第17話 友人の予想

 泉と朝からバタバタしたアクシデントを過ごして、祐樹は支度を済ませて大学へ来ていた。

 コニュニティスペースで、一人朝に起こった出来事を振り返っていた。

 やばいよやばいよ……。

 家に帰ったら、泉と一緒に寝ることが確定してしまった。

 アルバイトが終わった後、寝るときにあの部屋で隣り合わせになるというわけで……。

 にしても、泉の下着姿、まさに彫刻のような素晴らしいプロポーションだったなぁ……。

 あの身体を抱き締めながら寝るのか……。


「って、何考えてるんだ俺は⁉」


 祐樹はブンブンと首を横に振って煩悩を振り払う。

 ただ隣同士で寝るだけなのに、いつの間にか泉を抱き締めながら寝るという変態染みたことを考えていた自分を殴りたい。



「あれっ、祐樹君だー!」


 とそこで、聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてくる。

 視線を送ると、そこには小柄で童顔な顔つきの女の子がこちらへ手を振っていた。

 彼女の名前は、仙台青葉せんだいあおばちゃん。

 同じ経済学部の一年生で、祐樹や泉と一緒に授業を受けている仲間である。

 先日、泉の引っ越しを手伝ってくれたのも彼女だ。


「青葉ちゃん? 休み期間なのに大学に来てどうしたの?」

「前期の成績表を貰いに来たのー。丁度こっちのほうに来る予定があったから、ついでに大学寄って行こうと思って。祐樹君はアルバイトまでの時間潰し?」

「まあそんな感じだ」

「毎日大学まで歩いてくるの大変だよねー」

「だな。こんな猛暑だし。いつもシャツがビショビショだよ」

「そうだよね。私も駅から歩いてきたんだけど、汗が噴き出てきちゃったもん」


 青葉ちゃんが手で仰ぐ仕草を見せる。

 そんな他愛ない話をしていると、青葉ちゃんがパチンと手を叩いた。


「あっ、そうそう! この前ね、香奈の引っ越し手伝ったのー!」

「へぇー。泉引っ越ししたんだ」

「うん! なんかルームシェアするんだって」

「ルームシェアか。そんなに仲のいい奴がいたんだな」

「んねっ!」


 その相手、目の前にいるよとは、口が裂けても言えないけどね。

 青葉ちゃんの話の続きを促す。


「でね、泉が『引っ越しの費用浮かせたいから、車出してくれない』って頼まれちゃってさ。いやぁーっ、友達を乗せて運転したの初めてだったから、事故らないかってビクビクだったよぉ-」

「そりゃ大変だったな。でも、無事に終えれてよかったじゃん」

「ホントね! でもさ、聞いてよ祐樹君。香奈ってば酷いんだよ?」

「何が?」

「誰とルームシェアするの? って聞いても、『友達』としか言ってくれなくて、写真も見せてくれないんだよ⁉」


 そりゃまあ、写真なんて見せた暁には大変なことになるからね。


「なーんか怪しいのよね」

「怪しい?」


 祐樹が問いかけると、青葉ちゃんは顎に手を当てながら、名探偵さながらのドヤ顔を浮かべた。


「私の予想だと、香奈のルームシェアの相手、男なんじゃないかって思ってるんだよね」

「な、なんでそうなるんだ?」


 核心を吐いた青葉ちゃんの予想に、祐樹は内心ドキリとしながら理由を尋ねた。


「だって、写真を見せれない友達って普通いなくない? よっぽどのことが無ければ、見せてくれると思うんだよね」

「な、なるほど……でも、泉に男の噂なんて聞いたことないんだけどな」

「それなんだけどさ、最近友達がね、香奈と一緒に歩いてる男の子を見かけたんだって!」

「そ、そうなんだ……」


 祐樹は思わず、頬が引きつりそうになるのを必死に堪えて平静を装う。

 しかし、青葉ちゃんは祐樹のわずかな表情の変化も見逃さなかった。


「どうしたの祐樹君。そんな浮かない顔して……」

「い、いや……そんなことないけど……」

「あっ、もしかして――」


 そこで、パッと何か閃いたような笑みを浮かべる青葉ちゃん。

 まずい……これはルームシェア相手が祐樹だってことがバレたか⁉

 緊張した面持ちで姿勢を正すと、青葉ちゃんはにやりとした笑みを浮かべて言い放った。


「祐樹君、もしかして香奈の事狙ってたんでしょ?」

「……へっ?」


 予想だにしないことを言われて、祐樹は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「あれっ? 違った?」

「全然違うな」

「おっかしいなぁー。私、こういう系の話は外したことないんだけどなぁー」


 腕を組み、眉間に皺を寄せる青葉ちゃん。

 祐樹は青葉ちゃんから視線を外して、ふぅっと息を吐く。

 危ない、危ない……気付かれたのかと思ったぜ。

 青葉ちゃんは勘が冴えてるから、泉にも忠告しておいた方がよさそうだ。

 改めて、異性の女の子とルームシェアをするというリスクを身に染みて実感する祐樹なのであった。

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