第8話 棚から牡丹餅

「こちらが、私からお勧めいたします。泉様にピッタリの物件になります!」


 到着したのは、大学からほど近い住宅街の一角。

 不動産屋ピックアップ物件ということもあってか、先ほどまでより明らかにテンションが違う。


 そこに建っているのは、いかにも新しいマンションだった。

 立地も大学近くで駅からも徒歩十分圏内。

 不動産のお姉さんおすすめ物件とはいえ、間違いなく前の二つより家賃の値は張ると予想できた。

 エントランスをくぐり、内階段を登っていく。


「どうぞお上がりください!」


 お姉さんに促され、祐樹と泉は部屋の中へと入っていく。


「こちらは築二年足らずのマンションです。1LDKのお部屋なんですが、オートロック付きで三階の角部屋! しかもLDKも12畳あって広々としております。快適に過ごすことが出ますし、なんといってもお風呂が広いんです! 二人で入ってもゆったりくつろいで浸かれますよ!」

「うわぁっ……! 凄いお風呂」


 泉はお風呂を見てきらきらと目を輝かせている。

 どうやらお眼鏡になかったらしい。

 にしても、いくらなんでも広すぎないか?

 二人で風呂に入ったとしても、余裕で入れる広さだ。


「やっぱりここまでハイクオリティだと、結構値が張るんじゃないですか?」

「はい……家賃は十三万円かかります。ですが、水道・光熱費込みでございます」

「なるほど……」


 ってことは、食費を除いて六万五千円かぁ……。

 払えるか……いや、無理だな。


「大変魅力的だとは思うのですが、流石にこのお部屋は――」

「ちなみにですが、お二人は学生様ですよね?」


 祐樹がやんわりと断ろうとしたところで、不動産のお姉さんがタイミングを見計らったように尋ねてくる。


「はい、そうですけど……」


 泉と目を見合わせてから頷くと、不動産のお姉さんはさらに食い気味に尋ねてきた。


「お二人は、学生のうちに同棲されるという認識でよろしいのですよね?」

「えぇ……まあ……」


 念押しするように尋ねてくるお姉さんに曖昧な笑みで頷くと、お姉さんは待ってましたとばかりにまくしたてた。


「実はこちらの物件、大家さんが少し変わっておりまして、学生様の同棲を歓迎しているんです! 学生様同士の同棲でしたら、契約時に学生証の提示をしていただきますと、なんと水道光熱費込みで家賃が半額の七万五千円となります!」

「なっ、七万五千円⁉」

「ってことは、一人四万円以内で収まるわね」

「……だな」


 祐樹と泉は、目をパチクリと見合わせてしまう。

 これが俗にいう学割って言う奴なのか?

 いやいや、賃貸物件で学生アパート以外で聞いたことがない。


「ご心配なさらないでください! ここの大家さんが学生の頃、物件探しで大変苦労した経験がありまして、少しでも学生同棲をするお客様の手助けがしたいというご厚意でございます。なので、ホームページには掲載しておらず、店舗へ訪れたお客様のみへのご案内となっているんです」


 どうやら、大家さんも若い頃色々とあったらしい。

 にしても、棚から牡丹餅とはまさにこのことを言うのだろう。

 とんでもない優良物件が突如目の前に現れた。


「そしてこちらが、この物件最大の売りである寝室でございます!」

「……」


 だがしかし、お姉さんが扉を開け放った途端、祐樹は思わず言葉を失ってしまった。

 無理もない、何故なら寝室には、デカデカとダブルベッドが鎮座していたのだから……。

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