第2話 加工女デパートへ!

~翌日 親父目線~


パッチリと目が覚めた。

こんなに爽やかに目覚めたのは何年振りだろうか。

・・・、長く艶やかな髪がさらっと流れる。


「若いって良いよな。睡眠まで爽快だ」


今日は、日曜日なのでゆっくりで良いが、腹が減ったのでリビングに行ってみる。

昨夜はTシャツ、短パンで寝ちまったので、そのままだ。


「おはよう」


嫁さんは、もう起きて朝食の支度をしていた。

竜二は、…相変わらずギラギラした目でこっちを見ている。

さすがに夜這いは無かったが、あの様子じゃ中々眠れなった様だ。


「母さん、いつもありがとね」


「ふふっ、いいのよ一美ちゃん。お礼を言うなんて性格まで女の子らしくなったのかしら?」


「え、いや~どうだろう。それでさ、Tシャツだと乳首がすれて痛いんだよね。何かない?」


竜二がなにやらモジモジしているが、無視して自席に座る。


「か、一美ちゃん? で良いのかな? おはよう」


「はいはい、おはよう」


「はははははっ。(ばつが悪い~)」


不気味に笑う竜二を放置して嫁さんの返事を待つ。


「じゃ、今日はデパートに行って色々買い物しましょうか」


嫁さんも竜二を無視してご機嫌に話す。


「そうしてくれると助かるゎ。しかし、外出するにも乳首がな~」


「そうね。さすがに下着は貸せないわね」


「あ、あの~、俺持ってるの貸そうか?」


「はぁ! なんでお前が持ってるんだよ!」



「はははははっ。(こればっかり)」



~~~~~~~~~~~~~


竜二の持ってたブラを付けているが、中々良い具合だ。まぁ、良く分からんが。

なんでも、罰ゲームのコスプレでフェアリーフォース※のピンク役をやらされたらしい。

※架空の戦隊もの、ピンクはもちろん女性隊員。


まぁ、下着までピンクのかわいいのにする必要は無いと思うがな、まずは助かった。

上下の服は、嫁さんの若い頃の服を拝借した。

嫁さんは「とっても良く似合う!」と喜んでいるが、型落ち感は否めない。

口には出さないが。。。


△△


さて、この姿で外に出るのは初めてだ。

青空が綺麗で、そよ風が頬に心地良い。

こんなに世の中に爽快感を感じた事はないのかもしれない。


街中に入ると人々の視線をヒシヒシと感じる。

男も女も老人も若者もだ。

人目を惹くってこう言うことなんだな。

悪い気はしないが。


まぁ、しかし男どものいやらしい視線は絡み付いて来るゎ。

見るのは罪にならないからな、無視、無視、無視。

一々気にしてたら歩けない。


~~~~~~~~~


「はい! そこのお嬢さん! 僕とお茶でも行かない?」


おいおい、これで何人目だよ。大丈夫か日本。


「私もいますよ~、オホホホホ」


「げっ、オバサン付きかよ!」


慌てて逃げていく若者。

嫁さんが盾になってくれて助かる。頼もしいわ~。


しかし、最近は出会い系アプリがあるから、ナンパなんて無いだろうと思っていたが甘かった。

まぁ、日常生活に色恋沙汰を持ち込みたくないのは分かる。



「あ、あの~、少し宜しいでしょうか?」


今度は、まともそうな青年が声をかけてきた。

割と男前だし、ナンパなんてするタイプには見えないが…。


「ガルルルル~」と嫁さんが唸っている。

それでも青年は逃げ出さずに、しかし、おずおずと話す。


「名前だけ、名前だけで良いので教えてください。それを聞いたら帰りますので…」


あん?

名前だけ聞いてどうするんだ?

