第6話 ユキの初配信
454:名無しの探索さん
なあなあこれマジかな? →http://www.....
455:名無しの探索さん
釣りでしょ
456:名無しの探索さん
>>455 いや、ガチならとんでもない事だけどなこれ。
あの【黒蜥蜴ユキ】だぞ
457:名無しの探索さん
フェイク動画じゃなくて?
458:名無しの探索さん
フェイクじゃないな。可憐ちゃんの動画で使われてた画像もあるけど大半が初出だったぞ
459:名無しの探索さん
俺も見たよこれ。本物だ。CGとかじゃないガチだろ
460:名無しの探索さん
なら俺、明日黒蜥蜴ちゃんに会いに行くわ。
461:名無しの探索さん
>>460 お巡りさんこいつです。俺も行きます?
462:名無しの探索さん
いや、ガチで可愛いなこの子。
今一番推せるプレイヤーだわ
463:名無しの探索さん
お前ら推しに直接凸るのはマナー違反だぞ
つかモンスターの出るダンジョンで凸って死人出たらどうする
464:名無しの探索さん
それな
465:名無しの探索さん
わかってる言ってみただけで実際には凸らないよ
チャンネル登録はした
466:名無しの探索さん
いーやもしかしたら変装しただけって線もあるからな……
正体不明の探索者だろユキちゃんって
467:名無しの探索さん
まあ、そうかもな。
でもさ、これだけは言えるぞ。
ユキちゃんは本物の美少女だ
468:名無しの探索さん
間違いないだろ……?
469:名無しの探索さん
見たけど昨日出来たばかりのチャンネルだな……
今旬のユキちゃんだから再生数かなり伸びてるし、チャンネル登録数も凄いぞ
470:名無しの探索さん
俺は昨日からずっと眺めてるよ。
471:名無しの探索さん
もうファンじゃないかwww?
472:名無しの探索さん?
今度の配信果たしてどうなるか……
◇
土曜日。
俺はダンジョンの入り口のある施設へと来ていた。
ダンジョン探索者協会の保有するこの施設には、控室や売店、飲食店などがある。駅ビルのような感じだ。
そこで探索者カードを照会し、入場料を支払い、装備を借りる。
日本には銃刀法というものがあり、普段から武器を持ち歩く事は出来ない。美術品として認可を受けている日本刀剣類などは別だが、それ以外の武器は持ち歩けば逮捕される。
故に、ダンジョン内で扱う武具は協会からのレンタルか、あるいは協会に預けておき、ダンジョン内で使用するといった感じだ。法改正により、ダンジョン内では武具の使用は許可されている。
俺の扱う武器は、小さな銅剣である。
これは刃が付いておらず、普段から持ち歩いても問題にはならない。これは術具として作られている、俺の愛用品のひとつだ。
そして防具であるが……
「な、なんなんですか黒止さん、その服」
俺を見つけた白咲さんが言う。俺が着用しているのは、作務衣である。そしてその下には……肌に密着するボディスーツだ。
和洋折衷、というのは多少変やもしれぬが、理由がある。
「……普通の衣服だと、ダンジョンに入った途端に脱げてしまいます」
「あ、確かに……前もそうでしたね」
何しろ小柄な少女の身体になってしまうからな。
「このボディスーツは、本来のサイズ的には小学生サイズです。しかし伸縮性に富み、大人でも着用できるフリーサイズ。締め付けもきつくなく防御力にも優れています。
これであれば、ダンジョンに入って肉体が縮もうと、問題ありません。
作務衣の腰部分も、紐ではなくゴムであるフリーサイズなのでずり落ちないし、上は紐を結び直せばすみます」
この【女体化】スキルの問題点は装備の問題である。
全開はそれで女性になった時にずり落ち脱げたし、男性に戻った時は盛大にはち切れた。
だがフリーサイズの装備なら問題は無い。
「これで問題点はクリアされました」
「そうですね、私としては可愛い服着て欲しかったけど……うーん、でも作務衣ガールもありといえばアリ……かな?」
白咲さんは少し考えて、そう答えた。
「では行きましょう」
というわけで、ダンジョンへ突撃である。
俺達はダンジョンの入り口をくぐった。
◇
「はーい、というわけで初めましてっ!
えっとですね、このチャンネルは、今話題の黒蜥蜴ユキちゃんのダンジョン攻略動画生配信でーす!
私は白咲サクラ、ユキちゃんのお友達なんですよー」
白咲さんがカメラに向かって話す。
ちなみに本名は桃花だが、配信ではサクラと名乗ることにしたらしい。
喫茶店『雪桜』にちなんだそうだ。俺がユキなのでサクラだと。
『待ってた』
『え? 本物?』
『どうだろ……騙りなら潰すぞ』
『さすがに騙るバカいないだろ』
『いやこないだ出たぞ騙り、SNSでだけだが』
『あー個人情報暴かれたネカマおっさんか草』
『え?この子おっさんなの?』
『違うてwwwwwww』
画像にコメントが流れる。ふむ、前回と違って人は多いな。
同時接続者数……一万か。
これが多いのか少ないのかはわからぬが、先日の「2」に比べれば雲泥の差だろう。
「う、うわあいきなりコメント来ましたっ!
