第4話 ゲームの主人公

 帝国歴985年。この日、俺はついに目的の一つであるアマルティア帝国学園に通うことになった。


「師匠。必ず強くなってあなたの仇を取ります」


 今から約二年前。公爵家を追い出された俺は、死にかけていたところを師匠に拾われ、それ以降は師匠に鍛えてもらいながら生活をしていた。


 師匠は武術も魔法も天才的な人で、修行は厳しかったが、それでも俺の職業を馬鹿にすることなく鍛えてくれた。


 おかげで俺は、同世代では誰にも負けないくらい強い力と技術を身につけることができたが、それが慢心へと繋がってしまった。


 ある日、師匠と二人でダンジョンを攻略していた時、俺がミスをしてしまい、俺と師匠は魔物が大量にいる場所へと強制転移させられてしまう。


 その空間は魔法封印により魔法を使用することができず、その上師匠ですら手こずる魔物が何体もいた。


 師匠と俺は何とかスキルと武器を使って戦ったが、俺が体力尽きたところを魔物に襲われてしまい、それを師匠が身を挺して守ってくれた。


 そして、師匠は最後の切り札として持っていた結界用魔道具で俺のことを守ると、優しく抱きしめてから一人で魔物の群れへと挑んでいった。


 その後、師匠は自爆用の魔道具で残った魔物を道連れに自爆すると、俺だけが元いた場所へと転移させられる。


 俺はしばらくの間現実を受け入れることができず、師匠が戻ってくるはずだと信じてその場で待ち続けたが、結局師匠が姿を現すことはなかった。


「俺は、今度こそ大切な人を守れるように強くなる。そして、魔物も魔物を作り出す魔族もこの世から消し去るんだ」


 俺は師匠を失ってから立てた誓いをもう一度胸に刻むと、学園へと足を踏み入れた。





 学園に入学して早くも二ヶ月が経った。この二ヶ月間、俺は必死になって強くなる努力をしてきた。


 幸いにも、師匠の厳しい修行に耐えてきたおかげで実力はかなり高くなっており、学園内でも上位の強さだった。


 アマルティア帝国学園の授業は学科によって内容が異なり、大きく分けて貴族たちが通う貴族科、帝国騎士団を目指すための騎士科、魔法を学ぶための魔法科、商人になるための商業科、そして冒険者を目指す冒険科の5つがある。