う~ん。でも、その勇気に免じて教えてやるか。


「名前聞いてどうするんだよ?」


「え! そう言う感じ?」


おっさん口調に驚いてやがる。すまんな夢を壊して。


「なんだ、がっかりしたか? これが地なんで」


「いえ、大丈夫です。お、オレ、貴女に運命と言うか、理想の彼女そのもと言うか…感じちゃって、声をかけずには居られなかったんです」


「悪いな。理想や夢も良いけど、現実はそんなに甘くないよ」


「いえ、付き合って欲しいとか無理は言いません。名前だけ聞けたらそれで満足なんです。何て言うか、一歩踏み出せたって言うだけで良いので」


なんだろう。違和感は半端ないが、現代の若者ってこんな感じか?

勇気とまでは行かないが、方向が違うような気もするな。


「・・・、一美だ」


「 え! 」


「だから一美だよ」


「・・・一美さん。・・・ありがとう」


「礼を言われる程じゃ無いよ。じゃーな、まぁ、頑張れ」


青年は、顔を赤らめながらも、なぜか笑顔がまぶしかった。


~~~~~~~~~


「ねえ、ねえ、一美ちゃんどうして教えたの?さっきの彼に」


「まぁ、若者は日本の宝だからな。少しは成功体験も必要かなと思ったんだよ」


「ふ~ん。そんなものなの?」


「・・・・。」


実のところ良く分からん。

今の俺の姿は、しょせん幻で儚い存在だ。

明日には消えてなくなるかもしれない。

けれど、彼にとっては”真実”で、それが全てなのだろう。

二度と会うことも無いが、好青年ではあったしな。

理想の女…か。


~~~~~~~~~


デパートの1階には化粧品コーナーが多く、俺はあの匂いが苦手だ。

と言うか、女性はよくあの匂いの中で平気で居られるなと思う。


「あのお客さま、失礼ですがちょっと宜しいでしょうか?」


「なんでしょう?」


デパートの店員の呼びかけられ、嫁さんが答えたが、店員さんはやや不服そうだ。

そして、俺の方をしっかり見て「こちらのお嬢様に…」と言いつつ、「よろしければお母様も…」と付け加え、愛想笑いを浮かべた。


「姉よ、姉、設定は」


嫁さんは、横を向いて小声で吐き捨てた。

いや、無理があるだろう。高校生とアラフィフだぜ?


「は、はい。ではお姉さまもご一緒に…。当店のモニター・モデルになって頂けないかと」


あ~、面倒くせ~。

化粧なんて興味も無いし、する気も無い。

実際、今日は口紅も付けずスッピンだ。

怪訝な顔をしていると店員さんは続けて言う。


「使用した商品は全てお持ち帰り頂けます…」


「え! 何? それってタダってこと?」


嫁さんが食い気味で質問した。


「もちろんでございます。あ!お姉さまの分もお付けいたします」


嫁さんは見る見る上気して、「4~5万はかたい」などブツブツ言い出した。

これ、もう断らないやつだ。

俺は、諦めて「30分だけなら」と最後の抵抗をした。


~~~~~~~~~


「さぁ、如何ですか!!」


化粧が完成し、店員さんが自慢げに披露する。

う~ん、元々美人だからな~。

確かに色気は増し増しかもしれないが、俺、個人的にはスッピンの方が好みだ…と思っていたら、いつの間にか周りに人だかりが出来ていた。


「あの娘(こ)、可愛くない」

「超美人じゃ~ん」

「どこのメーカーかしら?」


など、漏れ聞こえて来る。

こりゃ、宣伝効果抜群だな。

しかも、パネルにしてしばらく展示するらしい。

う~ん。確かに1.2倍くらいは大人っぽくなったのかもな。


目立つつもりは無かったのだ。

どうせ、うたかたの幻なのだから。

少々苛立ちながら嫁さんの方も見ると、、、、。

まぁ、それなりに? 良くはなっていた。

それもこれも含めて嫁さんはご満悦だ。

うん、それなら、まぁ~良いか。

久々に嫁孝行したと思うことにしよう。

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