第6話 アミーラ村へ

「あっはは! 久しぶりだなヘレ、ラリー! おいおいそんなに舐めるなよ、今日も羽艶がよくて綺麗だぞ、よしよし、いい子だ!」


甘えてじゃれつく騎獣たちをルカートは楽しげに相手する。

飼い主のヨルや、俺にだってここまで懐いていない。

昔から相手の警戒を解かせることに関しては本当に得意だな。ルカートは動物にもやたら好かれやすい。


この二頭の魔獣はドーという。

調教を行い、人が扱えるようにした魔獣を『騎獣』と呼称する。

ドーは明るく大らかで、魔獣にしては社交的な性質を持っているが、気分屋で扱うにはコツがいる。

他にいる騎獣はピオスというウマ型の魔獣だ。

体力と持久力があり、長距離かつ荷物が多い移動時に重宝する。扱いはドーよりは容易い。

騎獣は戦力としても見込める、高価で手間もかかるが、それでも所持するだけの価値はある。


「ルカートさんのせいで、ミアたちまでこいつらのこと、その名前で呼ばなくちゃならなくなったんですよ」

「いいじゃないか、騎獣は購入時に名付けて主従の縛りを持たせるものだ、それが名前が無いなんて聞いたことないぞ」

「名前はある、そっちが一、こっちが二だと前にも言った」

「それは名前じゃない、数だ、こいつらだって納得しないだろ」

「そういうものですかねえ」

「そういうものさ、ミアちゃん」

「でも騎獣の名前なんて区別がつけばどうでもいいと思うんですけどね」


同感だな。

まあいい、さっさと鞍を取りつけよう。

鞍に荷物を括り、背に跨って手綱を掴み、放牧場を出る。

ミアは裏手の柵のところまでついてきて「師匠の留守はしっかりお守りします」と長い尻尾を揺らす。


「明後日には戻る」

「はーい、そうだルカさん、ツケは本日中に必ずお支払いしておきます」

「有難うミアちゃん!」

「なので、ミアへの手間賃よろしくお願いしますね、お土産期待しています」

「え」

「それではお気をつけて、ご武運を、いってらっしゃいませ!」

「み、ミアちゃんッ」

「ほら行くぞ、ついてこい下働き」

「おい待て、誰が下働きだ、今の発言は取り消せ、エリーッ、おい!」


鐙でドーの腹を軽く圧迫して走らせる。

機嫌よく駆け出した俺のドーの後ろから、ルカートのドーも軽快な足取りでついてくる。

明日も雨の予報は無かったな、この分なら帰宅するまで天気の心配もしなくて済みそうだ。


「なあエリー、アミーラへはどう向かうんだ?」

「戦闘に時間を取られたくない」

「だったら魔物や野盗が出やすい森は迂回しよう、南は、ええと、あっちの方角だな」


俺達はこの辺りの地形を大体把握している。

太陽の高さ、影の位置で方角を見極め、森にはなるべく踏み込まないようにしつつ、南方のアミーラ村を目指す。


昼頃になって、休憩を取ることにした。

適当な木陰でドーたちを繋ぎ、水筒の水を飲む。

昼食用に用意してきた堅パンのサンドイッチ、具に肉と酢漬けにした細切りのキャベツを挟んであり、量の割に食べ応えがある。


「これ、君が作ったんだろ?」

「ああ」

「エリーは肉が好きだもんな、逆に香草とか香りの強い野菜は苦手だよな」

「今は食べられる」

「タマネギもか?」

「あれは人が食べるものじゃない」

「ははッ、好き嫌いはよくないぞ?」

「食べると下すんだ、だから食べない、食べられないわけじゃない」

「そうか、そうだったな、体質ばかりは仕方ないよな、ちなみに僕は変わらず何でも食べられるし、腹も滅多に下さない」

「苦味は苦手だろう」

「君だって苦いのは嫌がるじゃないか、コーヒーにミルクは必須だろ」

「ブラックのまま飲む奴の気が知れない」

「それは同感だな」


休憩を終えて、またドーを駆って進む。

陽がある間になるべく距離を稼いでおきたい、村への到着後、グレボアの討伐にかかる時間を考慮すると、帰宅は明後日の夕方か、夜頃だろうか。

代理店主の俺まで長く店を開けておくわけにいかないからな。


やがて太陽が西へ沈み、そろそろ野営する頃合いだろうと場所を探す。

おあつらえ向きの大きな倒木の傍で一夜明かすことにした。

火を起こし、夜目の利く俺が薪を探す間、ルカートに簡易結界を張らせておく。


ここまでの間、何度か魔物に襲われた。

野党が出なかったのが幸いだ、場合によっては通報の義務が発生して時間を取られるからな。

空を飛ぶ魔獣、ドーの脚力に追いつく足の速さを持つ魔獣。

ルカートが片っ端から矢で射て追い払った。

訓練すれば大抵は騎獣の背に跨ったまま矢を射れるようになるが、それを中てるとなると更なる修練、そして素質が必要になってくる。

百発百中とまではいかないが、ほぼ的中させるルカートの才能は相当なものだ。


「おかえりエリー、あれ、薪だけじゃなくウサギも捕まえたのか」

「捌いてくる」

「分かった、それじゃ僕は豆を煮ておくよ、ウサギ肉のスープにしよう」

「任せた」

「ああ、美味いスープにしてやるぞ」


捌いた後の残り、皮は血を拭って簡単になめしておく。

使わない部位は穴を掘って埋める。こうしておかないと野生動物や魔獣が血の臭いにつられて集まってくるからな。


「よーし、スープができたぞ」


ウサギ肉がたっぷり入った豆のスープだ。

美味そうな匂いで食欲が湧いてくる。


「はい、どうぞ」

「ん、いただきます」

「いただきます、はぁ、疲れた体に染みるなあ」

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