転生したら俺の昼メシが無限に出てくる(後編)

 「と、言うことなのだが?」


 「言葉で食べ物が出てくるなんて… 知らなかったとは言え、もったいないことをしたなぁ…」

タナカは地面を掘りながらため息をついた。


最初に現れたのは来来軒の創業から変わらない昔ながらの醤油ラーメン。


2杯目は自社農場で栽培したモヤシを贅沢に山のように盛った味噌ラーメン。


3杯目は本場で修行を積んだ3代目が作る豚骨ラーメン。


4杯目はその豚骨ラーメンのバリカタ麺。


5杯目は大将自慢のスープが売りのつけ麺。


7杯目は濃厚背脂マシマシで2代目が力を込めておすすめする…おっと、ヨダレがでてきた。


「はぁぁ、落ちちゃったのも全部食べたかったなぁ。」


「おいおい、早く穴を掘って『らーめん』を埋めないと暗くなるんだが?」

と、アシュは何か祭壇のようなものを組み立てながら言った。


 「でも、言葉で食べ物が出てくるだけで十分だよな。

思っているだけで食べ物が出てきたらもっと大変だろうなぁ。」

タナカは笑いながら考えました。

今だって穴を掘っている間だけで山ほどのラーメンが出てきてしまうだろうと。


 「いや、数世紀前の『食前時代』までは思うだけで食べ物が出ていたのだが?」

アシュは黙々と祭壇のようなものを組み立てながら言った。


 「え? 思うだけで出てたの?

て、言うか『食前』ってなに?」

タナカはアシュに尋ねた。


「『食前・食後』、今は食後358年だ。

思うだけで食べ物が出てきた時代を『食前』、

それを失った現在までの時代を『食後』と呼んでいるのだ。」

アシュは真面目な口調で説明した。

どうやら冗談ではないようだ。


 「古代の人々は食べたい生き物を想像し、それが突然現れ、集落に大きな被害をもたらし、一族が滅亡することもよくあったのだ。」


 「怖っ!食べ物が調理されていない生きたままで出て来たってことか。」

タナカは自分の街に溢れる野生の牛や豚を想像し、身震いした。


 「各地の洞窟の壁画にはそうした描写がよく見られるのだよ。明日にでも見に行ってみるか?」

アシュはタナカに向き直り、にっこりと笑った。


 「それに、文明が発展し調理技術が発達するとより多くの食べ物が街中にあふれ、腐敗臭が広がり、伝染病が蔓延し、国家は滅亡の危機に瀕することもあったのだ。」

アシュは苦虫を潰したような表情で続けた。


 「お腹空いたら無意識に食べ物のことを考えちゃうもんな。」


「生き物として当たり前のこととはいえ、恐ろしい時代だったと伝えて聞いている。おっと、穴もそのくらいの深さで大丈夫なのだ。」


無心に掘っていた穴はタナカの膝から少し上くらいの深さになっていた。


「で、この穴にラーメ…じゃない、出しちゃった物を入れればいいのか?」


「うむ。全部残さず入れたらまた穴を埋めて欲しいのだが?」


オーケーオーケー、とタナカは掘る時よりも早く作業を終えた。

その埋めた穴の上にアシュが先ほど作った祭壇をのせる。


「天と地のゴニョゴニョ…我ら民草のゴニョゴニョ…あらんことをゴニョゴニョ… ごちそうさまでした!」

パンっ! と、最後は手を合わせて元気に叫ぶアシュ。


「ゴニョゴニョ多いな! えっと、今のなに? なにか特別な呪いの言葉?」

興味津々に聞くタナカにアシュは目を少し逸らして言う。


「…小さい頃に一度習ったきりで…あんまり覚えてないから…そのぉ…テキトウにと言うか…?」

気まずそうなアシュとは裏腹に、人間らしい一面を見てタナカはホッコリしてしまった。


「そんな顔で見られるのは恥ずかしいのだが?」


「ははは、はいはい。 ところでもう一つ聞きたいんだけど、『食後』の時代はなんで考えても食べ物が出なくなったんだ?」


「…その笑い、何か引っ掛かるのだが?

まあ、いい。 食前の飽食の時代に突然我ら一族がこの世界に現れ、10日間の儀式の末に民の意識を外に出ないよう封印したのだ。」

そして、アシュから語られる一族最初の巫女である大婆の活躍。


7日に渡る禊ぎの後に世界の理念を変える大儀式を開始する。 儀式は一筋縄ではいかず、大婆と現れた者の中には命を失った者もいるとかいないとか…


「と、言うわけで世界の民は言葉以外で食べ物は出なくなったんだ」


「そうか、なんか簡単に説明されたけどお前のご先祖様は凄いんだな!」

うむうむ、と鼻高々に頷くアシュ。


「大婆は凄いぞ。 今だって食べたい食べ物を出しては毎日ペロリだからな。」

アシュはドンブリをかき込むような仕草をしながら言った。


「今だって?…あのぉ、アシュさん。 大婆って言うのはかなり昔の話なんだよね?」


「そうだ。大婆はさっき話した最初の巫女なのだ。大婆の出したご飯が食べたいのだ…」

遠くを見つめてホームシックなアシュ。


「大婆ってご先祖ではなくて、もしかして今もご存命ですか?」


「ああ、多分今日も元気に山で芝を刈ってるぞ。」

と、言いながらタナカの袖を引っ張った。


「さて、そろそろ行くのだが?」


「行くってどこに?」

突然言われてタナカは少々戸惑った。


「どこって旅なのだが?

わたしと一緒に食文化の宝庫を巡り、知識を広めよう。」


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


…さて、この物語もそろそろお終い。

アシュはこの世界を自由に旅し、人々に異文化の食べ物を提供する存在なのです。


この後、タナカがこの世界に慣れる頃にアシュの大婆の結界がマツロワヌモノに破られ、再び暗黒の時代が訪れたり、


大婆もまた異世界転生者であることが明らかにされたり、


アシュとタナカが奮闘して再び儀式を行ったりするのは…


「それはまた別のお話。めでたしめでたし。」

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転生したら俺の昼メシが無限に出てくる(前後編) はこにわにわに @702

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