第7話

「うぉい!起きろーもう朝の七時だぞー!早く行かないとすぐ夜になっちまうぞー」

んー……寝起き悪いんです勘弁してくださぁい……。


帰ってきてからようやく気づいたのだが、2階の璃麻さんの部屋の奥にもう2部屋あったらしく手前の一部屋を使わせてもらっている。まだベッドと折りたたみ式の机しかないが、今日夕方までにでも諸々面倒ごとが終われば部屋作りを手伝ってくれるそうだ。疲れないかと聞いたところ「万事屋舐めんじゃねぇ!」とのことだったので心配無用らしい。

ベッドは少し埃をかぶっていたが掃除機らしき機械で掃除してくれたので難なく快適な眠りを送ることができた。



「ところで、車みたいなもので移動しましたけど、璃麻さんは自家用車……?って持ってたりしないんですか?」

朝ごはんのトーストを食べながらサングラス磨きに勤しむ璃麻に尋ねる。

「ってか呼び捨てでいいからね?まぁ持ってるっちゃぁ持ってるけど二輪車だな。バイクだよバイク、車停めるような広いスペースがないんだよなぁ、なんせここは通りだし、まぁ……いざとなれば魔法でポンと……」

あぁなるほど、魔法でポンと……魔法でポンと?!?!?!?!

「おい勿体ねぇなぁ?!何で急にトースト吹き出して……」

す、すみません……魔法でポンとって……本当に魔法でポンと……?魔法のカードでポンと、とかではなく!?

「はぁ?まぁ魔法のカードでポンと買えなくもないが魔法で出した方が絶対安値だろ……」

と言いつつどこからともなく布巾を取り出し私の吹き出した具材たちを拭き拭き。

「もしかして縷翔がいた世界には魔法がなかったとかー?なんて、まさかな」

「そのまさかですよ……」

「何やて?」

手に持った布巾をボトっと漫画みたいに落とし此方を見て固まる璃麻さ……璃麻。

「え、じゃぁもしかして飛べなかったりする?」

「飛ぶなんてもってのほかですよ?!」

「え、じゃぁじゃぁ……雨を降らせたり晴れさせたりもできないってことか……?!」

「天気を操るなんて超能力者ですか……???」


「……?」


ん?何で今ちょっと間が空いたんだ?

「ってことは遠くの友達と携帯電話を使って話せたり……そもそも携帯電話が使えないのか?!?!」

「え、あ、いやそれはできますけど……」

「え?何で?魔法ないのに?」

「電気っていうものがありまして……」

「電気ってあの……静電気とか雷とかのあのエネルギー?」

「え?はい……逆に使わないんですか……?」

「だって魔力があるしな……」

な、なるほど……?こっちでいう魔力は地球でいう電力なのかな……?いやまぁ、空飛べたり天気操ったり……ポンっと何かを出したりするのは不可能というか、未来の話になるけど……。

「あぁ……なんだ、その…まぁ、この話はややこしくなりそうだから後でで……

とりあえずあと20分ぐらいしたら出るから……」

そう言いながら布巾を拾い上げ空中に投げ、そのまま事務所の奥の方に入って行ってしまった。投げられた布巾は空中でフッと消えた。これも魔法なのだろうか。

そうぼんやり考えながら手元の皿を見ると吹き出して消えたはずのトーストの半分が元通りになっていた。……これも魔法なのだろうか?!




璃麻、魔力がないことに相当ショックを受けたようで。数々の書類に署名や拇印を押す時もずーっとぼーっとして、挙句カナエルさんに小突かれても心ここに在らず……。

それにしても、魔法だなんてようやく異世界感が出てきた……!!!今まで書類作成だの孤児だの強盗事件だので全然夢がない話ばっかりだったからなんかワクワクしてきたなぁ……私もそのうち魔法使えちゃったり……?!なんちゃって……今までのこの夢のなさを思い返すとそう簡単には行かなそうだな……。


「まさか予想だにしなかった事実だな。魔法がない世界なんて私には信じられない。この国は愚かこの惑星が魔法に支配されてると言っても過言ではないほどに流通している……魔力を使った作業を生業としてる人も決して少なくはない……。」

あっという間に昼休憩。役所に行く前に、近くにあった定食屋さんで昼食を、カミアさんも誘って四人でとっている最中の会話だ。

「それにしても元々の世界に魔法がないなら個人個人の血中魔素はどうなるんでしょうか?やはりないのでしょうか……」

え?血中……何だって?

