第24話 俺のせい⁉

 ピコン、ピコン、ピコン。


 朝、スマホのアラーム音で目を覚ました。

 見覚えのある天井、右側に感じる温かい感触。

 そして、胸元辺りにジンジン痺れに似たような重み。


 夢うつつな状態のまま、祐樹は視線を右側へと向ける。

 そこには、水晶画のような美しさを纏う美少女の姿が――


「⁉」


 目の前にある泉のご尊顔を目の前にして、祐樹の頭は一気に覚醒する。

 そうだ、昨日泉に甘えられて、身体を預けられて、そのまま悶々としている間にくっついたまま寝ちまったんだ……。

 昨日のことを祐樹が思い返していると、アラームの音に反応して泉がモソモソと身体を動かす。


「んんっ……」


 悩ましい吐息を漏らして、ゆっくりと目を開く泉。


「お、おはよう泉」


 祐樹が恐る恐るおはようの挨拶を交わすと、泉はまだ寝ぼけているのか、ぎゅっと抱き着く力を強め、顔を胸元に埋めた。


「えへへっ……」


 えっ、なにこの子。めっちゃ可愛いんですけど。

 朝からまたもや抱きしめたくなる衝動に駆られるものの、気持ちを抑えて泉の様子を窺っていると、突如慌てた様子で泉がバッと顔を上げた。

 そして、祐樹と見つめ合うこと数秒。


「泉……?」


 祐樹が困惑の声を上げると、泉はバっと祐樹の身体から離れて、ベッドから飛び起きた。


「なっ……なぁ⁉」


 言葉にならない声を出しながら、口をパクパクさせる泉。

 慌てふためく泉を見ていたら、祐樹は冷静になってきた。


「落ち着け泉。言いたいことはあるだろうけど、元はと言えば泉が昨日甘えてきたのが原因だぞ」

「……から」


 すると、泉が顔を下に向けつつ何やらボソっと言葉を発した。


「へっ、何て?」


 祐樹が聞き返すと、泉は顔を正面に向け、鋭い眼光を向けてくる。


「い、言っとくけど! これは祐樹が寂しいかなと思ってしただけで、断じて私がくっついて寝たかったとか、そんなんじゃないからね⁉」

「えっ? でもお前、昨日の夜――」

「分・か・っ・た・わ・ね?」

「……はい。分かりました」


 泉から、これ以上言及したら許さないといった圧が掛かり、祐樹が折れるしかなかった。


「ならいいわ。はい、昨日の話はここで終わり! さっさと起きる!」


 手をパチパチと叩き、祐樹に起き上がるよう促してくる泉。

 祐樹も泉に促されて起き上がってベッドから降りると、皺が出来たシーツや布団をベッドメイキングしていく。

 その様子をベッドの脇でポケーっと眺めていると、泉がギロリと睨みつけてくる。


「ほら、そんなところで突っ立ってないで、朝食の準備してきて!」

「お、おう……分かった」


 泉に指で指示されて、祐樹はいそいそと寝室を後にしてリビングへと向かう。


「私は今から着替えるから、部屋に入ってこないで! 着替え終わったら、朝食の支度変わるから、それまでお願い」


 そう言って、バタンと寝室の扉を閉めてしまった。

 リビングに追い出された形になった祐樹は、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

 未だに右半身にじんわりと感じる温もりを手で触って確かめつつ、寝室の方を見つめてボソっと一言。


「なんか、俺のせいになってない?」


 その後、俺が朝食の準備を始めると、しばらくして着替えを終えた泉が寝室から出てきて、その時には朝のことはまるでなかったかのように、普段の素っ気ない態度へと戻っていた。

 ベッドで二人きりになった途端見せる泉のデレとのギャップは、祐樹の心だけに留めておくことにする。


 にしても、毎日あんな感じで甘えられたら、祐樹はいつまで耐えられるのだろうか?

 正直理性が持つのも、時間の問題なのではないかと思ってしまうのであった。

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