アラフィフおじさん、加工アプリで絶世の美少女になる。が、平常心で過ごします。

@marumarumary

第1話 加工女は突然に!

俺、佐藤一美は48歳のアラフォー会社員だ。

はぁ~疲れた。

やっと我家に帰って来られた。

もうふらふらで死にそうだよ。

都心から郊外まで毎日の通勤は正に痛勤だ。


「ただいま~」


ドアを開け、いつもの定型句を唱えるが…返事は無い。

気配はあるので、奥で用事でもしているのだろう。

わざわざ、出迎えてくれる必要は無い。


俺は、自室に入り鞄を放り投げた。

そして、鏡を覗き込み、さっさと身支度を調える。

スマホをかざし…、

“カシャ、カシャ、カシャ”

と、適当なポーズで自撮りする。

ぶっちゃけこのあたりの作業は重要ではない。

この後の加工技術が重要だ。

もっとも、AIにより俺の作業そのものは極簡単だ。

アプリを起動していつもの要領で加工していく。

死にかけの状態でも、この瞬間だけは生き返る。


今日の一番は、この娘(こ)だ。

色白で少しピンクのロングヘアー、柔らかそうな唇に、ほんのり桃色の頬。

自分とは思えないほど若く可愛い。

これぞ“加工女”の醍醐味。

もちろん、下地は俺なんだけれど、うっとりする。

そして、少し気が遠くなったりもする。


“ブチン”


あれ?

画面がおかしい。

古典的だがスマホを叩く。

ザラザラとした画像が流れ、やがて起動した。

あれ? さっきの加工女は消え、元の自分が映っている。

壊れたか?

せっかく気に入ったのが出来たのにな。

しょうが無い、もう一度撮るか。

俺は、気を取り直して身支度のため鏡に向かう。


ああ~なんだ、ここにあったのか、さっきの画像。

ん?

ちょっと待て、これ? 鏡だよな?

俺の動作と連動して首を傾げる美女。

手を振ってみたり、変顔してみたが、動作は完全に一致している。

つまり、これは俺だ!俺の姿が鏡に映っているのだ。

慌ててスマホを覗き見ると、元のさえないおじさんが映っている。

・・・、なるほど ”Isee“ 完全に理解した。


“トントン”とドアを叩く音と同時にドアが開けられた。


「ごはんよ~↗ ・・・?」と嫁の脳天気な声が、語尾だけ跳ね上がる。



「「 ・・・・・。 」」


「あ、貴女誰? どこから入って来たの? 主人はどこ? なんでそのスーツ着てるの?」


驚くのは分かるが、捲し立てすぎだ。

そして、あまりの狼狽ぶりに俺は逆に冷静になった。

どうってことない、アプリの加工女と俺が入れ替わっただけだ。


「まぁ~落ち着けって、俺だよ俺! お前の旦那だ」


って、言っても信じる訳ないよな。

何か俺しか知らないことでも言わないと・・・。


「な、何、ドッキリ? 竜二の彼女? それにしては可愛い過ぎるゎ」


「だからな、落ち着けって。な、一度落ち着こう」


ちなみに、竜二は二人息子の弟の方で同居中の大学生だ。

兄貴の啓一は、社会人で会社の寮で一人暮らしをしている。


「ガルル~」


若い娘に対する嫉妬か? 息子を盗られるとでも?


