第二章 ヒナと遊びつくす物語
第6話 お気に入りの水族館
何事もなくヒナと一緒のベッドに眠り、朝を迎えた。
奥のほうの部屋ということもあり、太陽の光が当たりやすいため、朝の日差しがよく当たる。
俺は朝の眩しさに目覚める。ヒナもちょうど目覚めたようだ。
「おはよ」
俺が挨拶をすると「おはよう」とかわいらしい声で返してくる。
「まだ眠そうだね」
「朝は苦手なんだ」
「なんか予想通り。あーあ、朝寝坊する読みだったから私がアオイを起こそうと思ったのに、起こせなかった」
なぜか残念そうにしているヒナをよそに俺は更衣室で着替えをする。
「今日は何する?」
「この施設何ができるかわからない」
「ここにきてまだ二日目だもんね。案内するよ!」
「ならヒナのおすすめのところに連れて行ってくれ」
「うん! でもその前に、朝ごはん食べようね」
そういうとヒナは部屋の電気のスイッチのボタンを押した。
「昨日から気になっていたのだが、このボタンってなんだ?」
「このボタンは部屋にアンドロイドを呼ぶボタンだね」
「昨日言っていたやつか」
「そうそう。もうすぐで来るよ」
ヒナが言い終わると同時に部屋にコンコンと二回ノックがされる。
部屋のドアを開けると人間がいた。
髪の色は淡い青色で、ショートヘアの綺麗な女子だと思った。
「ご用件は何でしょうか?」
「これがアンドロイドだよ。二人分の朝ごはんをよろしくね」
「わかりました」
アンドロイドはどこかへ行ってしまう。
「あれがアンドロイドなのか。人間かと思った」
「ほんといつみてもアンドロイドだとは思えないよね。巧妙に作りこまれているというかね。でも喋り方で判断できるよ」
「確かに人間より硬い喋り方してるからそれで判別できるのか」
しばらく待っていると朝食が部屋に届く。
タマゴをサンドしたタマゴパンが4枚届く。一人2枚なのだろう。
家にいたときよりも質素な朝ごはんになりそうだなと思った。
「アオイ、質素だなと思ったでしょ」
「なんで人の気持ち読み取れるんだよ」
「顔に出てたからだよ。ここのタマゴパンはすごくおいしいんだよ」
パンを手に取り、食べる。
濃厚なタマゴとマヨネーズが口いっぱいに広がる。それをパンで包み込んでいるためバランスがいい。
「めっちゃおいしい!」
「ここの食事は毎日楽しみになるぐらいめちゃくちゃおいしいよ」
昨日のカレーでも思ったが、どうやったらおいしく作ることができるのだろうか。
アンドロイドが作っているからといってここまでおいしいものを作れるのだろうか。
ここで作られている料理が食べるたびに気になりだす。
「おすすめの場所ってどこなんだ?」
「その前に、アオイはこの家に何があるか知ってる?」
「遊園地みたいになってることしか知らない」
「実際に遊園地もあるんだけど、ほかにもVR体験施設だったり、勉強施設だったり、工業施設だったりいろいろとあるんだよ」
「たくさんあるんだな。これがシャチさんの求めていた自由なのか?」
「シャチさんというよりは、私たちが望んだことをシャチさんがかなえてくれるんだよね。ほとんどの物がリクエストで作られたものだよ」
「頼めば作ってもらえるってことか。シャチさん何を望んでいるんだ?」
「私にもわからない。だからこそシャチさんって不思議な人だと私は思う」
この施設を作り、捨てられた子供たちを救う。
才能のある子どもを救っているとは言っているものの俺には才能がない。
自己犠牲にしては金を使いすぎている気がするし、そう考えると彼が求めていることは本当にわからない。
「いろいろな娯楽施設の中で私が一番好きなのは、水族館」
「水族館が好きなのか」
「意外?」
「意外も何も平均とか基準が下級市民にはわからないからな」
「そっかー。でも大丈夫! 誰でも楽しめる施設だから!」
「楽しみにしている」
ヒナと水族館に行くことになった。
---
受付を済ませ、ヒナと水族館の中へ入っていく。建物は4階建てのようで、広く感じる。
ウェルカムホールを抜けると、丸い空間が俺とヒナのことを迎えてくれた。
周りには窓越しに、魚たちがたくさん泳いでおり、すごく綺麗だった。
この魚たちはどこか楽しそうに踊っているように見えた。
