未確認飛行物体4

 そして一行はマルクと宗弥を前線にして魔王城脱出を目指した。

 先程と同じ人型が魔物と至る所で戦闘を繰り広げ既に戦場と化していた城内。その中を三人は駆け抜けた。

 だがそう簡単に外へ出ることは出来ない。犬型や飛行型、キメラ型などありとあらゆる魔物は未だ魔王の命令を遂行しようとしており、勇者一行の姿を目にすると真っ先に襲い掛かってきた。それをマルクと宗弥は分担しながら素早く排除し、可能な限り止まらず正面入り口へと向かう。

 そして何とかほぼほぼ足を止めることなく階段を下りていった一行は、やっとの思いで魔王城を出ることが出来た。だがそこで足は止めずそのまま死の森を抜け安全な場所まで一気に離れる。

 そして丁度、魔王城が遠くに見える小高い丘に辿り着くと、そこでやっと足を止め一息ついた。

 マルクは最後に追手がいないか森を注意深く見たが――それらしき影は見当たない。


「ここまで来れば大丈夫そうだね」


 その言葉と共に安堵の溜息を零すマルク。その後ろではゴウがフローリーとアリアを地面に下ろしていた。

 ここまでの間でフローリーの魔力は多少だが回復したらしく、手元にアリアのとは形状の違う大杖を出現させた。それから動ける程度の回復魔法を自分へ。

 そして絨毯のように柔らかな草の上に仰向けで横たわるアリアへ大杖を翳した。

 すると杖とアリアとの間に蛍のような緑色の優しい光が灯り、彼女を包み込み染みるように消えていった。

 そしてひと呼吸分を空け、アリアの目がゆっくりと開き始める。


「あれ? アタシ……」


 起き上がり辺りを見回すアリアは状況が把握出来ておらず、少し戸惑っている様子だった。

 だがハッとした表情を浮かべると、傍まで歩いて来たマルクの方へ顔を向け少し身を乗り出す。


「魔王は!? 倒したの?」


 アリアと共に魔王戦の結末を知らないゴウと宗弥も答えを求めるように視線を向けた。

 だがマルクは見えない期待を感じ少しだけ俯き首を振った。


「みんなのお陰であともう少しだったんだけど……。アレが突然現れて」


 アレという言葉を口にしながら魔王城を指差した。

 マルクの指先には今も堂々と聳え立つ魔王城――とその上空に浮遊している飛行物体。その異様だが絵になる組み合わせは、その場全員の視線を一手に引き受けるには余りにも十分な存在だった。

 そして立ち上がったフローリーとアリアがマルクの右側に、ゴウと宗弥が左側に並び――横一列となった彼らは一緒に魔王城を眺める。


「何よあれ?」

「あんなの見たことねーな」

「奇怪な光景だ」

「アレが急に現れたと思ったら周りを囲まれちゃって……」

「そしたら魔王が床を破壊したんですよ」


 フローリーの補足にマルクは一度頷いた。


「そんであんな状況になってたって訳か」

「アレも魔王の仕業なんじゃないの?」


 そう思うのも理解出来たが、実際にマ―ドファスの反応を間近で見ていたマルクはそうではない可能性の方が高いと思っていた。

 そしてそのことを皆に伝えようと口を開いたその時――別の声が明後日の方から割り込む。


「吾輩ではない」


 それは聞き覚えのある声――いや、聞き覚えがあるどころではない。マルクはその声を知っていた。その声にまさかと思いつつも聖剣を抜きながら後ろを振り返る。

 しかし戦闘態勢になりながら振り返ったのはマルクだけではなかった。左右に立っていた全員が一斉に背後へ。

 そんな全員の警戒心が一直線に向けられていたのは――魔王マードファス。

 だが森を背に立っているその姿はあの変形した姿ではなく、大男程の背丈で飛膜の無い第一形態ともいうべき最初の人型だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る