未確認飛行物体3

 だが人型の剣が振り下ろされるより先に突如、その頭部は宙を舞った。頭を失った首からは噴水のように鮮血が吹き出し、人型は糸の切られた傀儡の如く倒れていく。

 そんな人型の陰から姿を現したのは、埃や血などで汚れた袴と羽織の和服に身を包み長髪を後ろで括った武士、宮原宗弥。クールという言葉がよく似合う整った顔の(傷だらけで汚れていても絵になる程に)美青年な彼は左手に握った刀で別方向から振り下ろされた剣を受け止めると切れ長の目でマルクを見た。

 マードファスとの激しい戦闘で気を失っていたがどうやら目覚めたらしい。


「援護する。退くぞ」


 その言葉へ返事をする前に更に後ろから宗弥を狙う人型の剣をマルクは受け止めた。

 そして背中合わせになる二人。


「他のみんなは?」

「ゴウが先に外に連れて行った」

「気が付いたんだ。良かった」

「今は自分の身を案じろ」


 宗弥は剣を受け流すとそのまま流れるように人型を斬り捨てた。そしてマルクも人型を片付ける。


「一気に抜けよう」

「心得た」


 マルクと宗弥は互いにカバーし合いながらも最小限の戦いでドアを目指した。人数という武器を活かし次々と二人へ襲い掛かる人型を返り討ちにしながらとにかく走り続ける。

 適度な距離を取りながら戦い走っていた二人だったが、ドアが近づいてくると宗弥は足を速めマルクより先を走った。そしてドアより少し前辺りまで行くと片足を軸にくるりと振り返る。


「走れ」


 宗弥はそう一言言うと傍にあった柱を斬った。柱が崩れ始めるのと同時に見えない制限時間が針を進め始める。

 マルクは斬りかかってきた人型を即座に片付けると全力疾走でドアへと向かった。柱が崩れ出したことで上に残っていた床も支えを失い崩れてゆく。破片と共に落ちてくるコンクリートの塊。

 ドアまでの距離は思ったりもあり間に合うかどうかはギリギリ。もし少しでも遅れれば柱の下敷きになってしまうがどのみち通り抜ける以外に生き残る選択肢はない。

 そしてマルクは賭けるように足を前へやりながら寝そべる様に体を滑らせた。まるで映画のワンシーンのように柱と床との隙間を通り抜けると頭上では瓦礫の山が築かれ、人型の群の進行を止めていた。

 それを見上げマルクはホッと安堵の溜息を零す。


「休んでる暇はない」

「りょーかい」


 差し出された手を握りながら返事をすると宗弥の力も借りながらマルクは立ち上がった。

 そして目的のドアを開け廊下へ。ドアの向こうには辺りを警戒するゴウと壁に凭れ座る女性――その女性に膝枕されながらまだ意識の戻っていないアリアがいた。

 壁に凭れていたのは、オフショルダーロングスカートのドレスのような服装に編み込み混じりの長い銀髪の治療師フローレンス・クレラテオ。綺麗な顔立ちと垂れ目をしたフローレンスは優しいお姉さんと言った印象で皆からはフローリーという愛称で親しまれていた。

 そんなフローリーは魔王戦から意識はあったものの激しい魔力の消費とダメージにより体が言うことを聞かなくなってしまっていた。

 そしてマルクと宗弥が廊下に出るとフローリーとゴウの視線が集まる。


「良かった。無事だったんですね」


 マルクの顔を見たフローリーはホッとした表情を浮かべる。


「みんなも無事でよかった」

「一体何が起こってる?」

「とりあえず話はあとにしよう。フローリー動ける?」


 ゴウの疑問も十分理解できたが今は魔王城を脱する事が先決。


「ごめんなさい。もう少し休めば歩ける程度の回復ができると思うんですが……」


 申し訳ないという気持ちは声だけでなくその表情にも表れていた。


「大丈夫だよ。じゃあ、ゴウ二人をよろしく。僕とソウで安全を確保しよう」

「分かった」

「心得た」


 返事をしたゴウは消防士搬送でフローリーを担ぎ上げ、片手でアリアを脇に抱えるともう片方の手で魔女帽子と大杖を持った。


「とりあえずは城の外まで一気に駆け抜けよう。ソウ、敵が多かったらお互いにカバーしつつゴウを守るよ」

「任せろ」

「オレも足さえあれば多少だが自分の身は守れる」


 二人を抱えているとは思えない蹴りを空振りさせるゴウ。


「だけどあまり好戦的にはならないでね。君がやられたら二人も危ないから」

「あぁ分かってる」

「よし! それじゃ行こう」

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