雲の上 瞳 歌う

@ironlotus

私が幼き時分より、家にはシベリアンハスキーがいた。


名を、「ソラ」と言った。

左右の目の色が違い、それぞれ深い琥珀色と、抜けるような空色だった。


それを見て訝る私に、父がこう説明した。


「この子は、産まれてくる時に、それぞれ地面と空を見つめていたんだ。だから、この子の目の色はそれぞれ、その色をしているんだね。」


「ソラ」は父の話から、私が名を付けたそうだ。


「ソラ」とは、ずっと一緒だった。


子ども用プールで、水をかけあって遊ぶ様子が、居間の写真立てに残っている。


「おすわり」は、無理矢理に私が教えたらしい。


散歩はいつも違った道を見つけて、二人だけの秘密を探し回った。


「ソラ」がお気に入りのおもちゃを壊してしまって、茫然自失の様子をSNSに上げたら、今までにないくらいの通知が届いたこともあった。


私が反抗期で、母と喧嘩になった後は、必ず私の部屋に押し入ってきて、私の横で丸くなっていた。


私が部屋で、鼻歌を歌うようなときも必ずやってきて、「寝ているのにうるさい」みたいな顔をするくせに、絶対に出ていかなかった。


年をとってからは、散歩の途中なのに、笑顔で座り込んだまま動かなくなったりもした。


老犬用の餌の味を、「コレはちょっと美味しくないね」なんて、一緒に食べて確かめた。


毛の艶が悪くなる度に、「おじいちゃんみたいじゃん」って笑ってやった。


病院の診察台で、泣きじゃくる私の顔を舐めながら、細い鳴き声をあげていた。


最後の眠りにつく時には、きっと地面と空を見つめていたのだと思う。


今、「ソラ」を焼いた煙が、雲の上に登っていく。


私も、「ソラ」色の瞳が欲しいから、空を見上げているのだ。


それ以上の理由は、きっと無い。

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