はい、疑うのも無理ないですけど、ユキちゃんですよー。
ほらユキちゃん、みんなに向かって挨拶してっ」
白咲さんは俺にカメラを向ける。
「……始めまして。黒蜥蜴ユキと申します。
この度は友人である白咲と……サクラさんに誘いを受け、配信を行う事と相成りました。
何分、慣れぬ配信活動。至らぬ事も多いと思いますが、なにとぞご容赦の程を」
「堅い! 堅いよユキちゃん、もっとフレンドリーに!」
「フレンドリー、ですか」
「うん、そうだよはいリテイク!」
生配信ではなかったのか。リテイクとは……まあよい。
気合いを入れねば。今の俺は少女なのだ。少女になりきれ。
「どうもー、黒蜥蜴ユキちゃんです。お友達のぉー、サクラちゃんに勝手に配信者として登録されてぇー、今ここにいます。なれないけどぉー、よろしくね」
「顔が無表情ー! 声のトーン平坦!! これじゃちぐはぐすぎて怖いよ!!」
失敗した。
「精一杯、ギャルを演じてみたのですが」
「うん、ユキちゃんは普段のままの方がいいかもね……」
「恐縮です」
『コント始まったぞwwww』
『棒読みwwww』
『思ってたんと違う何この子面白い』
『相方ちゃん苦労人?』
『なんだこれww』
『草生えるわwwwwwwwwww』
『これは期待www』
ふむ。
反応は良いな。
「つかみは上々、といった所のようです」
「あー、うんそうですねー。
えっとそれでは気を取り直して……
今回は初めてということで、オーソドックスに新宿ダンジョンを上層から攻略していきたいと思いますっ。それでいいですねユキちゃん」
「はい」
いつも通りやればいいということか。
「では、これより会話は無し、画面の表示も無しでお願いします。音や光はモンスターに気づかれますので。大切なのは敵に気取られぬ事です」
「だからそれだと実況生配信にならないよ!」
「そういうものですか」
「そーいうものなんです!」
「……難しいものですね」
「いや難しくないよ? 全然難しくないからね!?」
『なんだこれ』
『ユキちゃんって天然?』
『喋ってはいけない実況配信……新しいな』
『俺たちはいきなり何を見せられているのか』
「ほらーリスナーさんたちも戸惑ってるでしょ」
「ふむ。それは申し訳ありません。自分は不器用なもので」
「不器用とか関係ないと思う……
と、とにかく進みましょう。
えーと、モンスター出てないときは質問や雑談に答えていくということで……大丈夫ですよね?」
『一気に不安になってるぞ相方ちゃん』
『普段どんだけ振り回されてるのか』
『質問! 彼氏いる?』
『ぱんつ見せて』
『いきなり現れてバズったけどなんで探索者やってるの?』
質問がくる。これに答えればよいのか。
今のところモンスターは気配は無いし、問題ないだろう。
「彼氏はいません。いるはずもありません」
俺は男だからな。男色を頭から否定はせぬが、俺にその趣味はない。
「パンツは、履いていません」
下着は伸縮ボディスーツである。
「ちょっ、ユキちゃ……」
『マジかwwwwwwwwwwwww』
『見せてwwwwwww』
『本当に? 脱いで確かめてwwww』
『うおおおおおおお!!!!!!!!!!』
『キタコレwwwwwwwwww』
『みwなwぎwっwてwきwたwwwwwwwwwwwww』
『うわああああああああwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
コメントがざわついた。
ふむ、失敗しただろうか。
「さすがに見せるわけにはいきません。お見苦しい故」
『そんなことないwwwww』
『見たい是非見たいwwwwww』
『見せてwwwwwww』
「だめだから! そんなことしたら一発でBANからだめですよ!!」
「とのことです」
いくら女性になっているといえ、元は中年男性である。汚物であろう。
「次の質問に回答します。
自分がダンジョンに潜るようになった理由は、とある人物を見つけるためです」
『彼氏?』
『生き別れの兄弟とか』
『ダンジョンで出会いを求めてる?』
「いえ。組織を抜けた裏切り者。自分が追放される原因となった人物を捕らえるためです」
「え……? 黒止さん、それ初耳……というか言っていいんですかそれ!?」
「問題ないでしょう」
『ちょっと待って組織って何wwww』
『クランじゃね?』
『つまりユキちゃんはどこかの大手探索者クランの出身で』
『裏切り者を探してるってこと?』
『急に話がでっかくなってきたぞwww』
誤解が広がっている。
しかし、さすがに組織の名はここでは言えぬ。
「まあ、そのようなものです」
『悲痛な覚悟……』
『つらい運命背負ってるんだね』
『俺も協力するよ』
『がんばって』
応援された。
「……ありがとうございます。人の縁とは良いものですね」
「あーうん……ね、だから言ったでしょ? ダンジョンで人探しするのなら配信者になった方が絶対にいいって」
「確かに、ご慧眼です」
これならば思っているより早く見つかるやもしれない。
『名前の由来は?』
『こないだ可憐ちゃん助けてたけどすごく強かった……スキル何?』
「名前は……本名からもじってつけました」
実は本名であるが、まあ嘘は言っていない。
「スキルは……」
これは白咲さんから前もって言われているが、隠せと。
「【陰陽師】というスキルです」
なので当たらずとも遠からずのスキルを捏造することにした。配信で探索者カードを見せなければよいし、カードを配信で公示する義務は無い。
ダンジョン陰陽師、とするなら俺の使う術も言い訳が効くというものである。
『陰陽師?』
『初めて聞いたそんなスキル』
『レアスキルか……』
「まあ、レアなのでしょうね。
なお……むっ」
『ん?』
『どうした?』
『何か見つけた?』
「……モンスターです」
通路の先にモンスターの気配があった。
「潰します」
そう言って俺は駆けだした。
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