「あ、これクマノミだよ!」
「よく知ってるな」
「たくさん来てるからね!」
クマノミはイソギンチャクの中に隠れたり、顔を出したりしている。
オレンジと白のシマシマ模様がかわいく思えた。
「かわいいな」
「でしょ! 水族館って見ててかわいいし、癒されるよね」
次のエリアに入ると、にょろにょろと頭部を覗かせている生物が見えた。
「これはなんだ?」
「これはチンアナゴだよ! 細くてにょろにょろしててかわいんだよ。ほら」
愛おしいチンアナゴは軍を率いてこちらを見ている。
見ていて癒される。ヒナの言ってることがわかってきた。
「水族館面白いな」
「アオイに魅力が伝わってよかった! でもこれからだよ!」
ヒナはウキウキしながら言う。次のエリアに入ると深海のようなに暗いスペースだった。
そのなかでもうっすらと明るく、ふわふわと浮いている半透明な生き物がいた。
「なんだこれは……」
「私のお気に入りのクラゲ!」
無数に浮かんでいるクラゲはどこか幻想的で、下級市民には絶対に見ることができない光景が目の前に広がっている。
「クラゲはふわふわと浮いている姿がかわいいし、何より自由気ままなところがめちゃくちゃ好き!」
「自由なのか」
「うん! 好き勝手動いているところを見ると、何にもとらわれていないんだなって思う。まるで私たちみたいだなぁってなる!」
「確かにそうかもしれない」
クラゲコーナーを抜けた先は、ショップコーナーが広がっていた。
ショップコーナーといっても、自由に取っていってください方式だ。お金はいらないらしい。
「何か欲しいものある?」
「今はない。それに、一通り回ってからのほうがよくないか? 荷物にもなるだろうし」
「そうだね」
「次はどこに連れて行ってくれるんだ?」
「次はイルカショー!」
「本で聞いたことがある。イルカがショーするやつだろ?」
「それじゃあ、言葉のまんまじゃん。でも言葉のまんまかも」
ヒナは笑いながら言う。
「イルカショーはどこでやるんだ?」
「ここを出た外のほう。中庭みたいなところっていうのかな。天井が空いてるところでやるんだよね」
「そうなのか」
ヒナについていく形でイルカショーの会場につく。
イルカショーの会場はヒナが言っていたように天井が空いており、ドーム型だった。
席は水族館の中みたいに空席で、貸し切り状態だった。
「ここって人来ないのか?」
「みんな遊園地とか、VR体験施設とかだったり楽しいほうに行っちゃうんだよね……」
ヒナは少し寂しそうにいう。顔が曇っているため、聞いてはいけないことだったんだなと自分を責めた。
「これからは俺がいるだろ」
「うん、そうだね」
ヒナはすぐに明るい顔になった。彼女は笑っているほうが断然かわいい。
真ん中あたりの席に座った。
「イルカショーは一番前で見ると迫力があって面白いんだよ!」
「そうなのか」
席を移動し、最前列に座る。
女の飼育員が現れ、イルカショーの開演を知らせる。
「あれもアンドロイドなんだよ」
「人間かと思った」
「ほんとに過ぎてわからないよね」
クラシカルなBGMとともにアンドロイドとイルカがパフォーマンスを披露し始める。
完璧な泳ぎとそれについていくイルカは幻想的な景色を写させてくれた。
イルカが跳ねるたびに水しぶきがこちらに飛んで、服が濡れる。
「めちゃくちゃぬれるじゃねぇか」
「あっはは。それが迫力があっていいところじゃん!」
着水する回数が増えるたびに、水しぶきもひどくなり、頭からつま先までびしょ濡れになる。
指示するアンドロイドや、ボールを投げて拾いにいくイルカ。
フラフープを回すイルカなどを見ているとイルカの知能の高さが見て取れる。
アンドロイドと動物――この場合はイルカだが、機械と生き物が絆で繋がれる世界もあるんだなと思った。
「おもしろいね!」
「おもしろいけど、こんな濡れるとは思わなかった……」
「ごめん」
「楽しかったからいいよ。それより着替えたい」
「そうだね。びしょびしょだし着替えたいね」
俺とヒナはその後風呂に入るために白い建物に帰った。
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