第5話 約束の地

その星は、聖地と呼ばれていた。

聖地に花が咲いた。

白いユリの花だ。

聖地と呼ばれるだけあって、この地には、何の世話をしなくても数年に一度、こうして地面をかき分けて、清らかな花が咲いた。


管理用ロボットEYEー48はその花を認めると。

じゅぼぼぼぼ。

電熱レーザーで焼き切った。


その星は、かつて聖地と呼ばれていた。

その為に、たくさんの人がこの地に集まった。約束された聖地だから。水があるから。元々住んでいたから。花が咲くから。作物が実るから。聖地だから。聖地だから。聖地だから。

ただ、集まる人はたくさんいたが、土地はひとつしかなかった。

人々は聖地の所有権を巡って争った。争いは絶えることなく続き、多くの血が流れ、死体の山が築かれた。


そこに、よそから仲介役が現れた。

何をそんなに争うのか。何故皆仲良く静かに住むことができないのか。全く無駄な争いではないのか。

無理であった。何代も続いた争いは憎しみに憎しみを呼び、もはや拭い去ることはできないほど、人々の心の深くにまで根を張っていた。

仲介役は一計を案じた。

「では、聖地などなくなってしまえばよい」

仲介役はよそ者であったので、聖地などにこだわりはなかった。

惑星ごと、空気には毒ガスを充填し、大地には鉱毒を敷き詰め、二度と生物の生きられぬ土地に作り替えた。

こうして、聖地は聖地だった土地になった。


これで争いが・・・無くなったわけではなかった。

人々は近隣の惑星に移り住み、相変わらず、聖地の一番近くだの、ここが第二の聖地だのと言っては争いを繰り返していた。


「こちらEYEー48。

発芽、生育を確認しました。鉱毒の追加を要請します」

現在、この星には仲介役が派遣したこの管理ロボットだけが存在している。

聖地と呼ばれるだけあって、この地はどれだけ鉱毒を撒いても数年で草花が育ち、きれいな水が湧いた。管理ロボットはその度に鉱毒や毒ガスを流し込んで聖地を処理した。


少なくとも、これで聖地の上での争いはなくなった。

だが、花が咲けば、また聖地が聖地になり、聖地の上で争いが起こる。


しかし、どれだけ処理しても、花は咲いた。

なので、管理ロボットも処理を続けなければならなかった。

汲めども尽きぬ豊穣。約束された土地。確かにここは聖地なのだろう。


ほどなくして、仲介役の組織から遠隔操作で鉱毒が送られてくる。管理ロボットは花の燃えかすの上に鉱毒を撒き、念入りに埋め立てた。


これで数年しか持たないのだから恐ろしい。

この土地は、あるいは逆なのではないか。

人が集まるように、求めるように、そして争うように。

そう設計されたのではないか。そんな気さえしてくる。


悪意の芽を摘むように、管理ロボットは何度でも生えてくる聖地の花を焼いた。

作業を終えると、管理ロボットはまた巡視に戻っていく。

遠くの宙から、近隣の惑星が聖地だった星を見下ろしている。


人々は、いまだ聖地に咲くの花を見る方法を知らない。



おわり

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