第8話
「はぁ……もうこんな時間かよぉ……昔私が営業許可もらうためにここ来たときもこんなに待たなかったのに……舐めてたぜ……」
歩きながら大きくため息をつき、やれやれというようにサングラスを外して手に取り指で目頭のあたりを押さえた。
「なんか本当に申し訳ない……」
「いやいいよ……ってあぁ!」
急に大声をあげ何かと思えばまた大きなため息。
「縷翔を従業員として雇うの忘れてた……あぁぁぁ……また明日書類届け出ないといけねぇじゃん……はぁ、なんでもかんでも契約、書類、手続き、届出、届出、届出……書類大好きマンかよぉ……」
日本の確定申告やったら死ぬだろうなこの国の人。
「はぁ、もう夜かよぉ……。結局部屋の整理とか何もできなかったな……」
漸く我が家に帰り着いたと思ったら、とっくに日は暮れていて。
「しょうがないよな、流石に2日連続で役所には行きたくないから、縷翔にうちの従業員として働いてもらうのは明々後日からにしよう……明日明後日で働くようなことがあれば、日雇い扱いだな……うん、それでいいや……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、サングラスやらカチューシャやら装飾品を脱ぎ捨てて事務所のソファにダイブ。
「あー今日はもう動きたくねぇ!縷翔、晩飯頼むー……」
そういえば璃麻さんの手作り料理まだ食べてないな……頼むってことは自炊したりしてんのかな?こっちの調理器具とかみたことも使ったこともないからわからないんだけど……というか、キッチンどこ?
「えっと……動きたくないところ申し訳ないんですけども……」
「これが加熱器具で……ここに塩とか砂糖とか、えっと……こっちの冷蔵庫は……あ、冷蔵庫ってわかるか?食べ物を冷やして保管できる棚で……あ、わかる?後のものは大体ひねったり押したりすれば使えるし出てくるから。ほんじゃよろしく!」
説明アバウトだな。あんまり料理得意じゃないけど大丈夫かな。食材は自由に使ってもいいらしいし……まずは何があるか見てみるか。
冷蔵庫にあったのは、うずらの卵みたいなやつが三つと、キャベツと白菜のハーフみたいなやつ一玉と、味噌みたいなピーナッツバターみたいな見た目のよくわからない調味料らしきものと、なんかウニョウニョ動いてる気持ち悪い虫みたいなの。ひぇぇ、これで何ができるっていうんだ……。
下の冷凍庫的なところを開けると、いくつかの四角い容器に、あらかじめ下処理のしてある肉や野菜が入ってた。何個か取り出してみてみたら、奥底からダチョウの卵みたいなでっかい卵も出てきた。下手したらドラゴンかなんかの卵じゃないんだろうか……。
色々触るのは怖いから、このタッパーみたいなのに入った食材をメインで使っていこう。一応家庭科の成績は悪くなかったから、食べられないようなものはできないだろう……。
縷翔ちゃん、3分……30分クッキングー!
まずはなんの肉かはわからないけど角切りで冷凍されてた肉を解凍して、フライパン…これはフライパンなのか?わからないけどフライパンに油を敷いて炒めまーす!そして取っ手部分についてるボタンを押すと……あら不思議!一瞬にしてお肉が焼き上がったではありませんか!これだといつ野菜を追加すればいいのかわからなくなりましたね!ちくしょう!
出来上がってしまったものはしょうがないので個別で炒めて合体させることにします……。
合体!できました、ほうれん草とベーコン炒め……もどきです!!!なんの肉かもわからないしほうれん草っぽい葉っぱ野菜を炒めただけだけどね!残りの食材はもう触りたくないので米炊いてそれと一緒に出そうと思います!以上!魔法道具が優秀すぎてものの10分で終わってしまったクッキングでした〜……。
「おぉ……なんだこれは……?」
「私もわかんないです……これなんの肉と野菜ですか……?」
「どこに入ってるやつ使った?」
「冷凍庫の……タッパー?容器?に入ってたやつです……」
「本当になんだ……?」
地味に気まずい。
「まぁ不味くはないだろうから食うけど……」
不味くないことを祈るばかり……
一口パクリ、もぐもぐ……
「……?!なんだこれ!?」
そう言った途端後ろを向き嘔吐する璃麻。
「最っ悪……これエルフ豚肉だ……加熱したらクソ不味くなる、生食用の……」
な、なんだって……?!
「そうだよな、エルフが存在しないならエルフ豚もいないよな……」
エルフ豚ってなんぞや状態ですわ……。って、後ろのゲロ!
「レンジとかで軽く解凍したらそのまま食う肉なんだこれ……。教えてなかった私が悪、おぇぇぇぇっ」
ぎ、ぎゃぁぁぁ!料理の上にゲロもどすなーーっ!!!
「まぁよく考えたら転移してきてすぐの人に料理任せるのも無謀だったよな……申し訳ねぇ、ご飯はまだ無事だからとりあえず私がパッとおかず作ってやるよ……」
ゲロを魔法で掃除しながら気だるげな声で。
異世界の万事屋とそのツレ達 朔 @rudo0916
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