第2話
【興奮と現実】
それから父に頼んで道具を買い揃え、何回も何回も描いては描いてはそれを見せた。僕を褒めている父の顔は笑顔で、見るだけで僕を次に進めさせてくれた。
「気持ち悪い、二度と書かないで。」
そう同級生に言われたのは小学6年生の夏の頃。砂漠の動物だって尾を巻いて逃げ出しそうなカラッと熱い学校の退屈な授業の前半戦を乗り越え、多くのクラスの子達が早足に外に出ていく中、僕だけは外を眺め、涼しい教室でアニメーションを作っていた。ふと同じクラスの佐藤さんを見つめた。活発な女の子で、男にも負けず劣らずの明るさで
勢いよくボールを蹴っていた。その姿が、ひたむきさが美しいと思った。ふと気づいた頃には彼女を描いていた。悪意のある視線にも気付かぬままに...
ある日の学校の朝、教室に着くと。
「おーい、中村が希の事書いてるぞー。気持ちわりぃ。」
希とは佐藤さんの名前だ。あの時描いていたのが誰かにバレていたのだ。彼女の蔑んだような目と強い言葉に、僕は勢い良く教室を飛び出してしまった。その日の夕方、オレンジの夕焼けを眺め、河川敷で1人泣いた。僕には美しいものを自分の描きたいように自由に描くことが出来ないのだと。自分はおかしいのだと。その時からアニメーションを書くことをやめていた。父のあの優しい笑顔も見ることはなかった。いや、見ようとしなくなった。
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