第2話

「どっから来たんだ…?」

「えっ、どっから来たって…東京……え?

貴方も日本語……喋って…」

「とうきょう…?聞いたこともない所だな…目覚めたばかりで混乱してるのか…?」

すると璃麻さん、真剣な眼差しで此方こちらを見つめて

縷翔ると、1回外の空気吸うか?

色々と思い出せるかもしれないしな。立てるか?」

そう言うと立ち上がり手を差し伸べた。手を重ねると、勢いよく手を引かれ吹っ飛びそうになった。

「ちょっ、加減してくださいよぉ!」

「悪い悪い、あんたが想像より軽いかったからさ」

手をパッと離し、スタスタと扉の方へ向かう。

「この下、階段だから気を付けて降りろよ」

なんか…性格がイケメンだなこの人。優しいし。


璃麻さんについて行き、少し古くなった手摺てすりを伝って階段を下りる。視界に1階の景色が自然と入ってくる。見る限りただの家では無さそうな広さと構造だ。事務所のような、客間のような…。

「おーい、余所見よそみしてるところげ落ちるぞ」

一足先に階段を下り終えた璃麻さんは、そう言うと中央に置いてある机の方へ歩いて行き、その上に散乱した書類を整頓し始めた。

私が階段から安全に下り終えたのを確認すると

「外、行くか?嫌ならそこの窓から眺めておくだけでもいいからな」

と言うとまた近辺の整理をしはじめる。

「外、出てみます」

「そうか、じゃあ行こう…おっと、そこら辺足元気をつけてな」

そう言われふと足元に目をやると床のタイルが数箇所剥がれている。

「そこ、修理しようと思って材料買いに行く所にあんたが落ちてきたんだよな」

「なんかすみません…」

「あははっ!謝んなって、ちょうどが欲しかった所だったからな」

じょ、助手…?そういえば事務所っぽいけど、璃麻さんの家って事務所兼家なのかな…

「璃麻さん、ここって…」

「ん?あぁ、私 万事屋よろずややってて、1階が事務所なんだよな」

はへぇなるほど。万事屋なんて漫画でしか聞いたことないなぁ…。

「よし、準備できたから外出てみるついでに甘味でも食べに行かないか?」

そう言い振り向いた璃麻さんの目には真っ黒な丸メガネ型サングラス。

「えっ、いいんですか?!」

「ちょうど甘い物食べたかったし、縷翔の事情も色々と聞きたいからな…」

やったー!懐広いなぁ璃麻さんは…


広く様々な骨董品が置いてある玄関から外に出ると、窓から見えた景色同様に気持ちよく晴れた青空が広がっていた。万事屋の中華混じりな雰囲気とは打って変わって私が暮らしていた現代の日本と差程変わらない街並みがそこにあった。ここは本当に日本ではないのだろうか?落っこちてきたと言うと、何処どこからどうやって……。

「大丈夫か?ほら行くぞ」

「あっ、はい!」

少し高い身長も相まって格好良くサングラスが決まっている璃麻さん。上は真っ黒なジャージのようなものを着ているが、下半身をよく見てみると少し変わったズボンと靴を履いている。ジャージの下にはどんな衣装が隠れているのだろうか。


「どうだ?ここら辺の景色、見覚えとかないか?」

見覚えがないと言ったら嘘になるが、始めてくる場所だ。何せ日本語で書かれた看板に、耳に入る日常会話も日本語。違和感を持つ所をあげるとキリがないが、一見日本の都心部のような景色だ。

「私が来た所とよく似ているというか……」

違和感の例をあげるならば、1つ明確に違うところがある。それはこの街を歩いている人々だ。人と言えるかも分からないが、人型で二足歩行なので人……なのかもしれない。

日本にいるようなスーツ姿のサラリーマンのような人もいれば、頭から大きな動物の耳が生えている人もいるし、髪色は無論有り得ないほどに多種多様。おまけに肌の色が青など人間にはありえない色をしていたり頭がまるまる蜥蜴とかげだったり。ただ不思議なことに璃麻さんのようにオッドアイの人は居ないように見える。

違和感しかないが、ハロウィンイベントの仮装パレードと言えば納得出来てしまうところが恐ろしい所だ。

「そうか、じゃあ近いのかもしれないな…」

そんな不気味な場所を疑いもせずサクサク歩いている璃麻さんが逆に怖く感じるレベルだ。

私は所謂いわゆる「平行世界」に来てしまったのだろうか…


「着いたぞ、ここが私行き着けのスイーツ屋だ!」

万事屋からゆっくり歩いて10分程。外見は日本にもありそうなお洒落な洋菓子店。甘味って言うもんだから和菓子屋にでも来たのかと……。

「ここは世界のスイーツ全部置いてある所なんだ」

こんな洋風な見た目で和菓子出てきたらなんか面白いな。……いや、和菓子は日本の文化であってここにあるとは限らないか……。

「まぁとにかく入ってみようぜ、な?」

「はっ、はい…!」

うぅ、芋虫のケーキとか出て来たらどうしよう…。


「決まったか?」

「い、いやぁ……」

メニューを開くなり目に飛び込んできたのは、私が1番恐れていたゲテモノスイーツだった。


“季節の果物ケーキ トカゲ添え”

トカゲを添えるな!!!

“カメソースを使ったシュークリーム”

カメって何?!カメムシ?!怖くて食べれないよ!!!

“コブラガラメー”

コブラ?!?!そしてガラメーって何?!?!


私はメニューをそっと閉じた。

「ふ、普通のクッキーを…」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る