キラードッグ
2階層から3階層へ下りる階段を慎重に進む。モンスターは基本的に階層を繋ぐ階段付近には湧かないようになっているらしいが、初の3階層ということもあって俺の足の進みは遅くなっていた。
「見た目は1階層や2階層と変わらないのに階層が変わるだけでこんなに緊張するとは・・・俺って意外とビビりだったのかな?」
キラードッグは犬型のモンスターでありゴブリンよりも動きが速く、初心者には攻撃が当てにくいらしい。キラードッグを苦も無く倒せるようになってからが探索者としてのスタートラインだと言う探索者もいる程だ。
「大丈夫。キラードッグに苦戦するようなら2階層へ戻ればいいんだ。階段近くで戦ってヤバそうだったら2階層に逃げよう」
階段を下り切りグロック17をホルスターから抜く。キラードッグはゴブリンのように安全距離から一方的に攻撃できないだろう。一気に距離を詰められたら銃を持っているという優位性など一瞬でなくなってしまう。
「・・・気を抜かないようにしないとな」
グロック17の銃口を前方に向けてゆっくりと前に進む。目の前の通路は1本道だ。分岐路に差し掛かるまでは前方への警戒のみでいい。
「・・・いた」
そうして進むこと数分。とうとう目的のキラードッグと遭遇した。
幸いキラードッグはこちらに背を向けている。攻撃するなら今だ。
俺はグロック17の照準をキラードッグに合わせ引き金を引く。倒しきれなかった時のことを考え3発射撃する。
キラードッグは3発の銃弾を受けるとそのまま霧になって消えていった。
「・・・オーバーキルだったかな?次からは2発くらいでよさそうだな」
キラードッグの魔石を拾いバックパックに入れる。キラードッグの魔石はゴブリンよりも高く売れる。恐らく貰えるDPもゴブリンより多いだろう。
「もう少し進んでみるか」
キラードッグの耐久値はそんなに高くないらしい。確実に弾を当てることを意識して戦えば何とかなるだろう。
・・・そんな甘い考えをしていた数分前の俺を殴りたい。
「クソッ!横に動されたら弾が当たらないだろうが!」
初のキラードッグ戦から数分後、俺は2体目のキラードッグと戦っていた。流石に2体連続不意を付けるなんてラッキーはなかったので正面から堂々と戦ってみたが・・・確かにキラードッグを倒せるようになってようやくスタートラインっていう意見があるのも頷ける。ゴブリンと違って戦いにくい。
「犬がサイドステップしながら接近してくんじゃねぇよ!・・・!?」
なかなかキラードッグに弾が当たらず悪態をついた時、奥の通路から別のキラードッグが2体俺に向かって走ってくるのが見えた。
「おいおいマジかよ!?」
キラードッグ1体でさえ苦戦しているのに3体も相手になんてできるかよ!
俺は先頭のキラードッグにグロック17を発砲しながら2階層への階段に向かって後退していく。しかし左右にステップを踏みながら突っ込んでくるキラードッグには当たらない。
「動くと当たらないだろ!・・・ってヤバ!?」
グロック17の引き金を引いた瞬間、スライドが後退したまま戻らなくなった。ホールドオープン・・・弾切れだ。
すぐに空になった弾倉を抜き新しい弾倉と交換しようとするが、そんな隙を見逃してくれるほどキラードッグは優しくないようだ。
今までサイドステップで低速で近づいて来ていたキラードッグが一気に俺に詰め寄り、飛び掛かってきた。
噛まれる。
そう思った瞬間、俺は飛び掛かってくるキラードッグに向けて蹴りを放っていた。身体が勝手に動いたってやつだ。
空中で蹴りを受けたキラードッグはそのまま壁に激突し動かなくなる。霧にはなっていない為倒せてはいないが、立ち上がらないところを見るとかなりのダメージを与えたと思う。
俺はグロック17に新しい弾倉を込めると、倒れているキラードッグに2発撃ち込み霧に変える。やっと1体倒した。しかし安堵している暇はない。すぐに照準を別のキラードッグに向け、真っすぐ飛び掛かってくるキラードッグに1発射撃する。
頭部に銃弾を受けたキラードッグは空中でバランスを崩し、俺の横に落ちる。
「これで2体目!」
2体目のキラードッグが霧になったのを横目で確認しながら最後のキラードッグに照準を向ける。流石に2体もやられたことを怒っているのか唸り声を上げながら突っ込んでくる。俺はあえてキラードッグに向かって前進し、キラードッグが飛び掛かる前に横っ腹に蹴りを叩き込む。そうして吹き飛んで倒れたところにグロック17を2発撃ち込んだ。
「ハァ・・・ハァ・・・何とかなった・・・か?」
3体目のキラードッグが霧になるのを見届けると、緊張が解けたのか汗がドッと吹き出し、手が震えだす。1体でも苦戦していたキラードッグを3体相手にして勝てたのは火事場の馬鹿力だろうか?正直もう一度やれと言われても絶対にできないだろう。
「なんにせよ3階層はまだ俺には早かったかな。少なくとも素早く動く相手にしっかりと弾を当てるエイム力を鍛えなくては」
深呼吸をして手の震えを何とか抑えるとキラードッグの魔石を拾う。とにかく2階層へ戻ろう。
魔石をバックアップに入れた瞬間、遠くでキラードッグの鳴き声が聞こえる。流石にこの状態でもう一戦キラードッグと戦うのはきつい。
「・・・必ずリベンジしてやるからな」
俺はバックパックを背負いなおすと2階層への階段へ速足で向かう。これは敗走ではない。勝利への為の勇気ある後退だ。
そんな負け惜しみっぽいことを考えながら、俺は3階層を後にするのだった。
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