 その中でも俺が入学したのは冒険科で、騎士科に入学することも考えたが、俺は自身の望みを叶えるために冒険科に入学することにした。


 仮に騎士科に入学した場合、卒業後は騎士として帝国騎士団に所属することになるか、辺境で騎士として働くことになり自由がなくなる。


 そうなると、俺の目的である魔物と魔族を滅ぼすという誓いを達成することができなくなってしまう。


 しかし、冒険科であれば冒険者として必要な知識を授業で学ぶことができるし、何より授業でダンジョンに潜ることができるのは今後の成長のためにも大きいと言えた。


「ごめん!仕留め損ねた!」


「任せろ!俺が敵の気を引くから、イリアはそのまま魔法での後方支援を頼む!」


「任せて!」


 俺たちは現在、授業の課題であるダンジョンの攻略に挑んでおり、このダンジョンの奥にある宝物を一つ持って帰るのが今回の課題だった。


 学園に入学後、俺は公爵家にいた頃の幼馴染であるイリアと何故か冒険科で再会すると、その後は二人でパーティを組んで行動していた。


 イリアは職業選定の儀で大魔導士の職業を授かっており、この二年間は公爵家で俺の元父親に魔法を教えられてきたそうだ。


「よし。これで全部倒せたな」


「うん。ごめんね、あたしが倒し損ねちゃって」


「気にするな。おかげでレベルも上がったしな」


 普通、パーティは五人から六人で組むのが基本だが、生憎と俺たちの実力について来れる生徒がおらず、結果的に二人だけでパーティを組むことになった。


「それじゃあイリア。少し休んでから先に進もう」


俺たちはその後、適度に休憩を挟みながらダンジョンの攻略を進めていき、入学から三ヶ月かけ、ようやく50階層あるダンジョンを完全攻略することができたのであった。





 それからも俺たちは順調に力を付けていき、いくつかのトラブルを乗り越えながら忙しい日々を過ごしていると、入学してから半年ほどが経った頃に学園長から呼び出された。


「ふむ。今日は急に呼び出してすまなかったね」


「いえ、問題ありません。何かありましたか?」


「ありがとう。実はな、お前たちの頑張りを見て、是非ともあれに挑戦してほしいと思ってな」


「あれ…って、もしかして英雄武器と聖武器ですか?」


「その通り」


 この世界には、英雄武器と聖武器と呼ばれる特殊な武器たちが存在する。


 英雄武器とは、過去の英雄たちが代々使ってきた武器で、多くの使用者たちに強い意志を持って使われてきたことで英霊たちの意思と強い力が宿り、自ら使用者を選ぶため自我を持つようになった武器だ。


 また、聖武器は神が作り出したと言われる聖遺物で、秘められている力は英雄武器以上だが、その力を引き出すためには、自身の成長と聖武器自体の成長が重要となってくる。


 そして、聖武器に選ばれるためには清い心と並外れた実力が必要であると言われている。


「お言葉をいただけて嬉しいのですが、俺たちの実力はまだどちらにも挑戦できるほど高くはないと思うのですが、大丈夫でしょうか」


 入学してからの半年間、俺たちは強くなりたい一心で頑張ってきた。


 その甲斐もあって、入学当初よりもさらに強くなることができたとは思っているが、英雄武器や聖武器たちは違う。


 これらの武器に挑戦するには、俺たちの実力ではまだまだ足りない。


「はっはっ。確かにあれらの武器を今のお前たちが使いこなすのは無理だろう。だが、あの武器たちが見ているのは未来のお前たちだ。未来のお前たちが可能だと判断されれば、きっとあの武器たちはお前たちに答えてくれる」


「未来の俺たち?」


「その通り。あの武器たちは自分たちを使った場合、その者がどのような経験をし、どのような未来に行き着くのかを見ている。つまり、試されているのは今の実力ではなく未来のお前たちの実力と言うわけだ」


「な、なら…どうして挑戦者を選ぶためのルールに一定の実力を持つ者とあるのですか?」


「それはな。実力が伴っていない者が挑戦すると、あれらの武器が未来を見ている間に、その力に飲み込まれて死んでしまうからだ。だから、挑戦者については慎重に選ぶ決まりとなっているのだよ」


「そういうことだったんですね」


 俺は学園長の説明に納得すると同時に、その一定の実力者として認められたことが嬉しくて、思わず笑みが溢れてしまう。


「嬉しそうだな。では、さっそくだが明日にでも皇城の方に行ってくれ。話は私の方からしておくからな」


「わかりました」


 俺たちは学園長にお礼を言ってから部屋を出ると、その日は学食でちょっとしたお祝いを行い、明日に備えて早めに休むのであった。





 夜が明けて翌日になり、俺たちは指定されたお昼頃に皇城の前へときていた。


「俺、緊張してきたよ」


「あたしも緊張してきちゃった」


「ふぅ。でも緊張はするけど、いつまでもここで足を止めているわけにもいかない。中へ入ろう」


 俺は意を決して門兵に声をかけると、学園長に渡されていた入場許可証を見せて中へと入り、門兵の男性にそのまま道を案内してもらう。


「公爵家も立派だった記憶があるけど、皇城は別格だな」


「そうだね。あたしのお屋敷なんて、比べるのすら烏滸がましいよ」


 俺たちは初めて入る皇城の中を見渡しながら中を歩いていくと、豪華な装飾が施された巨大な扉の前で足を止める。


「ここは武器庫になります。英雄武器および聖武器はこの中で保管されており、武器に選ばれた場合にのみ持ち出すことが可能です」


「そうなんですね。ちなみに、無理に取り出したらどうなるんですか?」


「死にます」


「え?」


「この部屋には特殊な魔法がかけられており、勝手に中の物を持ち出そうとした場合、その者は死にます」


 一瞬だけ冗談かとも思ったが、門兵の表情があまりにも真剣だったため、その言葉が嘘じゃないことが伝わってくる。


「聖武器たちに挑戦するときの詳細は、中にいるこの武器庫の管理人から聞いてください。では、私はこれで失礼します」


 門兵がそう言って持ち場へと戻っていくと、俺とイリアは緊張した表情で頷き合い、巨大な武器庫の扉を開けて中へと入るのであった。






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