突撃銃とクラスメイト
「とうとうこの時がきたぜ」
士別ダンジョンの2階層に下りて数分、俺の目の前には3体のゴブリンが見える。距離は70m程だろう。こちらにはまだ気づいていないようだ。俺はHK416の槓桿を引き薬室に弾薬を装填する。そして切替レバーをセーフティからセミオートに切り替える。
「その性能を見せてくれよアサルトライフル」
ホロサイトを覗き照準を一番近いゴブリンの頭部に合わせ引き金を引く。銃口から1発の弾丸が発射され、グロック17よりも強い衝撃が床尾を押し付けた肩に響く。しかし手のみで保持していたグロック17と違い、上半身で保持しているHK416の射撃時の安定性は比べ物にならないレベルで抜群に感じた。
そんな射撃を頭部に受けたゴブリンは側頭部に小さな風穴を開け、そのまま霧に変わっていった。
「凄ぇな、グロック17だと50mでも全然当てられなかったのに、これなら100m先でも当てられそうだぜ。・・・次はフルオートを試してみるか」
切替レバーをセミオートからフルオートに切り替え、2体目のゴブリンに照準を合わせる。フルオートで撃つので狙いは頭部ではなく腹部に合わせた。仲間を倒されたゴブリンは奇声を上げながら俺に向かって突っ込んでくる。上層のモンスターは知能が低いと言われるが、少しは考えて行動しないのだろうか?
「まっ、単調な行動をとってくれる方が楽なんだけどね」
俺はそう呟くと躊躇なく引き金を引く。セミオートで感じた衝撃が連続で俺の肩を叩き反動で銃口が勝手に上に上がるのを左腕の腕力で抑える。
一方HK416のフルオート射撃を受けたゴブリンは腹部から頭部までに複数の風穴を開け霧になって消える。俺は照準を横に滑らせ、3体目のゴブリンに向け引き金を引き、霧に変える。
そうして3体のゴブリンを屠ったところでボルトストップが掛かりHK416の弾切れを知らせる。1分にも満たさない戦闘で弾倉に装填されていた30発の弾薬を使い切ってしまったようだ。
「数秒で30発撃ち切るって・・・フルオートは考えて使わないと赤字になりそうだな」
アサルトライフルの弾は60発で100DP。今回の戦闘で獲得したのが30DPなので大赤字だ。
「ま・・・まぁ今回はHK416のテストだったからノーカンノーカン。次からセミオートで倒せば10体で60発分のDPが稼げるから大丈夫大丈夫」
バックパックにゴブリンの魔石を入れ、HK416の空の弾倉とバックパック内の満タンの弾倉を交換する。これでまた30発撃てるようになった。
「今ならあのキラードッグにすら勝てる気がする。エイム練習の成果を確認するのもありだな」
キラードッグの脅威はサイドステップによる射線から逃れる動きだ。セミオートの銃では対処が難しくても、HK416をフルオートで横なぎに撃てば問題なく倒せる・・・と思う。
「キラードッグにビビっていつまでも2階層で燻っている訳にはいかないよな。・・・いっちょ行ってみるか」
3階層に下りることに決めた俺は、バックパックを背負いなおすと階段へ向け足を進めた。
そんなことで3階層。足を踏み入れるのは2カ月ぶりだ。今まではキラードッグを警戒して3階層に下りることはなかったが、今はこの頼れる相棒であるHK416があるし、2階層で素早く照準を合わせる練習も積んできたつもりだ。死角はないと思いたい。
「お?第1ワンちゃん発見」
3階層に入ってすぐに俺はキラードッグと遭遇した。あの日集団で襲われた恨みを晴らさせてもらおう。
キラードッグは俺を見るや否や遠吠えを上げ、突っ込んできた。
俺は切替レバーをセミオートに切り替え、こちらに向かってくるキラードッグの頭部に照準を合わせる。状況的には2カ月前と同じなのにこんなに落ち着いていられるのは俺が成長したからだろうか?それとも単に俺の構えるHK416の存在感が頼もし過ぎるからだろうか?
