涙で濡らした紙をもう一度

孤独

第1話

【邂逅】


始めてアニメーションという世界に出会ったのは物心が付いた頃だった。両親にとある老人が1人で経営している映画館に連れられ、私はそこで思いもよらない出会いをした。その映画館は雨に溶け、風化した煉瓦の陰気な匂いが立ち込め、土埃っぽく、肺の弱い僕は良く噎せた。見たのはよくあるバトル映画。熱い主人公は色々な仲間と様々な苦難を乗り越え、泥臭くも鮮やかにラスボスを倒す。見飽きたベタな展開だった。

『優一。この映画はどうやって作られているか知っているか。』映画オタクの父は間髪入れずに続ける。

『一つ一つの紙で描かれたコマが何枚も何枚も重なって、この映画になっているんだ。凄いとは思わないか。』

まだ幼かった私にはそれが分からなかったが、寡黙な父の珍しく熱い顔は、僕のアニメーションを作るという十分なきっかけになるには十分だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る