第4話 泉の覚悟

 祐樹自身、ルームシェアを提案されておいて何を尋ねてるんだと思う。

 だが、泉がどれぐらいの覚悟を持っているのか確かめたかったのだ。

 相変わらず頬を真っ赤に染めたまま、泉が自身の決意を誓う。


「うん。むしろアンタじゃないとこんなこと頼めないよ」


 いや、これだけじゃ足りない。

 まだ深堀が必要だ。 

 気持ち悪いと分かっていても、念には念を入れておく必要がある。

 祐樹はさらに質問を重ねた。


「これは、もしもだぞ。もしも俺の理性のたがが外れて、泉に万が一手を出してしまうなんてことがある可能性だって否定はできない。それでも、本当にいいのか?」


 祐樹の踏み込んだと問いに対して、泉の返答は――



「うん、いいよ……」


 小さい声ではあったものの、泉はこくりと首を縦に振って首肯し、まっすぐな瞳を祐樹へと向けてくる。

 その返答を聞いて、祐樹は泉の覚悟をしっかりと受け取った。

 きっと、泉も相当お金のやりくりに困っていて、なりふり構っていられないのだろう。

 それほどまでに生活がひっ迫しているのか……。

 泉は身を削る覚悟で、祐樹にルームシェアの提案してきたのだ。


 にしても、そこまで念押してOKされてしまうと、逆に泉は祐樹を好きなのではないかと勘違いしてしまいそうになる。

 でもこれは、あくまでお互い金銭的余裕がないからであって、ルームシェアをすることによって家賃の負担を減らそうというだけの事。

 それ以上でもそれ以下もない。


「もしかして、迷惑だった……?」


 黙考する祐樹に対して不安を覚えた泉は、俯きがちに尋ねてくる。

 先ほどまでの威勢はなく、どこかしおらしい。

 祐樹は慌てて首を横に振る。


「そんなことない。むしろ誘ってくれて嬉しいよ」

「本当に?」


 泉の瞳は潤んでおり、今にも泣いてしまうのではないかというほどに儚く見えた。

 その表情を見て、祐樹もようやく覚悟が決まる。

 泉をじっと見つめてから、ふっと破願した。


「しよっか、ルームシェア」

「えっ?」


 祐樹の放った言葉が意外だったのか、きょとんとした顔を浮かべる泉。


「泉の覚悟は十分に伝わった。だから、俺も泉に迷惑かけないようにするし、困ったときは協力もする。だから、一緒にルームシェアしてみよう」

「ホントに?」


 そこまで覚悟を持ってお願いされたら、祐樹に断るという選択肢は存在しなかった。


「あぁ……でも、他の奴らには絶対に口外しないこと。いいな?」

「あ、当たり前でしょ!! でも……ありがとね、富沢!」


 泉は安堵して本当に嬉そうな笑みを浮かべる。

 そんな顔を見せられてしまったら、もう祐樹に反対する気持ちなどさらさら残されていなかった。

 祐樹も腹を括って、節約のため、泉とのルームシェアを受け入れることにしよう。


「それで、部屋の目星はもう付いてるのか?」

「うん! 実はいい物件があって――」



 祐樹が尋ねると、泉はルームシェア向けの優良物件を、心底楽しそうに紹介し始めた。

 そんな泉の姿を見て、思わず聞いているこっちまでほっこりとしてしまう。

 これは祐樹の憶測にすぎないけど、泉が本当にルームシェアしたい理由は、節約のためだけではない気がするのだ。


 アルバイトであくせく働き、家に帰宅しても誰も出迎えてくれない虚しい空間。

 毎月ポストに投函される、支払い請求書の数々。

 誰にも助けてもらえずに、言えない金銭的逼迫。

 そんな孤独を少しでも埋めるため、泉はルームシェアを提案してきたのではないだろうかと、祐樹は薄々感じていた。


 なぜなら、祐樹自身も同じ穴のムジナだから。


 一人で家にいる時間が心細くて仕方ない。

 お金というストレスと孤独に堪え切れず、誰かに支えて欲しいという願望。

 生活で疲れ切った心を、少しでも誰かに癒して欲しい。


 そんな奥底に眠る感情を、お互いにずっと抱えてきたのだ。

 だから祐樹は、泉とのルームシェア生活、少しでも彼女にとって楽しいものになるようにしてあげようと心に誓う。

 こうして、思いも寄らない形で、祐樹は泉とルームシェア同棲を始めることになったのであった。


 だがしかし、祐樹はまだこの時全く気づいていなかった。

 泉が祐樹にルームシェアを提案してきたに……。


 迎えた翌日……。

 祐樹はというと――

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