第13話 再度
ある春の、日が落ちた頃にそれは起きた。いたって平穏だった日々が壊れたのも、思えばそれがきっかけだったのだろう。
夕飯の支度をする家が多い時間帯だ。開いた窓からは美味しそうな匂いがしていた。
その日も、俺が産まれてすぐに事故で亡くなった父の
「おかーさん、ゆいのくるま」
「唯、静かにして」
具合が悪かったのか、俺の声が耳についたのだろう。少し
「ねー、ねーねー、ゆいのくるまが!」
聞いてくれない母に
「っ……! 静かにしなさい!」
母が怒って、おもちゃを取り上げた。俺は
俺の声に合わせるように、床がぐらついて揺れる。母が少しバランスを崩して、その場に座り込んだ。その時、何かに気が付いたようで、目を丸くさせて俺の傍に這ってくる。
「どうして!? 唯、お願い、お願いっ……泣かないで……!」
ぐらつきが
「あ……?」
けれど、俺も母も驚くしか無かった。何をされたのか、何をしたのか、お互いに把握するまでそう時間はかからなかった。
「ごめ、ごめんなさい……唯、でも、仕方ないのよ」
抱きしめたまま、母は言い聞かせるように何度も何度も謝って、遂にその瞳から涙が
「あなたにあの力は使ってほしくないの」
それ以来、母は俺を外に出すことは無くなったし、俺を
思い出したことで、俺は目の前にいる母が何をしようとしてたのか理解出来た。俺が無意識とはいえ、発動させてしまった力を
発動条件が何か、詳しくは分からない。だけど、俺を思うが故に母は
「私は、調べたのよ。研究したの。こうすれば、唯の力も
「なにを……」
「あの人のようにならないで。私の前からいなくならないで、唯……。それだけが、私の――」
母が手を伸ばす。俺を抱きしめようと伸びてくる手。
「唯!」
怜央さんの声が、少しだけ遠い。そして、ガタガタ、と地が鳴り出す。あの日の
「な、にっ……? また!? またなの!?」
「お願い止めて! 唯……!」
追いつめていると分かっていても、止められない
そんな中で、たった一つ。母の姿を見て、思う。
泣かないでよ。怖い。だってそれは、俺を見ているようだから。
「やっぱり、ダメだよ」
ぐらぐらと揺れ続けるけれど多分これは
それが母に、このような運命を歩ませたなら。
「そんなに
ここで
「……唯、お前――」
次に目が覚めた時は
意識を手放す瞬間、多くのことに終止符が打たれた、春の終わりを感じた。
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