銃口が自分に向けられていることに気が付いたのか、キラードッグが右にステップを踏んで射線から身体をずらす。俺はすぐに照準をキラードッグに合わせなおすと、その頭部に風穴を開けた。
「前よりも照準を合わせる速度が速くなった気がする。練習の成果が出てるな。・・・お?レアドロップゲット!」
切替レバーをセーフティに戻し魔石を拾うと、近くに『キラードッグの牙』が落ちていた。キラードッグのレアドロップで清算カウンターに提出すれば4000円になる高額ドロップだ。しかもゴブリンの棍棒と違って嵩張らないのもポイントが高い。以前ゴブリンの棍棒が4本ドロップした時はバックパックに入らなくて大変だったのを思い出す。
「キラードッグの牙なんて何個あっても良いからな。もう少し3階層を周ってみるか」
ドロップ品をバックアップに入れ、再びキラードッグを求めて3階層を練り歩く。今日からは3階層を主の活動階層にしてもいいかな。
「あれ?斎藤じゃないか」
あの後追加でキラードッグを倒し魔石の回収に精を出すこと1時間。持ってきたアサルトライフルの弾薬が半数を切ったのでそろそろ帰ろうかと考え、2階層へと上がる階段を上ろうとした時、上から見知った4人組が下りてきて俺に話しかけてきた。
「三浦じゃないか。それに川田に横山、それに福永まで。4人共探索者やってたのか?」
この4人は同じ高校のクラスメイトで、周囲から美男美女グループと呼ばれているちょっとした有名人だ。俺は小学校から同じ学校だったのである程度会話したことはあるが、正直クラスカースト上位の彼らとはあまり関わり合いになりたくないのが本音だ。
「僕達は先週から一緒に探索者をやってるんだ。本当は入学してすぐにダンジョンに潜りたかったんだけど、僕達の親が「しっかりとした装備を揃えるまでダンジョンに入るのを禁止!」なんて言い出してさ。貯めてた小遣いやお年玉じゃ足りなかったから川田ん家の喫茶店で4人でバイトして金を稼いでたんだよ」
そんな俺の気持ちを他所に三浦がこれまでの苦労話を語っている。確かに探索者用の装備は金額が非常に高く、高校生が探索者になろうとする際の大きな壁になっているらしい。
三浦達の装備を見ると、革の胸当てだったり大楯だったりと上から下まで初心者探索者に推奨されている装備を身に纏っていた。武器+防具なんて、高校生にはかなり痛い金額が掛かっているだろう。そう考えると三浦が自分達の苦労話を語りたがっているのも納得できる話だ。
「ていうかあんた、何その装備?あんたミリオタってやつなの?」
「確かに、てか斎藤の防具ヤバくね?コスプレじゃん」
三浦の苦労話を遮って横山が俺の装備を指さし聞いてくる。ギャル系の横山にそう言われるとなんだか馬鹿にされているような気がするのは気のせいだろうか?いや、完全に馬鹿にされてるよな。そしてその横山の言葉に同調するチャラ男の川田。ギャルとチャラ男に馬鹿にされると怒りよりも恐怖の方が強く感じるのは陽キャ耐性が低いからだろうか?
「二人共止めましょう。人の装備を悪く言うのは良くないことですよ」
「そうだぞ。それに僕達だって傍から見たら安物装備の見窄らしい姿なんだ。どんぐりの背比べだぞ」
俺を見て笑ってる川田と横山を三浦と福永が止める。川田が「でもよぉ」と言うが、三浦が睨むと素直に下がっていった。
「悪いな斎藤、アイツらも悪気はないんだ。ただ斎藤の装備が珍しかったからついな。気を悪くしたらすまない」
「いや、俺も他とは違う身なりをしていることは自覚しているから気にしてないよ」
申し訳なさそうな三浦に大丈夫であることを伝える。三浦は「そうか」というと探索の時間がなくなるからと言い、他の3人と一緒に3階層の奥へと消えていった。
「・・・クラスのカースト上位グループと同じダンジョンで探索者やるとか、マジかよ」
別にあの4人が嫌いな訳ではないが、カースト上位というだけで苦手意識を感じる。
俺は今後の探索者活動に一抹の不安を感じながら2階層への階段を上るのだった。
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【クラスメイト4人組パーティ】
・三浦:さわやか系イケメン。大盾を持ち、パーティ内ではタンクを担当する。
・川田:イケメンチャラ男。お調子者だが憎めない奴とよく言われる。火魔法使いの後衛。
・横山:ギャル系美少女。口調がキツイと言われるが根は優しい。片手剣を使う前衛担当。
・福永;清楚系美少女。見た目通りの性格。噂ではお嬢様らしい。ヒーラー担当。
4人共昔からの幼馴染で非常に仲が良い。
【探索者の装備】
探索者の装備はダンジョンのレアドロップで作られている。その為金額が高いが防御力は非常に高い。ちなみに一の着ているインナーは探索者用装備でお値段2万円。
【レアドロップ】
モンスターを倒した時に魔石とは別にドロップするモンスターの素材のことである。レアドロップという名称だが、モンスターによってドロップ率が違っており、確実にドロップするモンスターも存在するが、昔からの名残でレアドロップという名称で呼ばれている。
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