第14話 絶賛実況生配信中

 絶賛実況生配信オンエア中。


 その俺の言葉に、天沼が固まる。


「……は?」

「俺は配信者ではないが、彼女は配信者だ。現在、彼女のチャンネルで、音声だけではあるが、生配信している」


 俺の言葉に、白咲さんはスマホを取り出す。


『おっやっと画面映った』

『すごい展開』

『呪術師ってガチ?』

『見てますか天沼先生!』

『協会に通報しましたwww』

『いやーダンジョン病と偽って呪いかけてたとかこれまずいだろ』

『ダンジョン病診る医者って支援金出てたよな?』

『つまり普通に詐欺』

『自白してたしなあ……』

『今同接すごい伸びてるwwwww』

『切り抜き動画拡散しときました!』

『俺も拡散してきた』


 コメントがものすごい勢いで流れていた。


 そう、全て最初から段取りして置いた事だ。

 彼女のスマホには俺が前もって隠蔽の呪術を仕込んでおいた。

 そして音声だけで生配信していたわけである。

 前もって天沼にばれぬように、事前通告なしの突発ゲリラ配信ではあったが、効果はあったようだ。


「呪術師天沼秀。お前が青崎姉妹が苦しむ姿を見て愉しみたい、ただそれだけのために姉妹に呪詛をかけ、ダンジョン病と偽り苦しめた事実。

 全てお前の自白、それは記録され配信され周知の事実となった。

 もはや言い逃れはできん」

「お……おおおおおおおおおっ! 私は、なんてことを……!」


 天沼は力なく膝から崩れ落ちた。


「くそ、クソがぁ!」


 そして頭を掻き毟る。


「……と言うと思ったか?」


 そして、顔を上げて笑った。


「あーあ、嫌になるよ。だがな、忘れてはいないか? お姉ちゃんにかけた呪病はそのままだ。ああ、術者の俺にはわかる、術式は崩されていない。

 大方、症状を見て呪病と判断してカマかけにきてたってところだろう。

 確信があるなら、判別出来てるなら、解呪するはずだからな!」



 天沼は笑った。なるほど。

「俺の指先ひとつで、猫鬼はすぐにでも青崎純花を殺せる。わかるだろ?」

「ああ」


 俺は頷く。そして言った。


「好きにするがいい」

「……は?」

「好きにしろ、と言った。確かにお前の用意した術式には俺は一切手を触れていない、弄っていない。そのままにしてある。

 その気になればいつだって殺せるだろう。

 ならやってみればいい。俺は構わぬ、好きにしろ」

「お、おい! 正気かお前!?」


 天沼が俺を見る。その目は、信じられないモノを見る目だ。

 俺はそれに言った。


「ああ。人質など、俺には通じん」

「なっ!?」


 天沼が驚きの声を上げる。俺は言った。


「……なんだ、口だけの雑魚だったか」


 その俺のため息に、天沼は叫んだ。


「脅しだと思ったか? やってやるよ! 俺は今までも何人もこれで殺してきたからなあ! はい、発動、はい死んだぁ!」


 天沼は指を鳴らし、笑った。


「……白咲さん」


 俺は彼女に言う。


「はーい」


 白咲さんはスマホを操作し、画面を出す。

 そこには、無人の部屋が映し出されていた。


「……あ?」


 天沼の笑いが止まる。

 そこみは純花さんの部屋だ。そしてベッドの上には……腐った紙の人形が置いてあった。


「……! てめえ!」

「嘘は言っていない。俺はお前の用意した術式を何ひとつ弄ってはいない。

 ただ、標的の身代わりを用意しただけだ」


 この呪詛は、青崎邸に呪詛を飛ばし、彼女の部屋に呪力を誘導・収束して中にいる者を攻撃する術式だった。

 そう、青崎純花個人にかけたものではなく、場所に仕掛けられた呪いであった。

 俺はそれを利用したのだ。


 純花さんを外に出し、身代わりの形代を用意する。

 身代わり人形は呪詛対策のオーソドックスな手段のひとつだ。


 それに引っかかるとは……。


「お前、大した呪術師ではあるまい」


 真の実力者、卓越した者ならば俺が術式の基点に触れただけで何らかの反応はあっただろう。しかしそれはなかった。

 あくまでも素人相手を呪っているとたかをくくり、手を抜いたか。それとも――その程度の実力だったかだ。


『流石ユキちゃんの師匠毒舌wwwww』

『兄弟子だろ』

『アホ沼さん口だけっすねwww』

『今どんな気持ちっすかwww』

『ざまあwww』

『こいつ口だけっぽかったしな』

『やっぱりクソ雑魚だったやん』


 コメント欄も盛り上がっていた。

 俺は天沼に言う。


「終わりだ、三流呪術師。大人しく縄につくがいい」

「三流だと……!?」


 天沼は怒り心頭の表情を見せる。だが、すぐに平静を取り戻し、笑う。


「く、くくくく。だがな、縄につけと言われてもね。知らないのか、呪いは不能犯。呪った事で罰を与えることはできないんだぞ?」

「それがどうした」


 俺は言う。


「表の世界の司法、警察に突き出す事のみが縄に着く事を指すわけではない。貴様ならば知っているだろう。それとも――それすら知らぬ程度の、五流呪術師か?」

「……っ」


 天沼が言葉に詰まる。俺がそれを知らないはずがないと理解したのだろう。

 そう、呪いは不能犯――つまり証拠がない。仮に呪ったとして、それが真実なのかどうかを立証する事が難しいのだ。

 警察機構に訴えてもまず取り合ってはくれまい。


 あえて立件するならば、「呪う」事を相手に知らしめることで精神的に追い詰め、「呪われている」事を周知させることで社会的地位を貶める――脅迫罪や名誉棄損、営業妨害などだが、いずれも微罪で終わってしまうだろう。


 だがそれは表の世界の事だ。

 裏社会、闇の世界では――その限りではない。


「ふ……ふふふ」


 天沼は歪んだ笑みを浮かべた。


「ああ、そうだな。これは困った。ああ、これはもう逃亡するしかないではないか」

「逃がすと、思うか」

「違うな。逃がさないのは――こちらのほうだよ!」


 そして天沼は手印を組み、術を発動させた。

 咒を唱えてはいない。元々仕組んでいた術具を起動させたか。

 部屋が――歪む。


 否、空間が歪んだのだ。

 ぐにゃりとねじまがったと思うと、伸び、広くなる。天沼の姿が一瞬にして遠くなり、そして畳や箪笥、壁、天井が複雑に形を変えていく。


「な、なんなんですかこれっ!」

「ひ、ひゃあああっ!」


 二人が叫ぶ。


「ぬう――」


 知っている。

 これは――結界呪術だ。

 幽宮結界咒かくりのみやむすびのかいじゅ――一時的に、異界の迷宮を作り出す呪術。


 俺達は――それに飲み込まれたのだった。


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追放された最強呪術師はダンジョン美少女受肉おじさん 十凪高志 @unagiakitaka

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