第16話 責任

 ♪~♪~♪~。


 アラームの音で、祐樹は目を覚ました。

 スマホのアラームを止めて、時刻を確認する。

 時刻は、朝の七時を回ったところ。

 既に室内は蒸し暑く、モワッとした空気が漂っていた。

 ぐっと伸びをしてから、祐樹は布団から起き上がる。

 辺りを見渡すと、見慣れない空間が広がっていた。


「あぁそっか……昨日から新しい家に越したんだった」


 さらに言えば、同級生の女の子と、ルームシェアを始めたのだ。

 祐樹はちらりと寝室の扉を見つめる。

 昨日、泉はあれからずっと部屋に閉じ籠ってしまい、顔を合わせることはなかった。

 いきなり初日から険悪な雰囲気で終えることになってしまい、祐樹は重苦しいしこりが残ったままになっている。


「とはいえ、流石に同じベッドでは寝れないだろ……」


 引っ越し場所を決めた際、泉が一緒に寝ることを許容してくれたものの、それは建前であって、本音であれば一人静かに寝たいに決まっている。

 それを加味しての発言だったのだが、あの怒った様子からするに、祐樹は何か間違った選択をしてしまったのだろう。

 泉はまだ部屋から姿を現さないものの、同じ空間を共有しているので、必然的に顔を合わせることにはなる。


「とりあえず……顔を洗って眠気を覚まそう」


 頭をフレッシュさせるため、祐樹は洗面所へと向かう。

 目を擦りながら、ふわぁっと欠伸を吐いて洗面所へ入ると、そこにはグリーンの下着姿に身を包んだ泉の姿があった。


「えっ……」


 祐樹は一瞬状況が理解できず、目をパチクリとして固まってしまう。

 なめらかな泉の白い肌がこれでもかと露出しており、胸元はブラ越しからでも分かるほどにドンっと主張している。

 腰回りにかけては、きゅっと引き締まった身体つきをしており、ピップはなだらかな曲線美を描いていて、下着越しから伸びる健康的な太ももは、程よい肉付きで軽く赤らんでいた。

 祐樹が泉の身体全体を舐めまわすように見ていると――


「きゃぁぁぁ!!!!」


 泉が顔を真っ赤にしながら、大声で叫んだ。


「ご、ごめんっ!」


 祐樹はようやく状況を理解して、慌てて背を向けて洗面所の扉を閉めた。

 心臓が飛び出るかと思ったほどにきゅっと締め付けられ、未だにバクバクと脈を打っている。


「まさか風呂上がりだったとは」」


 バスタオルで髪を拭いていたので、恐らくシャワーでも浴びたのだろう。

 脱衣所の扉が閉められていなかったとはいえ、異性の女の子と一緒に暮らしているのだ。

 しっかり声掛けをしたりするのが礼儀というものだろう。


 昨日の今日で、また問題を起こしてしまった。

 泉の奴、怒ってるだろうな……。

 すると、脱衣所の扉がゆっくりと開かれた。


「ごめん泉! 俺が悪かった! だから今回は許してくれ!」


 開口一番、祐樹は頭を地べたにつけて土下座する。


「べっ……別に怒ってないから。顔上げて……」


 泉に言われて、ゆっくりと顔を上げる。

 するとそこには、信じられない光景が広がっていた。

 服を着ることなく、バスタオルを手で持ち、身体の前を隠した状態で出てきた泉の姿だ。

 つまり、泉は下着姿のままということで……。


「い、泉⁉ な、何をしていらっしゃるのですか?」


 動揺しすぎて、変な口調になってしまう祐樹。

 下着は身に付けているものの、バスタオルで身体を隠しているせいで、下着が見えず、まるで裸のように見えてしまい、余計に扇情的に見えてしまう。

 泉は頬を染めながら、目で訴えてくる。


「何って……事故とはいえ私の身体見たんだから……感想くらい聞こうと思って」

「だからって、その格好で出てくる必要はないのでは?」

「う、うるさいわね! いいから、早く感想を言いなさいよ!」


 怒気を強くして、泉は手で押さえていたバスタオルをバサっと剥いだ。

 目の前には、下着姿で肌を露出させた泉が現れて、堂々と俺に見せつけてくる。


「ちょ……」


 もちろん、祐樹は泉の下着姿に、視線が釘付けになってしまう。

 先ほどよりも艶めかしくて、艶のある肌は男の大切な部分を刺激する。


「ど、どう? 私の身体?」

「ど、どうって言われましても……」


 流石にじぃっと見られるのが恥ずかしくなったのか、モジモジと身を捩る泉。


「はっ、恥ずかしいから早くしてよ……」


 頬を染めながら、恥じらうように尋ねてくる。

 祐樹は意を決して、思っているままの感想を口にした。


「とてもスタイル抜群で綺麗で……いいと思います」

「私の身体で、興奮する?」

「まあ、それなりには」

「……それなり……か」


 少し、しゅんとなる泉。


「う、嘘です! 本当はめちゃくちゃ興奮してます!」


 実際、ものすごく興奮していた。

 今立ち上がったら、男の象徴が見事に主張してしまうほどには。


「へ、へぇー。あんたは、私の身体で興奮するんだー」


 そう言いながらも、心なしか、泉の口元はニヤニヤとしている気がした。


「は、はい……」

「祐樹は、私の身体を見て、その……エッ……エッチなこととか、したくなっちゃったりするの?」

「なっ!?」


 泉の口から放たれたとんでもない発言に、祐樹は狼狽えてしまう。

 口を魚のようにパクパクとすることしか出来ない。

 すると、泉はちらりと視線を下へと向けた。

 泉は一瞬目を見開いてから、軽く頬を染めて祐樹を見上げてくる。


「……変態」

「ご、ごめんなさい」


 祐樹はただ謝ることしか出来ない。

 なんだか、男として大きな尊厳のようなものを失ったような気がする。


「まっでも、今回は私の不注意もあったから、引っ越し祝いって事で許してあげる」

「あ、ありがとうございます」


 何か知らないけど許された。

 心臓止まるかと思ったわ……。

 泉から眼福過ぎる引っ越し祝いを貰ってしまった。

 次からは、マジで脱衣所に入る時は気を付けよう。

 祐樹が肝に銘じていると、泉がしおらしい表情を向けてくる。


「そ、その代わり……私の身体を見た責任はちゃんと取ってもらうから」

「せ、責任っすか?」

「きょ、今日からはちゃんと……私と一緒に寝ること。分かった?」

「……」

「わ・か・っ・た?」

「……は、はい」


 泉のドスの効いた圧力に屈して、祐樹は首を縦に振ることしか出来なかった。

 これ、仮に祐樹が理性を失ったとしても悪くないよね? 

 大丈夫だよね?


 こうして、祐樹は言質を取られ、泉と一緒に寝ることが決定してしまったのだった。


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