第3話
「ふ、普通のクッキーを……」
出てきたのは本当に普通のクッキーだった。ハートや星型にくり抜かれたわけでもない丸くて可愛い小さめのクッキー。
「せっかくなんでも置いてある店に来たのにクッキーでいいのか……?」
「だって……その……クッキーが1番好きで…」
ゲテモノだなんて言ったらここの店員に首を消し飛ばされるかも……!!!
「お待たせしました!こちらガトーショコラです」
遅れて璃麻の席に運ばれてきたのはごく普通……一見普通のガトーショコラだった。
「美味そうだなぁ…!一口いるか?」
「えっ、あっ、いやぁ…」
何が出てくるか分からな……
「遠慮するなって!美味いから!な!」
そう言ってフォークで縦に真っ二つにした時…
中から美味しそうなチョコソースが!
……都合よく出てくるわけでもなく、紫のような青いような変なドロっとしたソースが…ひぃ!!なにそれぇぇぇ食べたくなぃぃぃい
「安心しろって!そんな顔しなくても激辛って訳でもないし苦くも不味くもないから!」
そういう問題じゃ……!!!!そのフォークがぶっ刺さったガトーショコラをしまってくれぇえぇ……ん?逆か?いやしまってぇぇぇぇ!!
「…というか、室内なのになんでサングラスしてるんですか…?」
重度のカカオアレルギーだからと言い訳をつけてなんとか一命を取り留めた私……。なんとなく気になって、普通のミルクティーを飲みながら訊いてみた。
「あぁ、その事か……」
さっきまでニヤつきながら外を眺めていた璃麻さんの表情は心做しか曇った。
「縷翔の話を聞く限りその……縷翔の世界には居なかったんだろ?私みたいな左右の色が違う目の……」
「あぁ……まぁそうですね……珍しいというか…」
「まぁ、な?どんな世界にも差別はあるもんだ…」
……あぁ……なるほど。
「……すみません」
「いや謝るこたぁないよ!ただなんと言うか、まぁ良くは思われないよね、ズルとも言われるし」
「ズル……?」
「いや!なんでもないよ、どうせいつか知ることになるけどここで声を大にして言えるようなことじゃないからねぇ…」
少しサングラスをずらして特徴的な両目をこちらに向ける璃麻さん。
「ま、後々説明するし、ってか説明しなくても良さそうだな」
そう璃麻さんが言った途端、外から爆発音が聞こえた。生憎私達が座っているのは窓際の席。爆発の衝撃でビリビリと揺れている窓を目と鼻の先で見ることが出来た。
そんな事にも全く動じず優雅に紅茶を啜る璃麻さん。
「えっ、、?なんの音ですか?!」
「まぁまぁ、見てなって…大丈夫大丈夫!この万事屋店長である私が居るからさ」
え、えぇ…嫌な予感しかしないよ…
璃麻さんが残り一口だったゲテモノガトーショコラを口に運んだその時、店の入口の方から激しい破壊音が。
「全員床に伏せろ!ちょっとでも変な動きしたらこれで殴り殺すからな!」
騒然としていた店に響き渡る強盗の一声。
「なにボーッとしてんだ!早くしろ!」
見事に全員結束バンドで手を縛られ、強盗3人の立てこもり状態…。ドアが機能しなくなった入口は、店内にあった机や椅子が乱雑に積み上げられ入ることも出ることもできない状態に。窓は全てカーテンが閉められ中と外の景色は遮断されているが、外からの野次馬や警察...?の話し声は微かに聞こえる。璃麻さぁん、どうなっちゃうのこれぇ……って、
強盗達は凶器片手に店内をウロウロ。店外にいる警察...らしき人達に向かって「あと3時間以内に金寄越さねぇと人質全員ぶっ殺すからな!」と宣言したっきり一言も発しないままもう既に1時間が過ぎようとしている。床に直に座らされてる身としてはもうお尻が痛いし怖いしストレスでお腹が…。もう泣きそうだよー!!!
数分後、小さな声で「もうそろいいかな」と璃麻さんが耳元で伝えてきた。斜め後ろに座ってるもんで表情は見えないけど声色が楽しそうなもんでもうサイコパスなんじゃないかと思えてきたけど...って、もうそろって何?!何する気?!?!と思いきや璃麻さん、何やら呻き声を上げ始めて。
「うぅ…痛たた…すげぇ
エ゛ッ…「だっ、大丈夫ですか??!?」バールのようなもので殴られるのが怖い私は小声で…。
すると案の定強盗の一人が声を荒らげて。
「そこうるせぇぞ!口を閉じろクソアマが!」
ひぃぃ!!!怖いってぇ!!!り、璃麻さんどうすんの!!!そろーっと後ろを見ると顔が青通り越して紫色、痛みで歪んだ顔の冷や汗ダラダラ璃麻さんが…
「ひぃ!」
顔色悪すぎて変な声出た!!!!え、真面目に大丈夫?!?!これ救急車呼ぶレベルじゃないの?!?!
「なんだぁ…?お前、顔色わっる!!!」
強盗も
「は、腹痛てぇのか?トイレ行ってこい!」
そりゃこの顔色見たら誰でも焦るよね?!
「あーっと...おい!そこの店員!こいつがトイレで怪しい動きしねぇか見張っとけ!お前も怪しい動きしたら2
「はっ、はい!」
バールのようなもので店員に指図しトイレへ向かわせる強盗。こんな顔色の人質にも抜かりないなんて強盗の鑑では?いや、強盗の鑑はいちゃ行かんのよ…。
「すみません…すぐ戻ってくるので…」
すごーく体調の悪そうな暗い声で、店員さんに肩を貸して貰いながらゆっくりトイレの方へと歩いてった璃麻さん。絶対あんな紫のやばそうなソース食べるからだよぉ…!もうこんな事なら元の世界に帰してくれー!!!
「っぷはぁ!はー苦しかったぁ…。私たちあんなかっったいタイル床の上に座ってたんすよぉ?あーケツ
さっきまで重病人だったお客さん、トイレのドアが閉まるや否や
「あ、あの…具合が悪いのでは…」
「あー?あんなの演技に決まってんじゃないすか!あんな猿芝居に騙される強盗も強盗っすよねw」
いやすごい演技力ですね?!逆に引っ掛からない人が居るのか…。
「と!こ!ろ!で!」
狭いトイレの中、満面の笑みでずんずん迫ってくるお客さん。
「ち、近いです!」
「私、そこの通りで万事屋やらせて貰ってる新井田って言うんすけど…ご存知ですかい?」
そう言うと
青と紫のバイアイ…万事屋…新井田…
「…ッ?!新井田…璃麻さんですか?!」
「おっ、知っててくれたんですね!となると話が早い。」
お客さんがまさか、あの万事屋だったなんて…
「私に一仕事、任せてくれませんか?」
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