前日譚─るみ視点─

「私はこれからどうすればいいの……?」


 泣きながらそうつぶやく彼女の名は、絵縫えぬいるみ。18歳の少女である。


マゼンタに近い赤色の瞳に薄いピンク色の立ち襟ブラウスに深い赤色の膝下丈のハイウエストスカート、白いニーハイソックス、赤いロリータシューズといったロリータファッションが特徴的である。片手にはトランクケースを転がして、原宿の街を暗い顔で歩いている。


──事の発端は、2日前に遡る。


幼い頃に両親は不慮の事故でこの世を去った。生き残ったるみは、身寄りが無いため、中学3年まで孤児院で暮らしていた。


 その後、寮制の高校で3年間過ごした。

好奇心旺盛であどけない性格の彼女は、女子には嫌われていたが、男子には可愛げがある等の理由でよく好かれていた。

高校生活で知り合った彼氏と付き合い、卒業後は彼氏のアパートに同棲していた。彼氏はコンビニでアルバイトしながら生配信をして生活している動画配信者である。

多くの同級生に親しまれる程人当たりが良かったが、次第にるみのことをぞんざいに扱うようになった。


「そんな服で出歩くなよ」


「お前と一緒に歩くなんて罰ゲームみたいなもんだろ」


「お前なんかこのイクラのように潰れてしまえばいいのにな(回転寿司へ食事に行った時、箸でイクラを笑いながら潰した)」


るみに心ない言葉を容赦なく浴びせ続けた。挙げ句の果てには彼女に手を上げる事もあった。


 そして、運命の2日前の夜。


「お前なんかいらない。出ていけよ。これから夜勤バイトだから俺が帰る前に荷物まとめてこい」


 高校を卒業してから約半年間過ごした彼氏のアパートを出た日から1日が経ち、現在に至る。


るみは原宿の竹下通りを生気を失った顔で彷徨さまよっている。


悲しい。これからどうしよう。そればかりが頭をよぎる。


──今日もまた、喧騒が途切れることのない賑やかな街に彼女は溶け込まれていく。


前編へつづく

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