第2話 提案

 大体の事情を泉に説明し終えると、泉は同情めいた目を向けてくる。


「そう、それはとんだ災難だったわね」

「あぁ。まあでも、大家さんの気持ちをおもんばかると、強気にも出れなくてな」

「随分と優しいのね。私だったら、いきなり立ち退いてくださいなんて言われたら怒鳴りつけるなり居座り続けるなりして抵抗するわよ」

「それは流石に迷惑だから、止めた方がいいんじゃ……」


 普段から強気な態度を見せている泉らしいっちゃらしいけど……。


「まっ、その話は置いといて。アンタはどうするわけ?」

「どうするって、そりゃもちろん、新しい物件を探さなきゃいけないだけどさ……。あっ、そうだ泉! どこかいい物件知らないか?」

 

 泉も祐樹と同じ一人暮らし勢。

 どこかいい物件を知っているかもしれないと思い、ダメ元で聞いてみる。

 すると、泉は居住まいを正して、一つ咳払いをした。


「そうね……。まあ、知らないことはないけど……」

「本当か⁉」


 祐樹は思わず前のめりになり、羨望の眼差しで泉を見据える。


「ちょっと落ち着きなさいって!」


 前のめりになる祐樹を手で制して、一旦落ち着かせる。


「わ、悪い……」


 祐樹もはっと我に返り、深く座りなおす。

 泉はもう一度居住まいを正してから、少し遠慮気味に声を上げた。


「その、ちょっと質問なんだけど……」


 そうもったいぶるように言うと、視線を彷徨わせる泉。

 いつも強気な彼女にしては珍しく、祐樹に尋ねるのを躊躇っている様子で、心なしか頬も少し赤いような気がする。

 しばらく様子を窺っていると、泉が意を決した様子で真っ直ぐな瞳を向けてきた。


「アンタさ。どれくらいなら出せるの?」

「へっ?」

「だっ、だから……家賃」

「あーっ、そうだなぁ……。出来れば安く抑えたい。そんなに金銭的余裕はないから」

「具体的にはどのくらい?」

「まあ、最悪でも四万円以下には抑えたい」

「そう・・・・・・」


 泉は何やら納得した様子で顎に手を当てて、何度か首を縦に振る。

 そして、何やら決死したような表情を浮かべ、祐樹に向かって言い放った。


「それならさ、私と一緒にルームシェアしてみない?」


 と。

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