「それも気になる所だな。病気で魔法が使えない者もいるが、健常な体で魔法が使えないと言うのも、補助が出なかったりする分も不便だな……何にせよ前例のないことだから、私たちがいくら頭を捻っても今解決できるようなことではないからなぁ」

そう言うとまた眉間に皺を寄せるカナエルさん、横で唐揚げ(のようなもの?)をパクッと食べるカミアさん。

「なぁ縷翔、ちなみに電気エネルギーってどこまでできることがあるんだ……?」

珍しく静かだった璃麻が急に喋り出したかと思えばなんだそんなことか……

「電話でしょ、ゲームでしょ、電車に車に…空間を明るくすることもできて……いろんな電子機器も……あ、電子機器っていうのは…うーん説明が難しいな、他は例えばエアコン……部屋の温度調節したり?あ、そういえば体に電気流して痛いところ直したりもするよ……え?なに?なにこの沈黙」

「…………」

何でみんな一斉に黙るの?!


「全部魔法でできるな……」「できんじゃねーか……」「できますね」


「えぇ……」


「電気でそこまでできるのはすげぇけど……」

「なんせ飛べないようだし」

「異空間収納もなさそうですし……」

「料理だってパッとは作れないんだろ?」


「万能ではないな」「ない」「ないですね」


人類一万年以上の歴史がっ!!!まぁ……そっちは……何?100億年?200億年?そんだけ続いてれば新エネルギーでも何でも見つかるだろうね!……にしては街並みが地球と似てたのは何でだろう?進化にも限界とかあるのかな?


「というかそもそも精霊とかいたりしなかったのか?あいつらは魔素がなけりゃ死んじまうだろ」

せ、精霊?ますますファンタジーになってきたな

「エルフやコボルトなども精霊の一種ですし……」

こ……何やて?エルフはまだかろうじてアニメでよく聞くけど、コボ……コ⚪︎ちゃんの話してる?

「まぁひとまずあんまり昼のピーク時に長居するのも店に迷惑だろうから先に店を出て話そう。役所の待ち時間はだからな」

え?エルフの瞬き?

「すんげぇ長いってことだよ」

おぉ……んん……???



「いやぁ、まだ裁判しないだけ楽な方ですね……出生届出されてなかったら普通裁判ものですけどねぇ……今印刷してるのでもうしばらくお待ちくださいねー」

役所に着き、1時間弱ほどの待ち時間を耐えようやく窓口で対応してもらっている最中。身長が100センチもないような、瓶の底のように分厚いレンズの丸メガネをかけた小さなオジサン……に対応してもらっている。璃麻曰く役所にいる公務員のほとんどが矮人わいじんという体の小さな種族なのだそう。妙にスーツ姿の子供が多いなとは思っていたが、まさか小人が働いているなんて思いもしなかった。小人といえど、この国で人口が最も多い人間や天使、悪魔を基準としているだけで、もっと小さな種族もいるそう。


「はぁ、今度は国籍も作らないといけないなんてな……私としたことが、すっかり忘れていた」

どうやら地球と同じく国籍と戸籍は違うようで。戸籍に載るための就籍届出を出すのにも1時間待ち、30分も時間がかかったのに今度はまた違う部署に行かないといけないらしく、みんなため息をついているところだ。カミアさんは役所に届出を出さないといけない事例があったらしく、別の部署に消えていったが戻って来ず……相当忙しいところなのか、待ち時間が2時間越えなのか……。

「どうして人口が多いというのに役所を増やさないんだ……」

「しらね。カナエル署長さんの力で何とかできねぇの?」

「できたらとっくにやってる。こんな待ち時間はもうごめんだ……」



待ち時間も国籍作成も今までと変わらずとてつもなくつまらない場面が続くので全カットさせてもらう。


ようやく終わり外に出た頃には昨日と同じく日暮れ。デジャヴに頭を抱える一同と未だ戻ってこないカミアさん。

「はぁ……先に帰っててくれとの連絡はもらっているから、今日はひとまず解散しよう……もう私が着いて回る必要のある作業は終わっただろうから、あとは璃麻に任せるからな。」

「えぇー?!嫌だぁ!ただでさえ2日も臨時休業してるのにぃ!」

「仕方ないだろう!私だって重要な会議をいくつ延長したと思っているんだ」

なんかすみません……。

「謝ることはない……すべては魔法でもどうにもできないこの面倒な手続き共々が悪いのだ……今年中に警視総監になって神々に直訴してやる……」

なんかさらっとすごいこと言ったな。

「まぁそういうことだ……次お前と会う時は警察功績賞授与式であることを願う、さようなら」

「せめて飯行こうぜ!?」

璃麻に指をさしまた一蹴したところで振り返ることなく別れを告げ飛び去っていった。

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