第3話 世界の管理者

「くそ。よりによって器用貧乏の魔法剣士とはな。愚図だゴミだとは思っていたが、ここまで使えないとは」


「申し訳ありません」


「はっ。帰ったら覚悟するんだな」


 父上の反応を見るに、よほど俺の職業が気に食わなかったようで、最早俺のことを視界にすら入れたくないのか、窓の外を見たまま動こうともしない。


(はぁ。いよいよ追い出されるかな。いや、最悪殺されるかも)


 父上がここまで怒っている理由は、魔法剣士という職業にある。


 魔法剣士とは魔法と剣術で戦うことのできる職業なのだが、剣術はDランクの剣士より少し強いくらいで、魔法は二属性しか使えないという中途半端さから、世間では器用貧乏と言われている。


(けど、父上にはあのギフトというのが見えてないのかな?)


 仮にギフトというのが父上に見えていた場合、ここまで機嫌を悪くすることもなく、もう少し様子を見ようとしていたかもしれないが、今の彼の雰囲気はすぐにでも俺を殺しそうな勢いだった。


(よく分からないけど、今後はさらに荒れそうだな)


 ギフトについては分からないことだらけだが、一つだけ分かることがあるとすれば、それは今後はさらに屋敷での生活が辛くなるだろうということだけだった。





 馬車が屋敷に到着すると、父上は俺と同じ空間にいたくないのかすぐに馬車から降りていき、中に入るなり大声でメイドや執事たちに指示を出す。


「おい!誰かあのゴミを地下牢に放り込んでおけ!それと、食事と水も一切与えることを禁ずる!仮に命令を無視したやつがいれば、そいつは即刻首を刎ねてやる!ノア!」


「はい」


「貴様のようなゴミは我がフォルメノ公爵家には必要ない!その魔力があれば多少は使えるかもしれんと思っていたが、職業もゴミでは何の役にも立たん!死ぬまで私たちに迷惑をかけたことを謝罪しながら死ね!こいつを連れて行け!」


 父上が怒鳴りながら執事たちに指示を出すと、彼らは無表情のまま俺の両腕を押さえ、まるで罪人でも連れていくかのように地下牢へと連れていく。


 そして、しばらく歩いて地下牢へと入れられた俺は、カビたベッドに腰掛けながら今の状況に諦観した。


「はぁ。これで俺の人生も終わりかな。母上、ようやくあなたに会えそうです。そうしたら、昔のように俺のことを撫でてくれますか?」


 俺はそんなあり得ないことに期待をしながら埃が舞う牢屋の中を眺めていると、ふとステータスのことが気になり、改めてステータスを確認してみることにした。


「ステータスオープン」


※※※※※


【名前】ノア・フォルメノ

【年齢】12歳

【種族】人族

【職業】貴族・魔法剣士

【レベル】1


【スキル】

〈剣術(レベル1)〉〈身体強化(レベル1)〉


【ギフト】(隠蔽状態)

世界の管理者アカシック・レコード(レベル1)〉

〈神眼(レベル1)〉〈成長速度上昇(レベル1)〉〈完全記憶(レベル1)〉〈成長限界突破〉〈スキル獲得制限無効(レベル1)〉


【称号】

世界を救いし者

元主人公


※※※※※


「これ、本当にどういうことなんだろう?」


 カビたベッドに横になった俺は、改めてステータスを開くと、一つ一つ確認しながらギフトと書かれたところで目を止める。


「ギフトなんて聞いたことないんだよね。これは何なんだろか。それに、称号も初めて見たけど、二つとも心当たりがないし意味もわからない」


 職業選定の儀で神から授けられるのは、職業と初期のスキルのみで、今回のようにギフトや称号を貰ったという話は聞いたことがなかった。


「称号は何かを成し遂げて周りが呼び始めたり、神様が功績を認めたら付くなんて聞いたことはあるけど、ギフトは加護みたいなものかな」


 称号は、例えばドラゴンを倒した冒険者がいた場合、その冒険者を周りがドラゴンスレイヤーと呼び始めれば、自然と称号として付く場合があるらしい。


 あとは魔物を一定数倒したりダンジョンを攻略すれば、神様がその功績を認めて称号をくれるなんてことも聞いたことがある。


 しかし、俺のように最初から称号が付いていたなんてことは聞いたことがないし、元主人公や世界を救いし者なんて言われても、まったく心当たりが無かった。


 また加護についてだが、神が特別にその人に力を与えることを加護といい、治癒の女神の加護であれば治癒能力が上がったり、軍神の加護であれば戦闘技術や攻撃力が上がったりする。


「けど、加護って書いてるわけじゃないからやっぱり違うのかな」


俺はいろいろと考えながらステータスを眺めていると、神眼というものが気になり声に出して呟いてみる。


「神眼…ん?」


※※※※※


【名前】ノア・フォルメノ

【年齢】12歳

【種族】人族

【職業】貴族・魔法剣士

【レベル】1


【スキル】

〈剣術(レベル1/10)〉

・剣の扱いが上手くなる


〈身体強化(レベル1/10)〉

・身体能力が上昇し、素早く動くことができるようになる


【ギフト】(隠蔽状態)

