節約のためにツンデレ巨乳美少女とルームシェア同棲始めました

さばりん

第1話 立ち退き要請

 八月中旬、猛暑続く真っただ中。

 平凡な大学生である富沢祐樹とみさわゆうきは一人コミュニティールームの机に突っ伏して、頭を抱えていた。


「あぁ……これからどうすればいいんだってばよ」


 祐樹が困っている訳。

 それは昨日、ポストに投函されていた一通の茶封筒が発端。

 祐樹が茶封筒を開いて中の書類を取り出すと、そこには【重要なお知らせ】と書かれた一通の書類が入っていて、その内容はなんと、大家さんからの【立ち退き要請願】だった。


 大家さんに事情を聞いたところ、大手不動産に土地を売却することになったとのこと。

 最初は納得いかなかったものの、家主をリタイアして余生を自由に過ごしたいという大家さんの話を聞いて、自分の祖父母と重なる部分があり、祐樹は強く言えなくなってしまったのだ。

 そして、住処を失うことが決定し、今に至る。


 祐樹は突っ伏したまま、ポケットからスマートフォンを取り出して、預金残高を確認してることに。

 しかし、そこに書かれていたのは、無情にも五桁の寂しい数字の羅列だけ。

 まさにジリ貧状態とは、このことを言うのだろう。


「はぁ……これは掛け持ちでバイトしないとヤバいな。引っ越し代もかかるし」


 運よく大学は夏休みということもあり、日中もアルバイトを掛け持ちすれば、なんとか引っ越し代金くらいは補填できるだろう。

 しかし、祐樹にはもう一つ重要なミッションがある。


「新しい家、探さないとな……」


 そう、今住んでいるアパートから立ち退かなければならないということは、必然的に新たな住処を探さなくてはならないということ。

 祐樹にとっては、これが最重要事項だった。

 

 今住んでいるアパートは、都内で家賃二万五千円という破格の優良物件。

 だがしかし、そんな激安物件が都内そこらにあるわけがない。

 良くても、1Kで家賃五万から六万あたりが相場になってくるだろう。

 となれば、月額の支払い料金が上がるのは必須。

 祐樹の生活は、さらに逼迫することになるだろう。


 狭いアパートでの一人暮らし、夜遅くに帰って来ても、誰も出迎えてくれない虚しい部屋。

 毎月ポストに投函される請求書の数々。

 必死にアルバイトをしても、全く増えることのない預金残高。

 そんな未来を考えた途端、気が重くなって頭痛を覚えてしまう。


 祐樹は現実を受け止め切ることができず、新しい物件を探す気力さえ起きない。

 現実逃避とばかりに、祐樹は無料のスマホゲームをすることにした。

 だが、すぐに無料のスマホゲームにも飽きてしまい、ひとまず掛け持ちするためのバイト求人を調べることにする。


「うーん……」


 今の生活でも困窮している祐樹にとって、この休み期間にアルバイトを掛け持ちして引っ越し代を貯めるというミッションは、かなりの重労働となる。

 祖父母に頼み込むという最終手段もあるが、今までお世話になりっぱなしだったので、これ以上迷惑はかけたくないという気持ちの方が強い。

 とはいえ何をするにも、お金が必須であることを改めて実感させられる。


「はぁ……」


 しかしながら、なかなか目ぼしいアルバイト先は見つからず、思わずため息が漏れ出てしまう。


「そんな陰気臭いため息なんか吐いてどうしたのよ?」


 その時、祐樹は突然声をかけられた。

 慌てて顔をあければ、向かい側の席に、いつの間にか一人の女の子が座っている。


「泉、いつの間に⁉」


 祐樹は驚いきながら、向かい側の席に座る女の子、泉香菜いずみかなへと視線を注いでいた。


 泉は祐樹と同じ経済学部一年生。

 よく一緒に講義を受講している所謂授業仲間だ。

 セミロングの艶やかな黒髪が印象的で、耳にはリング状のイアリングが輝いている。

 その小顔で可愛らしい顔もさることながら、スタイルも抜群で、胸元にはふたつの果実がたわわに実っており、猫の顔があしらわれたTシャツは押し上げられ、これでもかと膨張していて、ネコの顔が『ニャオン』と壁に貼り付けられたみたいになっている。


「あんたが渋い表情でスマートフォンとにらめっこしてたから、声掛けずに気づくまで待ってたのよ」


 泉の手元には、大学の押印が押された文庫本が開かれている。

 祐樹が気づくまで、大学の図書館で借りてきた本を読んでいたらしい。


「そこは、声かけてくれよ」

「なんか、随分と思い悩んでるみたいだったから、深刻なことでもあったのかと思って声掛けづらかったのよ」

 

 そう言って、艶やかな髪をさっと手で掻き上げる泉。


「声を掛けにくいオーラを出してしまっていたのなら申し訳ない」


 祐樹が平謝りすると、泉はすっとこちらを見据えてくる。


「それで、何があったわけ? 私で良ければ相談に乗るわよ」


 泉は本を閉じて机の上に置き、祐樹を真っ直ぐに見つめて聞き入る体制を取る。

 どうやら、泉は祐樹の悩みを聞いてくれるらしい。

 泉に相談したところで、解決策などお金を貯める以外に方法はないだろうけど、少しでも心の気晴らしになればと思い、祐樹は昨日起こった出来事を順を追って説明することにした。


 この話が、とんでもない展開を導くとは知らずに……。

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