第5話

「まずお名前をフルネームでこちらにお願い致します」

さっきの怖い署長天使さんとは打って変わって柔らかい雰囲気の事務員天使さんと書類記入。署長天使さんは璃麻さんの尋問……に戻ったらしい。というか、名前聞くの忘れてたな……いつまでも心の中で署長天使さんと呼ぶわけにもいかなさそう。なんせ璃麻さんと仲良さそうだし、これからもお世話になりそうだからなぁ…。

というか、下の名前だけ思い出せて苗字はまだ思い出せてないんだった!書けない、どうしよう……。


「あ、えっと、あ、あの、自分の苗字がわからなくて……」

「それなら下のお名前だけで大丈夫ですよ!個人識別さえできれば大丈夫です!」

ならよかった…

「ル…ト……さんでお間違えないでしょうか?」

「は、はい!」

「よかったです!それでは年齢と住所と…あ、わかる範囲で大丈夫です!!」

「あ、ありがとうございます!」

和むなぁ……


とりあえず書けるところは書いたが…空欄が多くてなんかむずむずするなぁ…何せA型だから……なんてジャパニーズジョークはさておき。パソコンのような機械で作業しながらこちらの様子をチラチラ確認してくれる事務員天使さんが可愛くてしょうがない…!目があったら微笑みかけてくれるのも癒しだ…!一挙一動が全部癒し…これが本来の天使か……!


「それでは登録して行きましょうと言いたいところですが…未成年の登録には保護者が……」

「…………」

「ちょっ…とお待ちくださいね…」

自分のデスクに移動し、卓上にある何やらボタンが沢山ある機械をいじりいじり……。無線が繋がったのか小さな声でぶつぶつ何か喋ると可愛いお顔がだんだん険しく。

「うーん、はい……でもどうしても…」

ほわほわだった顔がだんだん歪んでいくのを見ると心が痛いよぉ……

「はい…事務室の四卓で…第一事務室です…、はい……了解しました、出しておきますね。失礼します」

ほっとした顔をすると此方に来て

「何枚か書類取ってくるからここで待っててね!すぐ戻ってくるから……」

そう言うと背中についた小さな翼をパタパタさせながら急ぎ足で第一事務室を出て行った。



「……はぁ、本当にこの国のシステムは面倒なものだな……まぁ、仕方ない事だが」

頭を掻きながら空いている手で書類の必要事項に記入をしていく署長天使さん。と、となりで頬杖を突きなんとも爽やかな笑顔で署長天使さんの方を見つめる璃麻さん。それに対面する事務天使さんと私。

「いいか?本来保護者不在の子どもは孤児院に送られるべきなんだ。自分の欲求を満たすために保護する輩もいるからな。もしこの国に戸籍のない子どもがいれば何らかの問題があると見なし国外追放される。なぜならこの国に戸籍のない者は100%居ない筈だからだ。その後その子らがどうなるかは知ったこっちゃない。だがこの子どもは天使警察庁の人間に保護された挙句に事件に巻き込まれ、戸籍も正式な保護者もいない。10億年も歴史が続いているこの国でさえ前例のないニンゲンがここにいるのだ、そいつを対処するのにどれだけの手続きと人件費と手間と時間がかかると思ってるんだ?全く……!」

そうブツブツ言いながら3枚の書類を書き上げた署長天使さん。すみませんねめんどくさい特例で!

「はぁ、とにかくこの…新井田 璃麻 を保護者…親権人として登録しないといけない。血の繋がりのない人と人を結びつけるにはまず孤児院を通さねば……あぁなんて面倒なんだ!」

心做しか署長天使さんの顔が歪む度に璃麻の顔が幸せそうになっていっている。

「はぁ、こんなに複雑で前例のない事象を署長如きの私が対処していいものかな…」

ぽつりと呟いた後、

「よし、かく孤児院に向かうぞ。刑事の璃麻が居るとはいえ特殊な子どもを前に放っておく署長はクビが飛ぶからな……」

「わーい!お出かけだー!」

「決して楽しい外出では無いからな」

と一言叱責。

「はぁ、特になんの仕事もしていない此奴に今も給料が支払われていると考えると恐ろしいものだな。カミア、対応有難う。私から少しばかりだがボーナスも付けさせてもらおう」

と事務天使さんに一礼。対応の差がすごい!!!

事務天使さん、カミアっていう名前なんだ!名前も可愛いなんてやっぱり本来の天使ってきっとこうなんだろうなぁ……。


「先に言っておくが、今向かっている孤児院は決して良いと言える環境ではない。一歩間違えればに売り飛ばされるから用心しておけ」

少しの間。

「攫うのは人だけじゃないがな。」

さらっと冗談(冗談と捉えていいのか?)まじりな言葉を口にする署長天使さん……というか、いくら心の中とはいえいつまでも署長天使さんと呼ぶわけには行かないな……完全にお互いの自己紹介のタイミング逃したよねこれ。ドタバタだったししょうがないけども……。

タクシー的な乗り物に乗り、運転手一人助手席に璃麻、後部座席に私と……。気まずい!!!非常に気まずいよこれは!!!なんで私が助手席じゃないの?!!?!?

「……自己紹介も兼ねて私の名刺を渡しておこう。どんな悪徳業者でもこの名刺が目に入ればおそらく諦めて逃げるだろうからな」

どんな名刺だよ!?って思ったけど、署長だから有名だったりするのかな…?

「まぁカナエルは昔からまさに鬼のごとく厳しかったし、昔刑事として活躍してた時の事件解決率は脅威の99%!残りのたった1%が許せなくて刑事を辞めたほどの完璧主義者だからなーw」

「ペラペラと喋りおって……」

こちらからは表情が見えないにも関わらず楽しそうな雰囲気が伝わってくる璃麻側とは反面ただでさえ険しかったさんの眉間には深い皺がよっていく。

もらった白を基調とした名刺には「メイルマ地区警察署署長 カナエル」の字が。

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