世界の管理者アカシック・レコード(レベル1/5)〉

・現在の世界の記録を確認することが可能。制限あり(現在はゲーム時の記録のみ確認可能)


〈神眼(レベル1/10)〉

・スキルの鑑定が可能。対象のステータスの簡易鑑定が可能。


〈成長速度上昇(レベル1/10)〉

・獲得経験値が上昇:1.1倍


〈完全記憶(レベル1/3)〉

・一度見た動きや本などの知識を記憶することができる


〈成長限界突破(レベル10/10)〉

・限界レベルの上限解放。レベル制限無し


〈スキル獲得制限無効(レベル1/25)〉

・スキルの獲得制限を解除。職業問わずスキルを低確率で獲得が可能:3%


【称号】

世界を救いし者

・世界を救った者に与えられる称号


元主人公

・役目を終えた元主人公に与えられる称号


※※※※※


「もしかしてこれ、スキルとギフトの説明かな?」


 最初は書かれている内容がよく分からなかったが、しっかりと見てみると、スキルの詳細やレベルの上限、そしてギフトに関しては詳細と効果が書かれていた。


「詳細が見られたのは神眼の効果ということ?」


 俺は神眼の効果を見てみると、そこにはスキルの鑑定が可能と書かれており、おそらくその効果でスキルの効果と最大レベルが確認できるようになったのだろうと推測する。


「そうなると、次に気になるのはギフトたちだよね。スキル獲得制限無効とか完全記憶とかは効果を見ればなんとなく理解できるけど、世界の管理者アカシック・レコードって何なんだろ」


『お知らせいたします。個体名ノアの呼びかけを確認』


「うん?急に声が…誰?」


 俺以外には誰もいないはずの牢屋の中、突然どこからか女性の声が聞こえたので、俺は少し警戒しながら周囲を確認する。


『私は世界の管理者、アカシック・レコード。個体名ノアの呼びかけに応じ、あなたの頭の中に直接話しかけています』


「アカシック…レコード。もしかして、ギフトの?」


「是。私はあなたに与えられたギフト、『世界の管理者アカシック・レコード』であり、『世界の統括者アカシック・レコード』でもあります」


 どうやら俺に話しかけてきたのはギフトである世界の管理者のようで、その声は無機質に淡々と話を進めていく。


『個体名ノア。何か質問はありますか』


「質問っていうか、聞きたいことだらけなんだけど…まずギフトってなにかな?」


『ギフトとは、世界と統括者が個体名ノアに褒賞として与えたものであり、この世界でいう加護よりもより上位の力になります』


「なんでそんなものが俺に…というか、世界の管理者と世界の統括者って言ってたけど、何か違うの?」


『世界の管理者と世界の統括者では、役割が違います。世界の統括者は、この星のみならず、すべての世界、すべての惑星の事象を記録し管理しています。


 しかし、世界の管理者は世界の統括者よりこの世界についての記録のみをコピーして切り離し、その記録をギフトとして個体名ノアに与えられたものになります。


 したがって、世界の管理者とは個体名ノアをサポートするために作られたギフトであり、私の役割はこの世界の記録を使用し、あなたをサポートすることにあります』


「この世界とは違う世界?」


『是。世界とは、現在個体名ノアが存在しているこの世界の他にも存在します。その世界を創り、管理しているのが私の本体である世界の統括者です』


「ん?世界を創っているのは神様じゃないの?創造神のミルティネア様とか」


『否。神とは、世界の統括者より生まれた各世界の調停者であり、その役割は世界の均衡を保つことにあります。この世界でいうのなら、魔皇が現れた場合、対抗手段として勇者を登場させるなどで、その逆もまた然りです』


「逆ってことは、勇者が現れた場合には魔皇を登場させるってこと?どうしてそんなことを」


『世界の均衡を保つためです。勇者が現れ、魔皇が現れない場合、人族たちは魔族を滅ぼすでしょう。そうならないよう、世界の均衡を保つ必要があるのです』


「意味がわからない」


 魔族がいなくなれば世界は平和になるはずなのに、世界の管理者が言う神たちが、均衡を保つために魔皇を生み出していると言うのは、俺にはよく理解できなかった。


『当然です。あなたはまだこの世界の記録について何も知らない。何故人族と魔族が長い間争ってきたのか、その行き着く先は何なのか。今のあなたは何も理解できていないのです。よって、これより世界の記録の一部をあなたの記憶にコピーします。死なないように耐えてください』


「は?死なないようにって…」


『では、始めます』


「ちょっ!まっ!ぐあぁぁぁぁあ!!!!」


『世界の管理者より世界の統括者へ、個体名ノアがいる地下牢に遮音魔法の使用許可を要請します』


『世界の統括者より世界の管理者へ、遮音魔法の使用を許可します』


『了。世界の管理者の権限により、この地下牢に遮音魔法を展開します……成功。以降、この地下牢から音が漏れることはありません。個体名ノア。良い夢を………』


 俺は薄れゆく意識の中、無機質な声でそう告げる世界の管理者の言葉を最後に、激しい頭痛から逃げるように意識を失うのであった。






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