妖精姫のお喋りに会話機はいらない~婚約ごっこはティーガーデンの東屋で~

尚乃

プロローグ

 家に住みついた「小精霊」がこっそり家事を手伝ってくれる、そんなのは100年も前の昔話。

 工場地に変わった「おとぎの島」で、国王の使役する「小精霊」が、砂糖や紅茶、妖精の粉を大量製造することで王国は豊かさを享受していた。

 使役魔法の代償は「声」――獣のように鳴くことしかできず、口や喉で話していたことを忘れかけている時代、人々の間では筆談用の機械(会話機)が広く普及している。


 ――アラスタが筆記した文章を読み返して、頭の中で要約してみた。


 嘘をついているようには見えない。

 ピピは自分が言った嘘を訂正すべきか思案しているうちに、彼はペンを進めていた。


『私たちのことを国民が知れば歓喜するだろう』


 ちょっと待って欲しい。自分の嘘が王国中に波及してしてしまう。


『過去100年で最も祝福された二人になる』


 細い金線が紡がれるように細工されて布のように滑らかな腕輪、留められたサファイアの色は深い。ピピの瞳の色に似ている……らしい。さっき彼が差し出したので、面白がって自分の腕に付けて揺らたり宝石サファイアを覗き込んだりして遊んでいたが。


『貴方と婚姻できる私は幸運な男だ。王位に就けば「幸運王」とでも呼ばれるかもしれない』


 あー、そのことなんだけどね。ちょっとした誤解があったみたいかな。

 妖精姫っていうのは……。

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