第7話 物件探しは難しい

 内見当日。

 祐樹と泉は一緒に不動産家を訪れていた。


「泉様、この度は内見のご予約ありがとうございます」


 担当者のお姉さんが丁寧に挨拶をしてくれて、本日の流れを軽く説明してくれる。

 今日見て周る物件は三つ。

 そのうち二つは、泉が賃貸サイトで見つけて候補にしたマンション。

 残りの一つは、こちらが求める条件の元にして、不動産屋がピックアップしてくれた物件となる。


「それでは早速ご案内いたしますね」


 説明も手短に、早速賃貸物件の内見へと向かう。

 祐樹は隣を歩きながら、泉の耳元で話しかける。


「俺達ってあの人から見てどう思われてるんだろうな?」

「し、知らないわよそんなの……」


 不動産屋の人には、ルームシェアとは伝えていない。 

 ルームシェアはほとんどが同性での場合がほとんど。

 男女で物件探しに来たとなれば、カップルが同棲すると思われてもおかしくないだろう。


「お二人は今回、二人暮らし向けのお部屋をお探しという認識でお間違いないでしょうか?」

「はい、そうです」


 だが、流石はプロの案内人。

 事情を配慮して、言葉を上手く誤魔化してくれた。

 おかげで余計な詮索をされずに済み、祐樹はほっと息を吐く。

 祐樹の心配が杞憂に終わり、早速一つ目の物件へと到着。


「こちらのお部屋は1LDKの全面フローリング。バストイレ別で、駅から徒歩十分のお部屋になっております。家賃十万五千万円ですが、お二人で暮らすには十分な広さだと思います」


 丁寧かつ簡潔に説明をしてくれる不動産屋さんのお姉さんに案内されながら、部屋の中へとお邪魔する。

 リビングには大きな窓があり、小さいがベランダもある。

 窓から陽の光が差し込んでいて、部屋はとても明るい印象だ。

 ガスコンロも二つ口で、料理も問題なくできるだろう。

 一方で、湯船は少し小さめで、足を伸ばしてくつろげるかと言ったら微妙なところだった。


「うーん……足を伸ばせない湯船はなぁ……」

「やっぱり、そこは譲れないんだな」


 やはり、泉の反応は微妙だった。

 家で毎日湯船に浸かりたいと言っていたので、お風呂には相当なこだわりがあるのだろう。


「すみませんが、次の所に案内してもらってもいいですか?」

「畏まりました」


 泉が不動産の人にそう言うと、さっさと玄関へ歩いて行ってしまう。


「もういいのか?」

「えぇ、部屋は広いけれど、お風呂がちょっと物足りないわ。それに、ここは角部屋じゃないし、アンタの金銭的にもきついでしょ」

「た、確かに……」

「ほら、じゃあ次行くわよ」


 パっと候補を即決で切り捨てるところも、泉らしいっちゃ泉らしい。

 ということで、二件目の本命である2DKの部屋へと向かう。


「こちら、2DKの二階角部屋でございます。築三十年と年数は経っておりますが、内装はリフォームされており比較的綺麗です。駅から徒歩二十分と少々遠いのがネックですが、家賃も九万円で女性のお客様には安心のオートロック機能付きでございます」


 不動産のお姉さんの説明を聞きながら、祐樹と泉は部屋へと上がる。

 玄関を入ったところがすぐにダイニングとなっており、キッチンと廊下が一体型になっていた。

 奥へと進むと、四畳ほどの広さのダイニング空間があり、その奥に扉が二つ、各部屋へ繋がっているという間取りになっている。

 肝心のバスルームは、まずまずの広さ。

 ただ、床はタイル式になっていて、掃除が大変そうだった。

 部屋に実際来てみた印象として最初に思ったのは――


「意外に狭いな」


 という感想だった。

 これで九万円だと、少しコスパ的に物足りない感じがするのは否めない。

 とはいえ、最低限の条件はそろっているし、多少の妥協は必要だろう。


「なるほどね……」


 泉は顎に人差し指を当てて、バスルームを中心に吟味する。

 そして1分も経たぬうちに――


「最後の物件へ案内してもらえますか」


 と、これまたばっさり切り捨てた。


「ちょぉぉぉーい!」


 決断の速さに、祐樹はツッコミを入れざるおえない。


「何よ?」

「いやいや、もう見切ったの⁉ いくらなんでも早すぎるでしょ⁉」

「だって、写真で見たイメージと違ったんだもん」

「確かに、写真のイメージよりは狭いなとは思ったけどさ! もう少し慎重に考えた方がいいんじゃないの⁉」

「だって、少しでも不自由なことがあるの嫌じゃない。それに、今日見つからなかったら、また探せばいいでしょ」

「お前な……」


 こだわりがあるのは分かるけど、いくら何でも楽観的過ぎるだろ。

 祐樹には、立ち退きという期限が迫っている。

 悠長にしていられる時間はないのだ。


「次の場所へ案内お願いします」

「畏まりました」


 だがしかし、泉は聞く耳を持たず、勝手に話を進めてしまう。

 祐樹はため息を吐きつつ、最後の物件へと向かうことにした。

 二つの候補が一瞬で消え去ってしまった今、泉とのルームシェアの物件探しは、難航を極めそうな匂いが漂い始めている。

 果たして、アパート立ち退き期限前に、祐樹は泉とのルームシェア物件を見つけることは出来るのだろうか?


 しかし、そんな祐樹の心配は、すぐに消え去ることとなるのであった。

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