第6話 ネットのパンドラの箱。
12月25日。
未だにクリスマスソングは白い街を満たしている。
「楽しみですっ」
「お嬢様、はしゃぎ過ぎです。びっくりガシャポンが楽しみなのはわかりますが」
「いやガチャメインじゃないだろ……」
そんな中、俺は今、回転寿司屋に来ている。
「というわけで山田様、本日はお嬢様共々よろしくお願い致します」
「
「…………まあ、はい」
寿司は好きだしさ、クリスマスに一之宮さんみたいな美人といられるだけでなく使用人の九重さんもスタイル良くて美人なんだけどさ、なんで俺が原住民ガイドみたいな感じになってんだよ。
回転寿司くらい普通に行けよ。
てか一之宮さんはともかく九重さんもどっかのお嬢様なのか? 一般人じゃないのかよ?
九重さんなんか昨日の今日で中途半端な初対面だからなんかやりづらいわ。距離感とか。
「……あのさ、一応言っておくけども、味は期待するなよ? お嬢様たちが口にしてるようなもんとは味はどうしたって落ちるだろうし」
「大丈夫です。私、味音痴ですし」
「そうです。お嬢様は残念なほどに味音痴ですので」
澄ました顔で言うなぁこの使用人。
「九重さん意外とボロクソに言うんだな」
「九重は親戚のお姉さんみたいなものなので、こんな感じです。自宅なのでは他の使用人などの目もあるのでもう少し他人行儀ですが、友だち感覚でいられるのです」
「なるほど」
「姉と妹みたいなものです」
「九重はシスコンみたいなものなので」
「そうか」
思ってた主従関係とは違うのでさらに距離感を掴めない。
シスコンらしいので、昨日の事がバレていなかった場合のバレた場合とか考えたら怖いな。
殺されるんじゃないか?
全裸で白目向いて尻叩きしつつベッドを昇り降りしながら「ビックリするほどユートピア!!」とかやらせなかったら良かったかもしれん。
「でもなんで回転寿司なんだ?」
「ゆくゆくは寿司安価スレをしたいからですっ!!」
「寿司杏香擦れ……なんかえっちな響きですよね」
「…………」
俺は顔を抑えて灰色の空を仰いだ。
なるほど、もう手遅れなようだ。
傍にいる使用人がもうダメだった。
たしかに名前にもあるし、伏線回収としてはいいのだろう。
だがしかしだ、感動も興奮も無いただただ残念な展開。
杏香って名前さ、
でもこれはなぁ……
色々ともう手遅れ感あるよな。
「お嬢様からお聞きしたのですが、なんでも寿司杏香擦れは中々お寿司が食べられないと聞きます」
「そうなのです。お寿司が食べたくてお寿司屋さんに行ったのにも関わらず、スレ主は大抵お寿司を食べることが出来ない。どころか色んな攻めを喰らう恐ろしいゲームなのです九重」
「攻めっ?! そんなお嬢様いけませんっ! はしたないですっ!!」
九重さんは盛大になんか勘違いしているようだ。
ネット掲示板における寿司安価スレとは、アンカー機能と呼ばれるものだったはず。
元々は、リンクさせる、みたいな意味合いだとか聞いた事はあるが俺自身もよく分かっていない。
ただヨーチューブでまとめ動画を見ている感じだと、ヌイッターの呟きに対して付くレスの特定の順番・番号などに紐付けられる、みたいな印象だろうか。
どんな注文がいいか? という呟きについたレス対しての指定が3番目だったとして、更新されたレスの3つ目が採用される、みたいな感じ。
レスが1、たまご。2、マグロ。3、猫缶。
だった場合、採用されるのは指定した>>3。
つまり注文するべきは猫缶になるのである。
コンビニ安価スレなどではよくある鬼畜安価だったりする。
要するに、安価とは視聴者からの要望・無茶ぶり・大喜利である。
恐ろしいネットのパンドラの箱なのである。
そしてよりにもよって、一之宮杏香お嬢様はそれをゆくゆくはやりたいという。
頭がおかしくてらっしゃるようで。
「なので今回は回転お寿司デビューで回転お寿司のお作法などを知っておきたく」
「庶民の友人がいないお嬢様の為に山田様、よろしくお願い致します」
「では行きましょう」
「本日はこの店舗を
「……」
いややっぱ意味わからんわこの展開。
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