第22話 バイト先の先輩

 講義を終え、祐樹はいつも通りアルバイトに勤しんでいた。

 既に閉店間際となり、お客さんもまばらになり始めている。

 キッチン裏で、祐樹は洗い物を行っていると、後ろから肩をトントンと叩かれた。


「これ、残りの賄い袋に入れておいたから」

「ありがとうございます!」


 料理長の人に手渡されて、祐樹は深々とお辞儀をする。


「それじゃお先に」

「お疲れ様でした」


 ラストオーダーは終了しているので、キッチンの片づけを終えた料理長さんは、先にお店を後にした。

 祐樹は一旦賄いを冷蔵庫の中へと入れておく。


「祐樹君は食いしん坊だねぇー」


 すると、横からからかうような声が掛けられて、祐樹は深いため息を吐いた。


「仕方ないじゃないですか。食べ盛りなんですから」

「いーなー。私なんて最近、お腹周りに脂肪が付いてきちゃって困ってるよ」


 そう言いながら、アルバイト先の先輩である西山夕実にしやまゆみ先輩は、服越しから自身の脇腹を摘まんで確かめていた。


「夕実さんは今のままで十分素敵ですよ」

「嬉しい事言ってくれるじゃない! このこの!」

「ちょ、突くのやめてください! というか、ホールの仕事はどうしたんですか?」

「あとお客さん一組だから、もうやる事無くて、中の仕事手伝いに来た」

「そうならそうと先に言ってくださいよ」


 祐樹はやれやれと思いつつ、洗い物の作業へと戻る。

 夕実先輩には、食洗器で洗い終えた食器を拭く作業をお願いすることにした。

 タオルでキュッ、キュッと水気を飛ばしながら、お皿やお椀をかごの中へと片付けていく夕実先輩。


「そう言えば祐樹君。最近引っ越ししたんだって?」

「……何でそれを知ってるんですか?」

「店長から聞いた」


 このお店の個人情報は筒抜けか!

 まあ、そんなことはどうでもよくて……。


「まあ、前住んでた家が立ち退きになっちゃったんで、新しい場所に移らざる負えなかったってだけですよ」

「そっかぁー。祐樹君も色々と大変だったんだね」

「夕実さんはどうなんですか? 就活の方は?」

「そんなことよりさ!」

「思いっきり話を逸らされた⁉」

「だって、私の就活の話なんて聞いても良い事なんてないでしょー! もっと明るい話題を話さないと!」

「は、はぁ……」


 夕実先輩は今年で大学四年生。

 単位はほぼ取得済みということで、後は就職活動に力を入れればいいだけなのだが、あまり上手くいっていないみたいだ。


「明日はちょっと大変だよー。新人バイトちゃんが入ってくるからねぇ」

「えっ、マジすか?」

「そっ、しかもホールは私と祐樹君の二人だけ」

「最悪じゃないすか。新しい子の面倒も見つつ一人分の労力使わなきゃいけないなんて!」

「これが現代日本における人材不足というやつね」

「うちにもネコ型ロボ導入とか検討してくれないかな」

「無理無理。大手チェーンでもあるまいし」

「ですよねー」

「ってことでまあ、その新人ちゃんの教育をお願いしたいんだけど、いいかな?」

「いいっすよ。まあ、先輩は感覚派過ぎてあれ何で、俺が教えるしかないでしょうし」

「むぅ……私だって、やる時はやるっての!」


 不満を露わに頬を膨らませる先輩。

 だがしかし、ただ可愛らしいだけで全く怖くない。


「ノーゲスト、西山さん、テーブルの片づけお願い」


 とそこで、裏側に店長が現れて、ノーゲストを知らせてくる。


「はーい! ってことでよろしくね」


 そう言い残して、先輩はトレンチを手に持ち、外のテーブルを片付けに行ってしまった。

 祐樹は洗い物をしながら、新人かぁ……どんな人が来るんだろうと、想像を膨らませるのであった。

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