初のダンジョン探索

「はい。探索者カードを確認しました。斎藤様はFランクですので探索は5階までとなります。」

「わかりました。ありがとうございます。」


俺は士別ダンジョンの職員から探索者カードを受け取るとダンジョンの入り口に向かう。周りにいる他の探索者は俺を見て温かい目を向けたり笑ったりしているがそんなものは無視だ。


周りの探索者がそんな反応をしている理由はわかっている。俺の服装のせいだろう。

今俺はミリタリーショップで買った黒色の防弾ベストに拳銃用の弾倉入れを付けている。頭には兜ではなく黒色のキャップ。グロック17は右太ももに着けたレッグホルスターに収めている。見た目は完全にSWATもどきだ。

インナーこそ探索者用の防具店で買ったダンジョン産の素材を使用した全身タイツのような物を着ているが、それ以外はほぼコスプレだ。


周りが鎧だのローブだのといったファンタジー系の装備を身に付けている中、俺のミリタリー装備は明らかに浮いていた。

だが、折角銃を使えるスキルを手に入れたのだから恰好だってそれっぽくしたいのがミリオタだろう!

なので好きでSWATもどきの恰好をしている俺はこの周りの探索者からの視線に耐えざるをえないのだ。


「さて、初のダンジョン探索だ。ドキドキしてきた。」


スキル取得ツアーで一度入った士別ダンジョンだが、今日はソロでの入場だ。トラブルがあっても助けてくれる人はいない。

俺は一度深呼吸をすると、ダンジョン内に足を踏み入れた。


















ダンジョン内は洞窟のような石壁になっている。階層が下がると景観が変わるらしいが、士別ダンジョンでは10階までは洞窟型のダンジョンらしいので、俺が新しい景色を見るのはまだまだ先の話だ。


「ゲゲ・・ゲェ」

「・・・ゴブリンか」


士別ダンジョンに入って数分、俺の前に緑色の肌をした小人が現れた。士別ダンジョン上層に出現するゴブリンだ。士別ダンジョン1階のモンスターはスライムとゴブリンで構成されている。スライムは核を壊さなくては倒せないが、ゴブリンはどこに攻撃を当ててもダメージを与えることができるので、ゴブリンの方が初心者向けのモンスターという探索者も多い。しかし人型のゴブリンは棍棒などの武器を装備していることもあり、スライムの方がおすすめという意見と長年対立している。尤も、どんなモンスターであろうと危険であることには変わりない。


「距離は25mくらいか。上手く当てられるかな?」


ホルスターからグロック17を抜きスライドを引いて薬室に弾を込める。後は引き金を引けば弾が出る筈だ。銃口をゴブリンに向け引き金に付いている安全レバーを押し込む。ゴブリンも俺に気が付いたのか棍棒を構え奇声を上げながら小走りで向かってくる。


ゴブリンの胴体目掛け照準を合わせ引き金を引く。1発目は右に外れた。2発目・・・命中。

ゴブリンは弾の当たった腹部を手で押さえ足が止まる。3発目は頭部を狙い・・・命中。

ヘッドショットを受けたゴブリンはそのまま仰向けに倒れるとそのまま霧になって消えていった。


「意外と当たるもんだな・・・っと、これがゴブリンの魔石かな?」


ゴブリンが消えた場所にはスライムの魔石と同サイズの魔石が転がっていた。俺は魔石を拾うと背負っていたバックパックに魔石を入れる。ついでにスポーツドリンクを取り出して1口飲む。どうやら思っていた以上に緊張していたらしい。戦闘が終わると口の中がカラカラだった。


「ゴブリン1体に弾2発か。頭に上手く当てられれば1発で倒せるのかな?」


グロック17をホルスターに戻しバックパックを背負いなおす。残りの弾は64発。考えなしに使えばすぐになくなってしまう数だ。大切に使わなくては。


そうして初戦闘から数分、またゴブリンに遭遇した。曲がり角で不意の遭遇、5mくらいの距離だ。

俺はグロック17を抜くとゴブリンの頭部目掛け引き金を引く。頭部に弾を受けたゴブリンはそのまま霧になって消えていった。


「ビックリしたぁ。こんな近距離で接敵するなんて・・・曲がり角はより警戒が必要だな。」


ゴブリンの魔石を拾いながらバクバクと高鳴る心臓を深呼吸で落ち着かせる。今回は何とか対処できたが、もし弾が外れてたら俺が攻撃されていただろう。棍棒で殴られるなんて考えただけでゾッとする。


