第13話 駄菓子かし。
「すーぱーにしかない良さというものがあるのですよ山田さん」
「ドソキホーテと何が違うんだよ」
「雰囲気? でしょうか」
「というかお嬢様ずるいです。私もドソキホーテ行ってみたかったです」
なんやかんか現金を用意してスーパーの中を練り歩く。
田舎者が大都会に初めて来たみたいな雰囲気をガッツリ醸し出して店内をあちこち見て回るものだから恥ずかしいったらない。
俺はただ惣菜とか弁当を買えたらそれでいいのだが、お嬢様たちには興味深い場所だ。こうなる事はやはり仕方ないのだろう。
「てか一之宮はともかく、九重さんとかは買い出しでこういった店を利用したりはしないんですか?」
「普段からお付き合いのある業者さんに全て仕入れを任せていますので、こういった庶民スーパーの利用はあまり」
「なるほど」
「や、山田さん……これは、なんですか?!」
「……いや、普通に駄菓子だが」
「ダガシ?」
一之宮が興味深そうに見ているのはお菓子コーナーの駄菓子たちだった。
一之宮は駄菓子屋のばあちゃんのあったかさとか知らなそうだよな。
「駄菓子ってのはな一之宮、子供たちのささやかな想い出と夢が詰まったお菓子なんだよ」
「なるほどっ」
「着色料など色々使われているのですね……あまり身体には良くなさそうですが」
「こ、九重……これ、買っちゃだめ?」
半泣きになりながらいい歳した女子高生な一之宮杏香お嬢様はコネコネ混ぜるお菓子を手に取っていた。
「ぐはッ?! ……か、可愛い……」
「九重さん、甘やかすと大変ですよ」
「山田さんもあとで一緒に食べましょう?」
「まあ、たまにはいいんじゃないですか九重さん?」
「山田様の陥落の速さに驚愕でございます私」
ちょっとときめいたんだから仕方ないだろ。
だがこのままお菓子コーナーに居ると一之宮がずっと居座る可能性があったので別のコーナーに向かった。
「キャルピスの原液にも色々あるのですね」
「キャルピスはお歳暮とかの贈り物としてもわりと人気のあるものだからな」
「そうなんですね」
キャルピスの歴史もかなりのものであり、庶民からの認知度や浸透度合いも親しみ深い。
色々な味のキャルピスたちが登場しているわけだが、今回の目的は「キャルピス珈琲」である。
「やはりキャルピス珈琲となると、デフォルトの味の方が良いのでしょうか?」
「まあそうじゃないか? 試した事はないからアドバイスは出来んぞ」
「とりあえず全部購入してみましょうか? お嬢様」
「金持ちめ」
「では山田さんが決めてください」
「いやなんでだよ」
ニコニコでそんな事を決めさせてくる一之宮。
飲むのは一之宮であるわけだが、俺は一之宮の好みを知らない。
そもそもキャルピススレの奴ではノーマルのやつでスレが立っていたし、選ぶとするならばやはりノーマルのやつだ。
だがしかし、俺はピーチ味を選んだ。
「ではノーマルのとピーチを買います」
「いやどっちも買うんかい」
「今夜はキャルピスを一緒に飲みましょうねお嬢様」
「そうね九重」
楽しそうでなによりである。
その後はニェスレの珈琲も購入して俺らのお買い物は終わった。
俺もしっかりと割引弁当を購入できたのでよかった。
というか一之宮たちと回っていた故に丁度いい時間で弁当を手に取ることが出来た。
「一之宮、車の中でニャルニャルニャルネはかなりリスキーだぞ?」
「止めないで下さい山田さん。私の探究心は止められないのです」
「段差で車が揺れて粉が盛大にばら撒かれるに100万ペリカ」
「スレ民御用達の通貨ですわね……」
「ああ。存在しないから俺のお財布は痛まない」
知っている人は知っているとあるギャンブルマンガの中で出てくる架空の通貨である。
「できましたわ」
「お嬢様すげーな。結構揺れてたのに」
「頑張りましたっ」
杏香お嬢様が褒めて欲しそうに俺を見てくる……
ドヤ顔可愛いな。褒めないけども。
「夕飯前にそんなの食べたらご飯入らないだろ」
「……は、 入ります、し」
「お嬢様、糖質を摂ると食欲が満たされてしまうので厳しいかと」
「……しゅん……」
学校にいる時は綺麗で大人な一之宮。
今は子どもみたいなわがままや感情の起伏があって、分かりやすい女の子。
人間には色んな一面が往々にしてあるが、一之宮のこういう一面は正直嫌いじゃない。
最近よく思うことではあるが。
「送ってもらって悪いな」
「スーパーに行けて楽しかったです」
「お嬢様とキャルピス珈琲を試したら感想をお伝え致しますね。山田様」
「期待しないで待ってますよ」
あっという間に自宅についた。
やっぱり我が家の電気は着いていない。
いつもの事ではあるが。
「あっ! 山田さんっ!」
「ん?どうした?」
「バレンタインチョコです」
「え、あ、おう……ありがと」
わざわざ可愛くラッピングされた不意打ちチョコにドキマギした。
たぶん外が寒いから、受け取るのに手間取ったのだろう。
「ではまた学校で」
「お、おう」
せっかく買った弁当の味はお陰で覚えていない。
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