第5話亀裂

 我が国は第一王妃の子にしか王位継承権が無く、第二妃、側室には王位継承権が無い。

 他の国では王位継承権を持っている王子も居るがその国では王位争いがあり苛烈を極めていた。


 王位継承権を持っていない、第一王子と第二王子は将来は他家に婿として迎えられるか、一代限りの高位貴族になる。


「朱雀王子お久しぶりです」

 城の通路で声を掛けてきたのは三十代前半の綺麗な女性だった。


「お久しぶりです妃様」

 朱雀は頭を下げ挨拶する。第二妃、豊と翔の母親が挨拶してきたのだった。


「能力が使えるようになられたとか!おめでとうございます」

 第二妃が朱雀に魔法が使えるようになったんだと話す。


「はい。おかげさまで、」

 朱雀は無事使えると話す。


「そうなら良かったですわ!私は失礼致しますね」

 とそそくさと去って行った。


「フー」

 朱雀は第二妃が見えなくなって一息吐いた。第二妃は表では強く言ってこないが、第二王子みたいな性格だと朱雀は思っている。


 朱雀は気を取り直して歩き出した。

「コンコン」

 扉をノックして入室の許可が出て入室する。

「失礼します」

 朱雀は頭を下げ部屋に入る。


 部屋の中には玄武国王と第一王妃が座っていた。

「ウム座るように」

 国王が座るように声を掛けたので朱雀も席に座る。


「朱雀も少し聞いているかもしれんが、少数ではあるが貴族が第二妃の子にも王位継承権をつけよと言う者が出ている。朱雀を毛嫌いしていた貴族であるな!」

 と国王が話す。


「……父上はどのようにお考えでしょうか?」

 朱雀は国王はどう考えているか聞く。


 国王としてでは無く父としては、他国で王位争いが苛烈を極めていて避けたいと話す。


「かしこまりました。私も同じ気持ちです。大切な人に危害加えられない限り、何もしません」

 翔は懸念を混ぜて話す。


「剛か……」

 国王はボソッと呟くのだった。


 話は終わり朱雀は庭に向かっていた。

「お待たせ」

 朱雀は椅子に腰をかけている女の子に声をかけた。


「朱雀様。全然待っておりませんわ」

 姫乃が席から立ち上がり挨拶した。


 姫乃は朱雀を誘い、庭でお茶会を開いた。

「……す朱雀は、こちらのクッキーど、どうどしょうか?」

 姫乃は頬を赤らめ聞いてきた。


「美味しいですよ。毎日食べたいね」

 翔は姫乃の言動を理解しクッキーを褒める。


「えへへ」

 姫乃は照れながらも褒めてもらって嬉しそうに喜ぶ。


「ねー。姫乃、様があったり無かったりするけど無理しないでね!」

 朱雀は姫乃に無理しずに読んでと話す。


「い、いえ私は……」

 姫乃は恥ずかしそうに返答しようとすると、

「おーおー、俺の弟は一丁前に女を口説いてる」

 と剛がやって来た。


「何か御用ですか剛兄さん」

 朱雀は不機嫌そうに振り返り聞く。


「弟の癖に言葉は一丁前かよ。これだから次期皇帝と言われるガキは……」「いい加減にしてくださいませ」

 剛が朱雀を悪く言おうとして姫乃が大声を出し制止する。


「朱雀様を悪く言う方は許しません」

 姫乃は剛を睨む。


「侯爵の女の分際でこの俺に文句言うとは良い度胸だな!」

 剛は姫乃に矛先を変えズカズカと寄って来る。


「一閃」「ズザン」

 朱雀は無詠唱で風の刃を一直線に飛ばし、剛の前の草と数十センチの土が切れた。


「ヒッ」

 剛は尻もちを着き悲鳴を小さく上げる。


「剛兄さんこれ以上近づくなら容赦しないよ!」

 朱雀は殺気を剛に向ける。


「……なっ!」

 剛は朱雀の反応に驚き言葉を失った。以前の朱雀は言われるだけだった。


 朱雀は姫乃の前に立ち、姫乃を後ろに隠す。

「す朱雀様!」


「おお前、兄に逆らうとでも」

 剛は慌てて朱雀に刃向かっていいのかと聞く。


「ええ。ここで守れなかったら後悔しますので、それに父上にも伝えてありますので」

 朱雀は剛にハッキリ言う。


「……」

 剛は立ち上がりはしたものの数歩後ろに引いている。


「おお前、覚えてろよ!」

 置き台詞を言い剛は走り去っていった。朱雀は決め台詞言うなよーと思うのだった。


「朱雀大丈夫だった?!」

 母上が走ってきて抱きついてきた。

 

「ほはあさまふるひいへふ」

 朱雀は母の谷間に押し潰されていた。

「王妃様、朱雀様が!」

 一向に離す気がない王妃を姫乃が声をかけた。


「姫乃ちゃんも大丈夫だった?!」

 今度は姫乃に抱きついた。


「ほぇー」

 姫乃は王妃の谷間に押し潰されびっくりした声を漏らした。


「母上それ以上は姫乃が死んじゃいます!」

 解放された朱雀が姫乃の腕を引っ張り救出する。


「ぷはぁ」

 救出された姫乃は息を吐き出した。


「オホン。大丈夫なのね?!」

 王妃は落ち着きを取り戻し、再び朱雀と姫乃に聞く。


「はい。大丈夫です。最後がなければ」

 朱雀は素直に言い、姫乃はコクコクと頷く。


「ごめんなさい」

 王妃はシュンってなった。


「い、いえ」「母上なぜここに?」

 姫乃は慌てて大丈夫と言い、朱雀は話を変えた。


「奈々が大慌てでやって来たからよ!」

 王妃はドヤ顔で答えた。


「えっ!えーっと!」

 朱雀は周りを見るが奈々の姿が無かった。


「母上。奈々は?」「ギュッ」

 朱雀は王妃に奈々はどこに居るかと聞く。何故か右腕が締め付けられるのを感じる翔は腕を見る。


「姫乃!!」

 朱雀は姫乃が腕にしがみついていることに気づく。

 姫乃の小さな胸が当たっていた。


「知りません」

 姫乃はプクーッと頬を膨らませて外方を向いた。


「あらあらー」

 王妃はニヤニヤして朱雀の肩をポンポン叩く。


「母上行儀が」

 朱雀は王妃に叩くのを止めるように遠回しに言う。


「そんなこと言う暇あるのかなー?」

 王妃はニヤニヤしながら朱雀に言う。


「ゔっ」

 朱雀は姫乃のご機嫌取りをするのだった。

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