その後も順調にゴブリンを倒していき、ダンジョンの2階層に通じる階段まで到達した。一般的にダンジョンの1階層というのは難易度が低く、2階層からが本番と言われている。俺も1階層での戦闘は物足りないと思っていたところだ。

俺は迷うことなく階段を下り、士別ダンジョンの2階層に足を踏み入れた。


「ネットでは2階層からが本番って書いてあったけど・・・こういうことか。」


2階層に足を踏み入れて数分、前方にゴブリンが現れた。それも3体もだ。


「1階層では1体ずつしか遭遇しなかったけど、2階層からいきなり3体もかよ。」


グロック17を構え一番近いゴブリンに発砲する。頭に弾を喰らったゴブリンが霧になり、それを見た他のゴブリンが俺に気づくが・・・遅い。


こちらに向かってくる2体のゴブリンの腹部に射撃し足を止める。そのまま近づいて確実に頭に撃ち抜きゴブリンを始末した。


「よしっ!距離さえ取れてれば2階層でも戦えるな。」


俺は2階層でも十分に戦えることに自信を持ち、そのまま2階層の探索を開始する。遭遇するゴブリンは2~3体程のグループだったが、問題なく倒すことができた。


「お?これは・・・レアドロップか。」


2階層に下りて何度目かの戦闘後、霧になったゴブリンが魔石とは別に棍棒を落としていった。

ダンジョンのモンスターは魔石の他にもこういった武器や素材を落とすことがあり、レアドロップと呼ばれている。


「ラッキー!棍棒が2本もドロップしてるじゃん。初めてのレアドロップだし1本は記念に取っておこうかな」


棍棒を拾ってバックパックに入れる。そのまま予備の弾を取り出し、空になった弾倉に弾を込めていく。


「弾が20発を切ったな。バックパックも重たくなってきたしそろそろ戻るか。」


グロック17の弾倉を交換しバックパックを背負う。棍棒を2本入れたせいでバックパックが結構パンパンになっている。


「収納っていうスキルが存在するらしいけど、そんなスキルがあったらこの重たさから解放されるんだろうなぁ。」


そう呟きながら俺はダンジョンを出る為に道を引き返すのだった。


















あの後、道中に現れたゴブリンを何体か倒し、無事に士別ダンジョンの管理棟まで戻ってくることができた。今は清算カウンターに並んで魔石の買取を待っているところだ。士別ダンジョンを利用している探索者は少ないが、清算カウンターが1つしかない為多少の待ち時間はできる。


「はい。次の方どうぞ。」


俺の番が来たみたいだ。職員に促され俺は清算カウンターまで進み、バックパックに入れていた魔石とゴブリンの棍棒を1本。そして探索者カードをカウンターの上に出す。


「探索お疲れさまでした。初めての探索はいかがでしたか?」


「いやぁ、緊張しました。でもゴブリン相手にしっかりと戦えることがわかったので自信が付きました。」


「ふふっ、次の探索も頑張ってくださいね。・・・はい、査定が終わりました。今回の買取価格は5000円になります。ゴブリンの棍棒が3000円、魔石が全部で2000円ですね。」


ゴブリンの棍棒は思ったより高値で買ってくれるらしい。こんなことならもう1本も買取に出せばよかったかな。

俺はお金を受け取ると管理棟に併設された更衣室へと向かい私服へと着替える。流石に街中で武器を見える様に携帯することはダンジョン法に引っかかるので、探索に使った装備は全てロッカーに入れておいたボストンバッグに入れていく。


そうしてバックパックを背負い、肩にボストンバッグを掛けた俺は家に帰る為にバス停へと向かう。


「疲れたけど達成感があるな。明日もまた来ようかな。」


そんなことを考えながら俺は丁度バス停に到着したバスに乗り込み、家へ帰るのだった。





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【探索者カード】

探索者証明証の別名。探索者証明証がカードの形状なので何時からか探索者カードと呼ばれるようになった。


【探索者ランク】

探索者はランク分けされており、魔石の収集など貢献度によってランクが上がる。Dランクまでは貢献度のみで昇格できるが、Cランク以上は貢献度の他に昇格試験を受け合格する必要がある。

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