第1章 

第1話

突然、バランスが取れなくなり前方に思いっきり転倒。顔を地面に強打……かと思いきや、コンクリートで出来た道に巨大な穴が。陥没……?!道路の崩落事故?!もしかして……このままだと深い穴に落ちて死ぬ……?!嫌だ、死にたくない!


……もう、いいのかもしれない。


そう思い静かに目を閉じた。時空が歪んだかの様に、時がゆっくり流れていく。穴に落ちて、顔から底に激突して潰れて死ぬかもしれない。死ななかったとしても、一生残る傷が出来るかもしれない。頭を打った衝撃で植物状態になるかもしれない。


でも、助かるかもしれない。

そう考えたのを最後に、走馬灯も無しに意識を失った。


 中学一年生になったばかりの、少しズレた少女である。男みたいな女みたいな“変な”名前のせいで小さい頃に少しイジられたが、今では笑い話。女子力の欠片もない割には綺麗な茶髪を腰まで伸ばしている。

学校では常に1人で読書か校内散策。静かな所を探しに歩き回るが何処どこ彼処かしこも賑やかな声が響いてる。結局教室に戻って読書に勤しむが騒がしいので集中出来ず。そんなこんなだが、学校は嫌いではない……らしい。



 ここは…病院?

意識は戻ったけど、力が入らなくて目が開けらんない……。なんだか話し声が聞こえるけど二度寝したい気分…いやいや、二度寝してる場合でもないか。頑張って目を開けようかな…誰も気付かなかったら二度寝しよう……。

ちらっ。


「おっ、目が覚めたか?」

えっ、誰?お医者さま?いや、お医者さまが「おっ!目が覚めたか」なんて口聞かないよね…誰…?本格的にここはどこだ?!

「あれ、おーい、聞いてるかー?名前教えて貰ってもいいっすかねー?あれ、おーい?」

ちょ、ほっぺたぺちぺちしないでくださいよ!あくまで私病人ですから……ぁ?身体のどこも痛くない……?!あ、麻酔が効いてるから……?ん?え、でもここ病院じゃないよね、んー…?どこだここは!

「うわっ、急にがばっと起き上がるなって!安静にしとけよ…」

「えっと…あの、ここは病院…?貴方誰…うーん目が霞んでよく見えない…病院ここは…?」

「ちょ、1回落ち着けって」

そうだよね、落ち着こう…なんかよく見えない…目擦ったら見えるかな……うーん…?

落ち着いて私を介抱…?しててくれた人の方を見る。茶髪で…黒いカチューシャ……?に…黒いジャージに…左右の目の色が違う……

左右の目の色が違う?!?!?!

「うわっ!!!」

「人の顔みてうわっ!は失礼だろ!仮にも命の恩人なんだぞ…ってか、大丈夫か?名前言えるか?」

そんな迷子の子供扱いしないでくださいよ…

って、ここどう考えても病院じゃないよな…?

薄暗い部屋、高い位置にある窓から差し込む光、乱雑に脱ぎ捨てられた衣服、積み上げられた本、半開きの箪笥たんす。お世辞にも綺麗とは言えない…ここはこの人の部屋なのか?それに……命の恩人って事はこの人が助けてくれたのか!!

「そんなにキョロキョロしてどうした……あ、すまなかったな汚い部屋で!急だったもんだから…」

「あっ、いえ…すみません、助けた頂いたんですよね…私の名前は…」

…あれ?自分の名前が思い出せない…

「すみません、ちょっと思い出せなくて…」

「そう急がなくてもいいぞ、もしかしたら頭打っててそれで記憶飛んでるのかもな…」

ひっ!そうか、私陥没事故に巻き込まれたんだよな…にしては身体のどこも痛くないんだけど…

「じゃあ先に私から自己紹介させてもらうな、私の名前は璃麻りま新井田あらいだ 璃麻。宜しくな」

「宜しくお願いします…」

悪い人ではなさそう…?それに、目の色が左右で違うのが気になるな…。カラコン?コスプレイヤーなのかな…?

「そんなにジロジロ見て、私の目、気になるのか?」

「あっ、すみません…その、初めて見たので…」

左色が紫で…右色が緑というか青というか…目の色が紫っていうのも聞いた事ないのに、ましてや左右不揃いだなんて。これが俗に言うオッドアイ…ってやつなのか。

「まぁ、この説明は後からでも出来るからとりあえず…」

璃麻さんが立ち上がろうとした時、外から男の人の声が。

「すみませーん!璃麻さーん!」

「あ、やべ行かなくちゃ…ちょっと待っててな!」

そう言うと部屋から急ぎ足で出ていき、タンタンとリズムのいい足音が遠のいていく。ここ2階だったのか…お客さんかな?それとも…知り合い?

というか、私はどうして璃麻さんの部屋に…?

考えても分からない事は分からないか。少し璃麻さんの部屋、観察してみよう…。


 扉は木製に見える。箪笥も木製で…部屋の端にある机も木製。全部黒がかったような色の木。それとは対照的に壁は薄い橙色…。天井を見ると中華風の提灯が下がっている。机の上にはジャンルまでは分からないが本が4、5冊積み上げられている。ベットの枠も木製でお洒落…。インテリアは中華風で統一されていてお洒落なのに汚いという、残念な部屋である。見ていて片付けたくなるが勝手に掃除しても怒られそうなのでやめておこう…。安静にしておけって言われたから大人しく二度寝しようかな。でももう目が覚めちゃったな…。そういえば名前!私の名前…なんで思い出せないんだろう…る、縷翔ると…だったかな…何故かしっくり来ないけど、私の名前は縷翔、だった気がする。


 しばらくして、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえた。

「よう、大丈夫か?名前、思い出せたか?」

「えぇ…多分、縷翔だった気が…。」

「まぁゆっくりでいいよ。それより、どうして空から降ってきたんだ?」

え?そ、空から…?

「…そんなに吃驚びっくりした顔をしてるっちゅうことは何も知らないんだな…?まぁ、この国だからこんなこと別に不思議では無いけどな。」

「え、ちょっと待ってください、“この国”…ってなんですか?!そして空からってどういうことですか?!?!」

「ちょ、落ち着けって!ちゃんと順を追って説明するから…な?」

「あっ、すみませ…」

だって空からとか言われたらビビるじゃん!ラピ○タか何か?

「まぁ謝ることはないよ。とりあえず空から降ってきたって所を説明するぜ…」


璃麻さんの話が長かったのでまとめると。

買い物をしに外に出かけたところ急に上から私が降ってきて、避けきれなかった璃麻さんの頭に激突。近くに建物も何も無かったから、どこからか落ちたと言うより文字通り空から降ってきた…と。


「でもまぁ、最初は天界から追放されて落ちてきた天使だと思ったんだよなぁ…たまにあるからな。でもあんた…縷翔には羽も輪っかも付いてないし、人間ってこったろ?不思議だなぁ…みたいな?」

ん?ちょっと待って、

「天使?天界?一体何の話ですか…?」


「え、あんた…本当にどこから来たんだ…?」



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