俺の中で一美ちゃんは妹なんだよ。

決して親父そのものでは無い。

面影は…無いことも無いが・・・、兄貴や俺ほどは似ていない。


「あ~、お前もか。俺は“佐藤一美”、お前らの父だ。間違っても変な気を起こすなよ」


いや、説明少な!

こんなんで誰が納得するかよ!

これを聞いた兄貴は、「親父?」と呟くとおもむろに席を立ち、ある所へ向かった。

ある所とはもちろん、親父部屋だろう。


「お~い、父さ~ん、居る? 入るよ~!」


間の抜けた兄貴の声が奥で響く。

少し期待したが、やはり親父は居ない。

これって、警察に捜索願いを出した方が良いんじゃないか?

親父の居ない親父部屋には、一美ちゃんの残り香だけが漂っている。


「まじか!」


呆然と立つ兄貴に、俺は既視感を覚えつつ少し同情した。



△△


一美ちゃんが風呂に入っている間に緊急家族会議が開かれた。

まず、一番の問題は“親父”の失踪だが、母さんは大丈夫だと絶対に譲らない。

もう、これは夫婦で何かあるのだと納得するしかない。

浮気か?それで母さんから追放された?

そうすると一美ちゃんは隠し子? でもそれだと十数年前から・・・、いやマジで妹じゃん。


どうやら兄貴もその見解に辿り着いた様だ。さすが兄弟。

母さんは、「もうそれでも良いゎ」とおおらかだった。娘が欲しかったんだよね。


次に、当面の問題は明日からの一美ちゃんの出勤・登校だ。

“出勤”と言い張っているが、もうそこはどうでも良い。

とにかくラッシュアワーは危険すぎる。

今日、母さんが付いていてもナンパされまくったそうだから、電車に一人でなんか乗せられない。


「分かった。俺が車で送って行くわ」


ぐぬぬぬ、やはり兄貴が出張ってきたか。

そうすると、帰りの迎えは俺の役目と言うことで折り合いを付けた。

大学は・・・、まぁ、余裕を見て5時限目をサボれば間に合うだろう。

帰りの電車は、帰宅時間が拡散するので朝ほどは込まない。

母さんは自宅待機だ。


最後の議題は、一美ちゃんがいつまでこの家に居るのかだが、誰も浮気相手(一美ちゃんの母)の連絡先を知らないのでどうしようもない。

まぁ、一美ちゃんが居たいだけ居れば良い。

血のつながった兄貴(俺)がここに居るのだから・・・。

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