第12話 原液でいいのかはっきりしろよ。
学校が始まった。
正直学校に行かない方がお金が掛からなくて助かるんだが、しかし行かないわけにもいかない。
「であるからして、この英文の回答としては」
学校での一之宮は至って普通だ。
やたらと話し掛けて来ることもない。
まるで冬休みでの出来事なんて無かったかのようである。
しかし一之宮と関わるようになってから改めて学校での一之宮を観察していると、ますます不思議だと感じる。
やっぱり学校での一之宮は浮世離れしているというか、良い意味で浮いてる。
綺麗で、微笑みも女神だと言われたら素直に頷いてしまいそうになる。
やはり俺なんかとは住む世界が違う人間なんだと実感する。
今日なんてバレンタインデー当日だったわけだが、その辺の男子より貰ってたからな一之宮お嬢様。
机の両方に紙袋いっぱいのチョコである。
それでよく「中島」になりたいとか言えたものだ全く羨ましい。
一之宮は有限会社フォーエバースタイルには就職出来ません。あとでお祈りメール送っとくね。
「じゃあ今日はここまで」
つつがなく今日の授業も全て終わった。
晩御飯をどうしようか、というかそろそろ食費がやばいので今日は晩御飯を食べられるかどうかを検討しながら下校ルートを歩いていると一之宮を乗せた黒塗りの車が通りかかった。
「山田さん」
「お、おうどうした?」
車の窓からひょっこり顔を出す一之宮。
なんかとても絵になるな。普通に可愛いくてちょっとドキッとしたわ。
「たまたま通りかかったのです。よければご自宅まで送りますよ」
「有難いけど、スーパー寄るから遠慮しとく」
「す、すーぱー!! 面白そうですねっ」
「いやドソキホーテと対して変わんないから」
「ではスーパーまで行きましょう山田さん」
「というわけなので山田様」
「え、いやちょと」
一之宮に手を引かれ、九重さんに肩を掴まれて車の中へ連れ込まれた。パッと見はもう誘拐である。
「九重さんは一之宮を甘やかし過ぎだと思いますよ。何でもかんでも悪ノリして……」
「面白そうなことなのにどうしてそんなことを言うのか私にはわかりませんね」
「そうです。べつに私は九重に甘やかされてはいませんもの」
「……そうか……」
スーパーではしゃぐのなんて小学生くらいのものなのだが、庶民とは感覚の違うお嬢様たちだとそう言った感性もやはり違ってしまうのは仕方がない気はする。
ドソキホーテの時もそうだったしな。
「はっ! 山田さん、スーパーにはキャルピスは売ってますか? 私、これを試したいのですっ」
「ああ、キャルピススレのやつか」
「はいっ。キャルピスの原液? をコーヒーに入れて飲むと美味しいらしいのです」
「……そもそも一之宮って珈琲飲めるの?」
「飲めますよ。なんなら紅茶より個人的には好きですし」
まあでも学校ではなるべく紅茶を飲むようにしているとかいないとか。
「屋敷にはお嬢様の珈琲の部屋も存在する程には嗜んでらっしゃいますよ」
「……極めてんな」
流石はお金持ちだな。
珈琲ってそもそも嗜好品だし、生活に余裕があるほど楽しめるもんなんだろうな。
「着きましたわね」
「あ、九重さん、現金って持ってます?」
「いえ、カードしか所持していませんが」
「この店、現金しか使えないんですけど」
「……カードが使えない、そ、そんな……」
お嬢様がスーパーの駐車場で四つん這いになって項垂れてるんだが……
カオス過ぎるだろこの光景。
てかどんだけキャルピス珈琲楽しみにしてたんだよ……
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