「おいおい、まじかよ。落ち着いてよく聞け!」


それから俺は、嫁との半生をとうとうと語った。


~~~~~~~~~~~~~~


「まじでお父さん? いや、まさかそんな・・・ことが」


「だからそうだって、これ見てみろ、ほら!」


嫁が少し落ち着いたようなので、俺は伝家の宝刀、スマホをかざして見せた。


「あら? 本当だわ。こんな事もあるのね。不思議↗ 」


「分かったなら、さぁ行け、着替えたら俺も行くから」


すると、嫁さんは急に色めき立って、「アラアラ~、私の服着れるかしら?」と言いながら浮かれた調子で部屋を出て行った。


「くそ、着せ替え遊びには付き合わないからな」


と言ってみたが、聞いていないだろうな。



△△


俺は、適当なパジャマに着替えてリビングへ入った。

食卓では、竜二が父(俺)も待たずに一人で晩飯を喰っている。


「あ~、やっと飯だよ。」と嫌味も込めていつもの父席についた。

嫁さんは、るんるん調子で「いつもぐらいで良いの~」とご飯をよそう。


「うん、…いや、ちょっと減らしてくれ」


「分かった~❤」





「いや待ってよ!」


竜二が堪らず口を開く。


「えっと、君、誰かな? ひょっとして遠い親戚とか?」


“やばい、めっちゃ可愛いんだけど”と漏れ聞こえる。


「おしい!」と、ニコッと笑ってみた。


すると、竜二は真っ赤になって“あたふた”し始めた。

なんとも、からかい甲斐のある奴だ。


「母さん! そろそろ教えてよ!」


恥ずかしかったのか嫁さんに助けを求める竜二。


「馬鹿ね、お父さんよ。お父さん」


「はぁ!・・・そんな訳…」


「それがあるのよ。本当、不思議よね~、でもほら、話し方も食べ方もお父さんそのものじゃない?」


俺は、飯を食いながら「うんうん」と頷いた。


「いや、そんなはずは、・・・」


訝しげな表情で口ごもる竜二。


「ご馳走さん、風呂行くわ。風呂」



△△△



「うぃ~、いい湯だ」


こうなってしまったものは仕方が無い。

慌てず、騒がず、平常心で行くさ。

まぁ、そのうち元に戻るだろう。


しかし、惚れ惚れするような体だ。

バスタブで足を伸ばすと、つやつやの肌がお湯を弾く。

流石はAIがデザインしただけのことはある。

ふむふむ。

さて、髪から洗うか・・・・。

バスタブから出て全身を隈無く凝視する。

スレンダーな肢体に、小ぶりの乳房、くびれた腰付、抱き心地は最高だろうな。

ふむ、これ以上は止めておこう。

これは、かりそめで幻だ。


俺は、いつもより丁寧に髪を洗った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~



~竜二目線~


あ、あの娘(こ)が風呂から出てきた。

ブカブカのTシャツに短パンだ。

ちょっと無防備過ぎるんじゃないか?

風呂上がりが暑いのは分かるけど、他所の家に来ている感じがしない。

まさか、本当に親父…な訳ないよな?


髪をかき上げタオルで拭いているだけで絵になっている。

しかもノーブラだ。

透けて乳首が見えている。

ああ~、慌てて母さんが来て、俺の目線を遮ったよ。


「しっ、しっ!」


犬かよ、俺は…。

母さんは元々娘も欲しかったって言ってよな。甲斐甲斐しく世話を焼いている。


しかし、目の保養だ。

あんな娘(こ)と一緒に暮らせたら人生変わるよな~。

いやいや、まぁ、落ち着いて考えてみようか。

う~ん、あの娘(こ)は兄貴の彼女?で、グルになってドッキリを仕掛けている?

いや、ドッキリにしては手が込見過ぎている。

それにあの娘(こ)がタレントとしても可愛すぎる。ドッキリの仕事なんて必要ないだろう。

あるいは、親父もグル?で親戚の子?俺だけを騙す?

う~ん、親父、おやじ、おや?


そうだ!親父の部屋に行ってみるか。


△△△△


ドアを開け見渡した。

・・・親父居ないし。

さっき帰って来てた様な気がしたが…、服を脱ぎ散らかしているし、鞄も放り出している。

確かに帰って来ているふしがある。


「・・・・・。」


背後から甘い香りが漂う。


「なんだ? 俺に何か要か?」


あゝ、当然の様にこの娘は親父の部屋に来た。


「え! いや、ちょっと、本当に親父かなって? はははっ」


「だからそうだって、疑い深いな。そんなんじゃモテないぞ」


俺を押しのけズカズカと入って行き、当たり前の様にゲームチェアに座った。

50の親父だが、腰痛のため買ったお気に入りの椅子だ。


「いや、そう言う問題じゃ~」


「あ! 見るのは良いけど、それ以上は駄目だからな! なんと言っても実の父だからな。洒落にならんぞ本当に」


「覗かないし、何もしないよ! って、本当に親父?」


真顔で言われると少し照れる。少なくとも母さんが居るのにHなことなど出来るはずもない。


「はいはい、出て出て、早く風呂入れ、明日になったら元に戻ってるから」


「・・・・。」


言葉遣いや態度は完全に親父と一致する。

これは、一日やそこらで真似できるものじゃない。

可憐で華奢な外見は似ても似つかないけどな。


ぞわぞわする一夜になりそうだ。

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